謎の預言
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!?僕達が悪党って一体どういうことだよ!?一から説明してくれ!」
「笑止!!まさかシラを切るつもりではあるまいな?だが隠したところで我には全て分かっているのだぞ!?貴様らが滅びを招く大悪党であることはなっ!!」
だから何でそうなるんだよ!僕が何をどうしたら悪人扱いにされるんだっての!?
と、ここで僕とこの男の一連の会話を聞いていたメアリーが口を開いた。
「......どうやら間違いないわ。この男はモンスターを意のままに操ることができる魔物使いよ。おそらくさっきのミミックもスライムもこの男が使役していたモンスターのようね」
「ま、魔物使い?」
魔物使いってあの魔物使いかよ......。まさか、転生していきなり戦士とか僧侶みたいな典型的なものじゃなくて、そんな珍しいジョブの名前を早くも聞くことになろうとは......、というか、全身黒のタイツというこの男の見た目からして、どっちかというと盗賊にしか見えない風貌なんだけど......。
「むう? 我の正体に気づくとはそこの女、中々の洞察力であるな? ふむ、敵にしておくには実に惜しい人材だ」
「ふん、情報を細かく整理すれば、それぐらいすぐに分かるわよ。さっきまで私達はやたらと手強いモンスター共と戦っていたわけだし、そこから魔物使いに鍛えられたモンスターという可能性を思い浮かべたにすぎないわ」
さらっと話してはいるけれど、普通にスゴい頭使ってるよな、これ?僕だったらそんなこと絶対に思い浮かばない。
「フハハハハハハハハッ!! 見事であっただろう、我が鍛えに鍛えぬいた精鋭達の力は!? しかあぁぁしっ!!!! 貴様らの手によってその精鋭達も無惨に散ってしまった!! 何てことをしてくれるのだ!?」
「知るかよっ!!つうか、そもそも何で僕達のことを狙っているんだよ?もしかして他の誰かと勘違いしてるとかじゃあないのか?」
それこそ魔王と成り果てた僕の半身(僕自身はそのことが本当なのか正直疑問に思っている)と間違えたのかもしれない。
「ふん、理由など悪党に教えるわけがないだろう。貴様らはここで我の手によって死ぬのだからな!」
......!?おいおい、マジかよ。よく見たら先ほど予想以上に苦戦を強いられた厄介なスライムが、魔物使いの後ろで列をなして集まってきていやがる。まさかスライムなんかに恐怖心を覚える日が来るとは......。
「おい、まずいぞ。いつの間にかスライムがざっと見て百体は集まってやがる。お前の魔法であいつらを何とか追い払えないか?」
「勇者が女の子に頼ってばかりで情けないわね。言っておくけど魔力は決して無限じゃあないから。さっきの火の魔法で完全にスッカラカンよ」
何てこった。これはもう完全アウトじゃあないか。よもや(一応)勇者が大量のスライムになぶり殺しにされる光景を誰が想像しただろうか......。
万事休す、潔くやられるしかないのか......。
「......ねえ、もう一度聞くけどあんたが私達を狙う理由って何なのかしら? よければ私にだけ教えてくれない?」
「かぁー、まだ言うか!我を誘惑しても無駄だ!貴様らに教えることなど何一つとしてないわっ!大人しく我がスライム軍団の餌食となるがよい!」
「......ふうん、話すつもりはないわけね。男のくせに隠し事をするなんて情けない奴、図体はでかいけれど心はノミよりも小さいわね。......それに魔物使いって言っているわりには、あんたの背後には、ほとんどスライムしかいないじゃないの。もしかしてスライムしか仲間にできないザコってことかしら? ザコ中のザコのモンスターしか使役することができないなんてよっぽどあんた小心者なのね。さっき戦ったミミックだけは何とか手懐けられたみたいだけれど、あんたは基本スライムしか扱うことができないゴミってことね。つまりはあんたもザコしか従えられないくそザコってとこかしらね? ねえ、どうなのかしら?」
「うぐっ......!!? な、何という罵詈雑言の嵐......。この我の心をここまで抉るとは、お、恐ろしい女よ」
いや、全くだ......。元々きつい口調だけれど、この毒舌っぷりは相当なものだな。
「し、しかし我の行動ははあくまでもあのお方の予言に従っただけのこと......、例えどう言われようともその予言の通りに従わなければ......」
「予言?」
「......あっ、しまった」
その言葉を聞いて、してやったりの顔をメアリーが浮かべる。
「なるほど......、予言ね。要は誰かが占いか何かで私達を悪人にしているってとこかしらね?中々ムカつくことしてくれるわ」
「お、おのれえ......、この女に乗せられてついうっかり本当のことを話してしまった。我一生の不覚なり......」
......いや、まああっさりメアリーの挑発に乗せられていたところを見る限り、この魔物使いは頭はあまり(いや、相当かも)よくないらしい。それにしても予言だと?一体誰がそんなことを......。
「くっ......、だが勝負はまだ始まってはおらぬぞ!?ここで我がスライム軍団と共に貴様らを確実にほうむ......」
「あーっ、ちょうど今魔力が回復したわ。もう色々と面倒だし、こいつら魔法で一掃しちゃおうかしら?」
「ひっ、な、何だとっ!?」
「ほら後一分ぐらいは待ってあげるから、とっととここから逃げなさい。さもないとさっきのミミックみたいに、魔法で砂の中に沈めるわよ?」
「ひ、ひえええええっ!!!急げ!!全員ここから撤収だあああああっ!!!」
キュー! キュー!
「......えぇ、マジか」
......結局魔物使いも、それに従う大量のスライム達も一切戦わずに怖がって逃げ去ってしまった。恐れをなして逃げたって言葉がぴったりと当てはまるな。
「......てか今のはったりだよな? 魔力が回復したのって?」
「ええ、当たり前でしょ? 何もしてないのに魔力が元に戻るわけないじゃない。正直ラッキーだったわ。ああいうのは、口だけで何とかなるタイプだから戦わなくて済んで楽でいいわ」
本当に口だけで勝つとは、つくづく恐ろしい女だ。しかし奴が話していた預言というのが少々気になるな......。僕達に関する預言とは一体......?
「まあ、今は気にしていても仕方のないことでしょ。それよりもいい加減さっさとこの森から抜け出すわよ。変な奴らに絡まれて無駄な時間が過ぎてるわけだしね」
「あ、ああ。そうだな」
こうして紆余曲折を経て、僕らの冒険は始まりを迎えることとなった。