デビュー戦 その2
まずいことになった。まさかいきなりミミックなんかと鉢合わせすることになろうとは......。おまけに僕の装備はステテコパンツのみという、縛りプレイでもしてるのかと言わんばかりの軽装なので(もしくは羞恥プレイの可能性もある)、まず間違いなく敗色濃厚なシチュエーションだ。
せめて武器の一つぐらい装備できれば、僅かだろうけれどダメージを与えることができるというのに......。
「ギャアアアアスッ!!!」
「くそっ、この野郎!さっきからでかい声で叫びやがって、武器さえあればその大口を封じてやるってのに......」
これでも反射神経には自信があるので、口を大きく開いて勢いよく飛び付いてくるミミックを何とか避けることに成功している。この隙に打開策を考えねば......。
「無理じゃないの? 今のあんたには、武器を装備しても歯が立たないでしょ。というかいい加減諦めたら? ここでやられてもまだスタート地点なんだし」
「は?ひょっとしてコンテニュー機能とかあるのか?」
「ないわよ。ゲームの世界じゃあないんだし......。半殺し程度なら私の魔法で回復できるかもしれないってことよ」
「何だよ期待させやがっ......、え?」
ん?今さらっとだけど魔法って言わなかったか、こいつ? もしかして魔法使えるの、この女?
「あれ、言ってなかったかしら? 一応神の使いって役職だし、この世界の魔法はある程度使用できるように神様に力を貰ったのよ」
「そういうのはもっと早く言ってくれよ!」
というか、やるな神様!ムカつくが少しは神様らしいことをやってくれるじゃねえか。
「よし、早速魔法でこいつをどうにかしてくれ! 早くしないと喰われちまう」
「......100G」
「は?」
「100Gで手を打つわ。タダ働きなんて私のやり方じゃないもの、それぐらいの誠意は見せて貰わないと」
こんなときに何言ってんだこのアマ!? くそっ、こっちが下手に出てればいい気になりやがって......。大体名付け親に対してなんて態度だよ......。だが背に腹はかえられん、今の状況を打開するためにはこいつの力を借りるしかない。
「分かった、払うから!100G払うから助けてくれ!」
というかそもそもこの世界のお金とか、当たり前だけど持っていないんだけど......。まあもう約束しちゃったし、このことは後で考えるとしよう。
「......まあ、いいわ。それにあんたがここでやられるのは、私も責任感じるしね。じゃあいくわよ」
と、メアリーが右腕をまっすぐ伸ばして呪文を唱え始める。
『大地の精霊よ、土、砂、岩、この世の地を支配し全ての者よ、光の脈動、闇の骨肉、地を穿ち真なる命をその身に捧げよ』
「んん?あれ、何かやけに派手じゃないか?詠唱とかもあるのか......」
というか何か地面が揺れてきてないか、これ? しかもどんどん強くなってきてないか? あれ、これ僕も普通にやばくないか?
「あのう、......メアリーさん?」
『曲地魔法、メガラニカ』
その言葉と共に、周囲にある地面が一斉に隆起し始め、火山の噴火の如く砂と土の固まりが吹き荒れる。草木や植物も吹き上がった土と砂に飲まれてしまい、当然ながら僕もその土砂の流れに巻き込まれてしまう。
「うおおおおおっ!?」
まずい、このままでは僕も土砂に巻き込まれてしまう! というか端から巻き添えかよ、これ!
「何やってんのよ、ほらこっちよこっち。この場所なら魔法の影響が発生していないから安全よ」
こいつ、自分のせいで僕がこんな目に遭っているのに何とも思ってないのかよ......。だが助かった、確かによく観察したら魔法の効果が発動していない箇所があった。
そうして何とか土砂の嵐から抜け出すことに成功した僕は、後ろを振り向いて改めてその光景にゾッとする。
緑豊かな森が砂漠のように茶色に染まり、地面はまるで巨大な生物のように動めき、至るところに流砂のようなものが出現していた。よく見たらついさっきまで僕の近くにいたミミックが、流砂の一つに勢いよく飲まれていた。
「......ちょっとやり過ぎたかしら?」
「やり過ぎなんだけどっ!!?もう少しセーフしとけよ!危うくお前の魔法に殺されるところだったんだけど、僕!?」
「これぐらいやった方が確実に倒せるでしょ? というか助けてあげたのにその態度は何? ひょっとしてあたしに逆らう気?」
「いや、そういう意味じゃなくて......、はい、すいません」
......万が一こいつに逆らってさっきみたいな魔法を食らわされたら多分死ぬよな? 冷静に考えたら魔法が使える分、悔しいがこの女の方が僕よりもアドバンテージがあるし、ここは堪えるしかないだろう。
「分かればいいのよ、分かればね」
......一応勇者って設定なんだよな、僕?さっきから何でこんな酷い目にばっか遭ってるんだろうか......。考えるだけ無駄かな。
「......ねえ、ところでさっきからあんたのパンツに引っ掛かっているそれは何なのよ?」
「え?」
ふとパンツに目をやると、確かに何か変な物が引っ掛かっていた。あれ、というかこれって......。
「これって......、鍵?」
あっ、そうか!ミミックって要は宝箱に化けたモンスターであって、同時に宝箱の中身を守護するモンスターでもあるわけか。だとするとこの鍵はまさか......。
「ミミックの守ってたお宝がそれってこと?あの魔法の嵐の中でよく残ってたわね」
まさかのラッキー発動ではあったが、しかしこのとき僕は重要な点を見落としていた。どうしてこんな森の中にミミックに化けた宝箱が設置されていたのかを......。