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第六話 犬猿の仲

「雨が止まないことにはな。」

手のひらを前に出して手に落ちる雨粒を見つめる。


俺らは上野国箕輪周辺に到着後、城から少し離れた草原地帯に陣を張って作戦を練っていた。到着後すぐの雨に俺らは足を止められ思うように先に進めないでいた。


「殿、この城どう攻め落としますかな。」


近くにいた小宮山こみやま 智晴ともはるが問う。


こいつは、武芸に優れてはいるが頭は良くない。だけど、自分が違うと思ったことには違うというタイプだ。

俺の家臣団の中では厄介者扱いで、俺と衝突することもしばしば。


「正面から攻めるのは危険すぎる。夜襲を掛けるか。」


初戦はついくさが奇襲とあっては、後世まで卑怯者と言われることでしょう。」


こいつは長坂ながさか 光堅みつかた又の名を釣閑斎ちょうかんさい

俺の家臣団の中での年長者であらゆる兵法に精通している。

俺は尊敬の意を込めて辞書代わりとして使っている。


今の時代じゃ有り得ないが、この時代じゃ夜は戦をしないで自分の陣地で休むのが普通だからな。


「今は戦国の世じゃ。卑怯もクソもない。勝ったもんが偉いに決まっている。」

小宮山 智晴が反論。


「ふっ、これだから馬鹿は嫌いなのじゃ。あの城はつい最近まで長野業正ながのなりまさが守っていた城ぞ。力技で落とせるよう甘くはない。ましてやこの雨暗い中ではかえって足を取られることになるでしょう。地の利は向こうにあるのです。無謀すぎる。そのくらいものを考えて欲しいですな。」


釣閑斎が嘲笑するかのように否定する。


まずいぞ~、この流れは。


「馬鹿とは何じゃ、馬鹿とは。このクソジジイが。」

智晴が机を思いっきり叩いて立ち上がる。


「そのような言葉でしか反論できぬか。未熟じゃの。」


「なんだと。貴様だけは許せん。儂が叩ききってやるわ。」


腰の太刀のつかに手を伸ばす。


はぁ、また始まったよ。この二人の喧嘩は日常茶飯事だ。

他のみんなも本当には切りやしないことを知っているから止めに入ろうともしない。

やれやれって感じだ。


「よせよせ、二人とも。陣中で喧嘩など負け戦もいいところだぞ。」

俺が仕方なく止める。


「殿がそうおっしゃるなら今日のところは勘弁しときましょう。」

智晴は改めて座り直す。


はぁ、と釣閑斎がため息をつき、それから一言俺に向かってこう言う。


「通常、城攻めには少なくとも城兵の三倍もの兵力が必要と言われます。

わが軍の兵は500。しかし相手方は約200。少し分が悪いかと。今回は上野征討の大事な一戦を担っておりますので絶対に勝たねばなりませぬ。」


俺らは別になめていたわけじゃない。

下調べでは城兵は100にも満たないのではないかという話だった。

しかし、やはりあの長野 業正。

死ぬ間際に近くの城に応援を頼んでいたらしい。

父上が、死ぬまで上野には手を出さなかったというのにも頷ける。

今は業正の三男の業盛なりもりが城主を務めているらしいが、そいつも武芸に秀でているとの専ら(もっぱ)の噂だ。

そして、何よりもこの箕輪城は天然の要害として無類の強さを誇る。


「やはり、今手を出すのは危険すぎる。やはり、雨が止むのを待つしかない。

 止んだら、また軍議を開く。城周辺の動きに注意しろ、張りを交代で置いとくように。」


俺の言葉で軍議は終わった。



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