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錬金術師の過ごす日々  作者: らる鳥
六章

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オマケ



 両手で長杖をクルクルと回してから、ビシリと構えた。

 一歩踏み込んで槍のように突き、身を翻しては上からの叩きおろしを地面の寸前で止める。

 それからサッと杖先を横に払って、脇構えに。


 何をしているのかと言うと、ヴィールと、バーナース伯爵の子供であるクルシア、それからバーナース伯爵が抱える魔術師隊の長であるリュロイ・パッサスに、杖術の見本を見せているのだ。

 まぁ、僕の杖術は人並みで、達人って訳では決してないから、ヴィールやクルシアはともかく、リュロイに見本とかお手本っていうのは流石におこがましいんだけれども。

 剣と同じく初心者への手ほどきくらいは、可能だった。

 いや、初心者への手ほどきこそが一番難しいなあって感じる時もあるから、どうにかこなせるって程度なのだが。

 嗜みとして実家のキューチェ家で仕込まれた程度の僕よりも、もしかすると魔術杖式を使ってたディーチェの方が、杖術の腕前は上かもしれない。


 まぁ僕の腕前はさておき、どうして急に杖術の手本なんて見せているのかと言えば、杖を使った魔術の簡略方式である、魔術杖式を扱うならば、杖術の心得があった方がベターだからである。

 実際には、それが役に立つ状況にはあまりなっちゃいけないというか、そうなった時点で失敗なんだけれど、失敗をリカバリーする方法が杖術だった。


 もう少し具体的に言うと、魔術杖式で扱うのは、火球を放つ魔術とか狙った場所を爆発させる魔術とか、離れた場所を攻撃する魔術が主だ。

 強力な攻撃を遠距離に放てるのが魔術の強みなんで、それは魔術杖式に限った事じゃないんだけれど、だからこそ基本的に、魔術師は懐に潜り込まれると弱い。

 間近の相手に焦って遠距離用の魔法で攻撃をすると、下手をすれば自分も巻き込まれるし、最悪の場合は魔術を暴走させてしまう。

 故に、近接戦闘の手段として杖術の心得があると、ほんの少しだが生き延びられる可能性が上がる。


 但し一つ注意すべき事は、術式の刻まれた杖は、振り回すくらいならともかく、それで強く何かを殴りつけたり、敵の攻撃を受け止めたりすると、刻まれた術式が破損してしまう可能性がある事だった。

 もちろんそう易々と壊れるようには作らないが、剣で切り付けられたり、魔物の爪牙を受け止めたりすると、流石に刻まれた術式に傷が付く。

 ただそれだけの事でも、本来発動する魔術が狂って、暴発する可能性はあるから。


「相手の攻撃は受け止めずに、杖で払う。あ、もちろん回避できるなら回避が一番良いよ。その上で杖の状況は常に確認。目で見て大丈夫だったら魔力を流して、それで違和感を感じれば即座に杖は手放す。手放してから暴発すれば、相手もちょっと驚いてくれたりするかもしれないしね」

 説明しながら、その状況を想定した動きをヴィールやクルシアに見せる。

 重要なのは、なるべく杖を傷付けないようにする事。

 しかしその上で、より自分の命が大切だと、いざとなれば杖を手放す勇気を持つ事だった。


 この心得は役に立たない方が良いのだ。

 そういった状況に追い込まれないように戦いの道筋を立てるべき。

 だけど戦いは、何があるかわからない。


「相手に攻撃する時もそう。この杖術を使うと相手に痛撃を与える攻撃もできるよ。例えばこんな風に」

 僕は大きく前に踏み出し、的代わりに立てた鎧に向かって杖を突き出す。

 しかしその突きは鎧の寸前でぴたりと止め、杖に刻まれた魔術、光を放つ魔術を発動させた。

 今、僕が手に持った杖は練習用で、危険のない光を放つ魔術が刻まれているが、もしもこれが火球を放つ魔術だったらどうだろうか。

 間近で放たれた火球は避ける間もなく、相手の頭部を焼き尽くすだろう。

 その攻撃は、当たり前だが杖で殴るよりもよっぽど強い。


「もちろん場合によるけれどね。爆発を起こす杖を持ってて、敵が物凄く強い魔物なら、杖を一本使い潰す心算で口の中に突き込んで、中から爆発させてやるって手もあるし。……まぁ、そういう魔物とは戦わないのが一番良いんだけど、逃げられない時もあるからね」

 本当ならそれは、貴族の子息に教えるような事じゃないかもしれないけれど、残念ながらイルミーラの貴族は他所の国とはちょっと違う。

 人と自然が戦うこの西の果てでは、貴族であっても、否、貴族であるからこそ戦わねばならない場合が多々ある。


 例えばこのアウロタレアの町が陥落するような事態になれば、バーナース伯爵は子供は逃がすだろうが、自分は最後まで雄々しく戦い命を落とす。

 何故ならそうする事で、子供達がこの町を奪還しようとする際、周囲の町や、アウロタレアの王国軍の支援が得られるようになるからだ。

 逆に町を見捨てて逃げたなら、もうその貴族には誰も見向きもしない。

 いや、貴族を名乗る事すら許されないだろう。

 アウロタレアの貴族は、武家であり、人々を導き、戦う者だ。

 バーナース伯爵は温和で戦いを好む気質ではないように見えるが、それでも間違いなくアウロタレアの貴族だから。

 その息子であるクルシアも、逃げる事が許されない時が来るかもしれない。


「戦いだけじゃないんだけど、その時その時で大切な事は変わる。杖を守って攻撃手段を確保し続けなきゃいけない時、杖を放り出してでも命を守るべき時、その時に何をすべきかは、その時にならなきゃわからない。だけど決して間違えちゃいけない。より正しい答えを得る為には、手札が多い事も重要だ。杖術はその手札の一つだと思って、練習してね」

 少し長く、それから説教臭い言葉になってしまったけれど、より良い結果を掴む為には、手札は多い方が有利だ。

 手札が多ければ、それをどう切るかで頭を悩ませる事もあるから、むやみに増やせばいいってものでもないけれど。

 今の彼らはまだその手に握る物が少なく、そしてそれらを得る為の時間は沢山あるから、質の良い手札をなるべく多く揃える手伝いを、してやりたいと思ってる。


今回の投稿は告知を兼ねたオマケとなります


本日10/27

この作品がグラストNOVELS様より

『天才錬金術師は異世界のすみっこで暮らしたい~悠々自適な辺境アトリエ生活~』

というタイトルで出版されます

お気が向かれましたらよろしくお願いします

また評価、ブクマ等もしていただけると大変嬉しいです


ハイエルフよりも以前に書いた作品ですが、続きを書いてみたら本になる話が来て、本当に驚くばかりでした

そういう幸運があったのも、応援して下さる皆さまのお陰です

本当にありがとうございます


作品が今後どうなるのかは、ちょっと今はわからないのですが、良い形になると嬉しいなぁと思います

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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍化おめでとうございます! [気になる点] やっぱりこちらは若干シビアな世界ですねぇ……。 いろいろと容赦無いところがあるのがたまらんです。 [一言] オマケが読めて嬉しいです、ありがと…
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