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錬金術師の過ごす日々  作者: らる鳥
五章

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 手に瓶を握ったヴィールが、真剣な顔でウンウンと唸ってる。

 瓶の中は色の付いた水にで満たされていて、その色は薄い赤から濃い赤を行き来していて、安定しない。


 今、ヴィールがしているのは、一定量の魔力を安定して流し込む訓練だ。

 あの水は、魔血やその他の素材を使って作った溶液で、魔力を注ぐと色が赤く染まっていく。

 そう、大樹海の、環境の魔力を測定する為に作った、試作品の一つだった。

 尤も感度が高過ぎて、微量の魔力でも色が変化してしまうから、やっぱりそのままではヴィールの魔力をコントロールする訓練にしか使えないけれども。


 まぁ、方向性は間違っていない。

 魔力の濃さを視認する為、色の変化でそれを表すというのは、それなりにだがわかり易い方法だろう。

 本当は温度計みたいに、数値でそれを表現できれば一番良いとは思ったけれど、どうにも実現は難しそうだ。

 前世の記憶では、水銀を使った温度計は、熱による水銀の膨張を利用していた覚えがある。

 元が水銀である魔血も、同じように魔力で膨張してくれればよかったのだが……、色々と試してはみたものの、満足のいく物は作れなかった。


 あの溶液の仕組みは、普段は溶液の効果で隠された魔血の特性を、魔力が引っ張り出す事で色が変化していく。

 弱い魔力なら薄く、強い魔力なら濃く、赤色が現れる。

 後は感度の調整と、どうやって計測する対象を絞るかだ。


 土や木といった環境の一部を採取し、それを溶液に浸す事で変化を起こさせ、対象の魔力を測定するのが無難だろうか。

 その場合、一つの環境で複数の採取を行った方がいい。

 あぁ、いや、そもそも環境の魔力の強い弱いが、土や木にも及んでいるかも、調べる必要があるだろう。

 それを調べる事自体は、大樹海の浅層である森と、森を抜けた大樹海の中層とで、土や木が宿す魔力の強さを比べればわかる。


 最近はあまり深く潜ってなかったけれど、僕は単独なら中層にも行けるから、それに関しては問題ない。

 ヴィールは、やっぱり預けなきゃいけないけれども。


 そこまでやれば、僕が大樹海の魔力を研究してて、その結果として南で起きる異変を、確証はないが察知して、念の為にバーナース伯爵に協力を求めたって言い訳はできあがる。

 尾美黄鳥の言葉を鵜呑みにして氾濫を予測した、では信じて貰えずとも、尾美黄鳥の言葉をヒントに大樹海の魔力を調べ始め、その結果として不完全ながら予兆らしき物を感じた……、ならば多少は信じて貰い易い筈だ。

 僕のホムンクルスであるヴィールがそれを感知、予知したんじゃ、なんて疑いを持たれる事も、ないだろう。


 本当は、モノクルタイプの、視た対象の魔力がわかる計測器なんて浪漫があるんじゃないかと思ってたけれど、中層にも行かなきゃいけないと考えると、それを完成させる時間が足りない。

 まぁ別に、それはまた今度作ればいいか。

 それこそモノクルにするなら、環境の魔力を調べるよりも、視た人や魔物の魔力を測る方が、使い道は色々と多そうだし。

 モノクルなら、縁に小さく数字を刻んで、その部分の反応のし易さに違いを付ければ、弱い魔力でも赤く染まって反応する1から、非常に強い魔力じゃないと反応しない10までといった風に、数値で計測もできそうだ。

 そんな事を考えると、いっそ今すぐモノクル型のアイテムの開発に取り掛かりたくなるけれど、いやいや、時間が足りないのはわかってるから、今はグッと我慢しよう。


 ふとヴィールを見れば、握った瓶の中の水は、やっぱり色が揺らいでた。

 でも、うん、さっきよりは、少し色の変化も穏やかだった。

 苦戦はしてるが、間違いなく成長もしている。


 僕が溶液を完全な物にして、次に大樹海の中層にまで行って、土や木に宿る魔力を調べて戻って来るのと、ヴィールが魔力のコントロールを会得するのと、一体どちらが早いだろう。

 あぁ、後はバーナース伯爵には、僕が以前から大樹海の魔力を研究してたと、だからこそその予測で精鋭兵を動かしてポーションを輸送したのだと、口裏を合わせて貰う必要もあるか。

 やる事はまだまだ多いが、道は見えた。


「ヴィール、そろそろ昼食を作るから、手伝ってくれる?」

 切りの良いところまで作業を進めた僕は、一旦手を止め、ヴィールにそう声かける。

 時間を意識すると、何故だか妙にお腹が空く。


「はーい! ねぇ、マスター、お昼なーに?」

 するとヴィールは瓶を置き、僕のところにやってきた。

 彼の手を離れた瓶の中身は、みるみる間に透明に戻る。

 どうやら長く魔力を注がれ続けても、色が定着するような変化は起こらず、ちゃんと性質を保てるらしい。


「朝の配達で卵とバターが届いてたし、パンとオムレツ……、それからサラダかな。ヴィール、魔力のコントロールは、難しい?」

 僕はヴィールと一緒に地下から一階へと上がりながら、彼にそう問う。

 変化のわかり難い、地味な訓練をさせてるから、飽きてるようなら別のメニューも考えようと思いながら。

 しかしヴィールは僕の問いに首を横に振り、

「ちょっとわかって来たから、楽しい。さっきのが上手くできるようになったら、ヴィールにもポーションが作れるんだよね」

 本当に楽しそうな笑みを浮かべて、そう言った。


 ……そうかぁ。

 これだと、思ったよりも早くヴィールは魔力のコントロールを身に付けそうだ。

 まぁ魔力のコントロールができれば、即座にポーションが作れるかって言うと、またそれはちょっと別の話だけれど、少なくとも次の訓練は、回復のポーションの作製になる。

 ただ回復のポーションの作製に関しては、流石に僕が隣に付き添ってなきゃさせてあげられない。

 これは本当に、僕も急がなきゃならなさそうだ。

 もちろん昼食を、ちゃんとしっかり食べてからの話だけれども。


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