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錬金術師の過ごす日々  作者: らる鳥
一章

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 彼等は森の最内層で戦うのに、十分な実力を持っていた。

 六人組のパーティを組んでの話とは言え、猛轟猿やダイアウルフの群れを退けた実績がある。

 何より、大樹海の中層から流れて来た魔物、大鬼を狩った事すらあるのだ。


 彼等は準備を怠らなかった。

 森の中ではどんな不測の事態が起こるかわからぬと、装備は可能な限り良い物を揃え、また回復のポーション等も決して切らさない様にしていた。


 彼等は希望を持っていた。

 今はまだ、森と呼ばれる範囲を抜けられぬ身ではあるが、いずれは大樹海の中層へと辿り着き、一流と呼ばれる冒険者になりたいと。

 イルミーラの国中にその名を轟かせたいと思い、また何れはそう在れると信じていたのだ。


 ならば一体何が悪かったのか。

 一体何が足りずに、こんな事になってしまったのか。

 今、彼等の誰もが感じてるその疑問に答えるならば、彼等は、そう、きっと運が足りず、運が悪かったのだろう。


「ローニャッ!」

 パーティのリーダーである戦士、シルヴァスが警告の叫びをあげる。

 彼は剣の腕こそ並ではあるが、盾の扱いに長け、どんな魔物でも食い止めて見せると豪語していた。

 しかし今、シルヴァスの上げたのは、その自信に満ち溢れた物ではなく、焦燥に満ちたまるで悲鳴の様な叫び声。

 何故ならシルヴァスの前にも敵は居て、彼はそれを食い止めるのに精一杯で、他の前衛達はまた別の相手に苦戦していて、後衛に襲い掛かるそれを誰も止める事が出来ないから。


 ローニャと呼ばれた彼女は、咄嗟に手にした杖で振り回された拳を受け止め、余りの膂力の違いに吹き飛ばされる。

 彼女は魔術杖式と呼ばれる発動方式の魔術を使う魔術師だ。

 魔術杖式は、文字通りに魔術の術式を刻んだ杖を用いて魔術を使う。

 そしてその杖は、今、ローニャの手の中で粉々に砕け散った。


 こんな事はあり得ない。

 彼等の誰もがそう思う。

 だって彼等の目の前には、森の最内層では本来ならば一体しか現れぬはずのハグレの大鬼が、何故か五体も並んでいるから。

 六人掛かりで一体を仕留めるのがやっとの化け物が、五体も……。


 このままなら、まずは戦う手段を失ったローニャが大鬼の怪力に引き裂かれるだろう。

 けれども、もしかするとローニャはそれでもまだ、他の仲間達に比べれば幸運なのかも知れない。

 だって真っ先に死ねば、他の仲間達が一人ずつ殺されて行く姿を見ずに済むし、どうせ誰も逃げられやしないのだ。

 最終的には、皆仲良く大鬼の胃袋の中に納まる。


 でもそんな彼等に、まだ幸運が残っているとするならば、それは……。



「うわ、なんだアレ」

 僕は思わず顔を顰めてそう呟く。

 轟音と咆哮を聞き、そちらに向かって全力で駆けた僕が見たのは、五体もの大鬼が冒険者のパーティを蹂躙しつつある光景だった。


 ゴブリンやオーク、もとい小鬼や中鬼と言った魔人種の魔物は、群れを作る魔物である。

 まぁ狼も猿も、蟻や蜂も、群れを作るから別にそれ自体は魔物として珍しい特徴ではないのだけれど、魔人種は他の種類の魔物に比べて、社会性が高いらしい。

 なので実は、大鬼も例外ではなく、群れを作る魔物だ。

 しかしそんな大鬼の群れが存在するのは大樹海の中層での話で、森の最内層で大鬼が群れると言う話はあまり聞いた事がない。

 何故ならば、森の最内層に流れて来る大鬼と言うのは、群れの長に挑んで敗北し、群れを追放された挑戦者か、或いは挑戦者に敗れ去った前の長だから。


 大樹海の中層から森の最内層へと流れて来る魔物に、比較的ではあるが大鬼が多いのは、狂暴な大鬼は群れの中で長の座を巡って頻繁に争い合うからである。

 だから森の最内層へと流れて来る大鬼は、単独で、また雄しかいないのだ。


 ……では一体、目の前で冒険者を襲う五体もの大鬼は何なのか。

 考えられる可能性があるとするなら、大樹海の中層でも上位に位置する様な魔物が、大鬼の群れを襲って壊滅的な被害を与えたとしよう。

 そうなると僅かな生き残りでは群れが保有していた縄張りを維持できなくなり、揃って森の最内層へと逃げ延びて来る事も、あるかも知れない。

 尤も、大鬼の群れを壊滅させれる様な魔物は、幾ら大樹海の中層と言ってもそんなに居る物では……、否、あぁ、あぁ、居た。


 僕はふと、そんな魔物に思い当たる。 

 森を抜けて然程行かぬ、大樹海の中層の比較的浅い部分に、そんな強力な魔物が居た事を思い出す。

 そう、僕が先日、古木喰いの蜥蜴の毒を得た時に、錬金アイテムを使って何とかやり過ごした巨大な化け蛇、ホーンド・サーペントならば、大鬼の群れを十分に壊滅せしめる筈。

 まさかとは思うのだけれど、僕に顔に塗料をぶちまけられ、更にはヒュージスパイダーの糸で絡め捕られ、怒り狂ったホーンド・サーペントが暴れて周囲の魔物の縄張りを荒らし回ったなんて事が、……もしかしてあったりするのだろうか?


 いずれにしても、とりあえず彼等を助けよう。

 冒険者の生き死には自己責任との言葉があるが、流石にこれを見捨てるのは寝覚めが悪い。

 流石に命が風前の灯火となってる今の状況ならば、彼等から獲物の横取りだなんて言葉は出ないだろうし。



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