第一話 転生ってこういうモンだっけ?
「もう4月だって言うのに長野ってやっぱり寒いんだな。」
格子窓を押し開けて外を見ると、まだあちらこちらに雪が残っている。
もう、この高遠の城に来て半年以上になるが、昼夜の寒暖差には慣れることはない。
「さむいな。風邪ひくわ。」
鈍い音を上げ、ぴったりと重なることのない窓を閉めると、俺は近くにあった火鉢の側に駆け込んだ。
「こたつが欲しいなぁ。」
遠く未来の文明の利器に思いを馳せるのだ。
考えてみれば、おかしな話である。
世に言う転生というのは、現代に住むパッとしない男子高校生が過去や異世界に生まれ変わり、チート的能力やその端麗な容姿で無双するモノである。
でも、俺の場合は…
「順番が逆だよなぁ。」
そう、俺はある男の四男として生を受け、今まで過ごしてきた。もちろん未来の令和の記憶なんて持つはずもなく。
転生したというよりは、前世ならぬ後世の記憶を先取りしたような感じ。原因は爺との稽古で頭を打ったことなのだろうが、如何せん問題がある。口調も、物の見方も大きく変わってしまった。令和の時代と戦国の今とは何もかもが違うのだから当たり前といえば当たり前なのだが。
普通、未来の記憶を持っているなら喜ばないはずはない。
だって、先のことが分かるのだから。知識だってこの時代の人間を遥かに超越している。
だけど、この場合、複雑というか…もはや、思い出したくない、忘れ去りたいレベルである。
なぜなら、俺は紛れもない武田信玄の四男 武田勝頼だから。
あの、長篠の戦いで織田・徳川にフルボッコにされる武田勝頼だから。
歴史にはあんまり詳しくない未来の俺だってこれくらいのことは知っている。
記憶が正しければ、その後武田家は織田信長によって滅ぼされる。
はぁっと息をついて、左手で髷を撫でた。
火鉢の火は細くなり、光の艶は陰をともしている。
俺は死にたくない――少なくとも信長の手によって殺されるのは勘弁だ。
分かっている、分かっているのだ。その為には、どうしなければいけないか。
答えは一つ、信長を倒すのみ。




