第三話 懐かしき躑躅ヶ崎
「久しぶりだな。ここに来るのも。」
「いつ、来ても壮観ですな。」
「そうだな。でも1年くらいじゃ、何も変わんないな。」
まぁ、修学旅行の定番地である京都とかに比べたらめっちゃ小さいけどな。
甲斐国 躑躅ヶ崎。
俺の祖父に当たる武田 信虎がこの甲府の地に築き、家臣団を住まわせ城下町を形成したことに始まる。
「しかし、お館様は何の用で呼びつけたのでしょうか。」
「それが謎なんよな。」
ここに来たのは故郷が恋しくなったとかそんな理由じゃない。
事の発端はお館様こと俺の父、戦国最強と謳われる武田 信玄からの一通の手紙である。
「少ない馬廻りと共に、府中へ参れ。」
手紙の内容はそうだった。
言われた通り俺は第一の家臣であり、俺の世話役でもある跡部 重政を筆頭に少ない家臣十数人と共にこの甲斐府中の地にやってきた。
しばらく歩いていると、前から見慣れた大男が馬に乗ってやってくる。
「これは、これは勝頼様ではありませぬか!」
身体に似合わない満面の笑みを浮かべこちらに向かってくる。
たった一年とはいえ、懐かしい顔を見てどこか安堵を覚える。
「久しぶりだな、虎昌。どうだ、元気にしていたか。」
飯富 虎昌
祖父信虎公の時代から譜代家老衆として仕え、父上からの信任も厚く、今は兄である武田 義信の世話役を任されている。
小さい頃は、よく虎昌と鬼ごっこして遊んで貰ったっけ。子ども相手にまったく容赦なかったけど。
「今日は、どういったご用件で?」
「いや、お館様からお呼びつけを受けてな。」
「お館様から?」
虎昌はその大きな首をかしげる。
おいおい、虎昌ほどの重臣でも俺が来ることを知らないって…
もしかして抹殺されるんじゃ。
そんな訳ないっていうのが武田 信玄である。
虎昌と別れた後も、何人かの武田家臣団と久しぶりの再会を果たした。
みんな元気そうで何より。
俺が館にたどり着いた時、門の前には一人の小姓が待っていた。
「お館様は既にお待ちです。お急がれ下さいませ。」
やばい、やばい、あの人は昔から遅刻にはうるさい。
俺は急いで館内の会所に向かう。
はぁはぁ、この家広すぎんだろ。着いた時には息が上がっていた。
会所の前にも小姓が焦ったように待ち構えていた。
「父上はもう中に?」
「居られます。」
「左様か。ご苦労であった。下がってよい。」
「御意。」
俺は小姓を下げると自分で戸を開ける。
うす暗い部屋の中に一気に光が差す。それと同時にある一人の男の姿が浮かび上がる。
剃髪し、口の周りに白い線が混ざりながらも立派な髭を蓄えた恰幅の良い大男。
そう、これがあの武田 信玄だ。
少しかったるい展開の話が2話ほど続きますが、お付き合いください<(_ _)>