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錬金術師の過ごす日々  作者: らる鳥
三章

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 子を持った父親の気持ちは、残念ながら僕にはわから……、ない?

 もしかしたら以前は知っていたのかも知れないけれど、少なくとも今の僕にはわからない。

 だけどその背に憧れる父から、それを否定された子供の気持ちは、容易に想像が付く。

 父が悪い訳ではないと頭ではわかっていても、どこか裏切られた様な気持ちになってしまったのだろう。

 そしてもって行き場のない感情が、その原因となった僕への敵意となって出て来てしまったのだ。


 うん、分かる。

 気持ちは分かるのだけれども、噂なんかが原因で子供に嫌われるのは、少々心が辛い。

 それに僅か六歳で僕のアトリエを探し当てた利発さと行動力には目を見張るが、スミロの父が主であるカータクラ錬金術師店とは場所も客層も違う。


 当たり前の話だけれど、僕のアトリエがある歓楽街は子供が出入りするには不向きな場所だ。

 例え昼間であっても、娼館に一晩泊まり込んだ客が帰る所に出くわしかねない。

 また僕のアトリエだって娼婦以外にも、荒くれ者の冒険者が買い物に来たりもする。

 そんな彼等も場合によっては前日の酒がまだ体に残っていたり、虫の居所が悪い時だって必ずあるだろう。

 歓楽街を守る自警団もあるけれども、子供が出入りして遊べる程に治安の良い場所では決してなかった。


 だから僕はエイローヒ神殿の孤児達に関しても、彼等がアトリエに来る事は許していない。

 エイローヒ神殿から僕への用事がある場合は、女司祭が直接来るか、自警団に頼んで連絡して貰う様にお願いがしてある。

 アトリエに来てみたいと言う子供は意外と多いのだけれども、それは彼等が大人になった時の楽しみだ。

 実際には遊びに来た所で、精々お茶で持て成す位しか出来ないのだけれど。


 恐らくスミロがここに来ている事に関しては、父親であるフーフルが何度も叱ってる筈である。

 にも拘らず今日もスミロはここに来ていて、僕は彼の頑固さに内心で溜息を吐くしかない。

 もしかしたらフーフルがここに来るのを止めれば止める程に、スミロにとっては僕に父が屈した様にでも見えるのだろうか。


 僕も交友のある娼婦達には、こんな事情で子供が来ていると伝えてそれとなく周知して貰っているが、彼女達とて暇な訳ではない。

 かと言って敵意を持たれてる僕が直接話しかけても、態度を硬化させるだけであろう事は目に見えていた。



 僕はスミロに気付かなかった風を装ってアトリエ内に戻り、棚のポーションを整理していたディーチェに声を掛ける。

「ごめん、ディーチェ。あの子また来てるから、お願いできる?」

 錬金術に関係のない雑用で彼女の手を煩わせる事は多少気が引けるが、歓楽街でスミロに何かあったら、僕も流石に寝覚めが悪い。

 それに何故か、スミロもディーチェには上手く宥められて家に帰ってくれるから、僕もついつい彼女を頼ってしまう。


 ディーチェはその言葉に少し困ったように微笑んで、

「ルービットさんなら怒ってないとは思うんですけど、どうか怒らないで上げてくださいね。あの子も色々と難しいみたいです」

 棚の整理を中断して、表へと出ていく。

 勿論、僕は怒ってはいないのだけれど、少し困ってる。


 本当はスミロの問題はフーフルが解決すべき事柄だけれど、あまりに続く様ならば何らかの対処が必要になるだろう。

 ……どうにも養子としてカータクラの家に入ったフーフルには、スミロに対して妙な遠慮がある様にも感じた。

 スミロは錬金術師の才があるカータクラの人間として祖父からの、つまりは先代からの期待も大きいそうだ。

 父と子ではあっても、外から来た人間と、内から生じた人間の扱いの差と言うのは、何か感じる物もあるのかも知れない。

 そして子は、親やその周辺の感情を、意外と敏感に察する生き物だ。


 つまりとても面倒臭い話だった。

 ディーチェもスミロと話す事で、その辺りを薄々察してるのかも知れない。

 彼女もまた、スミロとは逆方向だけれど、家に複雑な感情を持っている。

 それ故にディーチェは、彼女を戦争に利用しようとするズェロキアの貴族、フェグラー家から逃げてイルミーラまでやって来た。

 だからこそディーチェは、父との関係が拗れてしまいそうなスミロを、余計に心配しているのだろう。


 ……とは言っても正直なところ、錬金術で解決できない話に僕を巻き込まれても困る。

 錬金術で解決できる事だったら多少難しくても、入手困難な素材が必要でも、どうにかしてしまえる自信はあるのに。


 あぁ、いや、でも、……やはり僕の取り柄は錬金術だ。

 錬金術で解決できない話でも、解決を望むのであれば、錬金術で解決できる場所に話を持って来るしかない。

 僕は錬金術師で、フーフルも錬金術師。

 そしてカータクラの家は錬金術師の家系で、スミロはまだ罅すら入ってない錬金術師の卵。

 だったら、話し合いだって家族間のしがらみだって、全ては錬金術で片付く筈。


 もし明日、明日もスミロが来るようであれば、その時は一度試してみよう。

 僕のアトリエとカータクラ錬金術師店の、技術交流会を。




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