魔王となった片割れ
異世界ラーガ、この世界には五つの大陸が存在し、その中でも一際大きな大陸であるレドガルド大陸は、魔族によって長いこと支配され続け、その事実は魔王がいなくても変わることはなかった。
「なるほどな......、つまり魔王たるこの俺がいなくとも魔族は繁栄することができるということか?」
黒いマントをたなびかせながら、魔王へと転生したもう一人の神代ユウマが、背の低い配下の魔物と会話を続ける。
「何をおっしゃいますか、魔王様!!魔王様が居らねば我らが魔族は決して栄えませぬ。それに憎き人間どもによって、魔王様が不在の間、魔族の勢力も少しずつですが削られてしまいました。今こそチャンスなのです!人間どもを根絶やしにして、残りの四つの大陸を全て支配し、我らが魔族が今度こそ頂点に立つときなのです!!」
しかし魔王は、不適な笑みを浮かべる。その考えにどうも納得がいかないようだ。
「つまらぬ、実につまらぬな。それで貴様は満足なのか?」
「へっ?で、ですが......、ならばどうしろと?」
魔王は額に、人差し指を当てる。まるで自分の脳内を探るかのように......。
「......皮肉にも俺の前世は、記憶が正しければお前達が憎む人間であったようだ。しかしその人間はこの世界の人間ではない。つまりこことは別の世界の人間が俺の前世であったということだ」
「ま、まことにございますか!?ならばこの世界以外にも人間どもの住む場所が......」
「だろうな。しかしそこがどこにあるのか、どうやって行けばよいのかも分からぬ。だが間違いない。確かにそこには人間の住む楽園が存在する」
「そ、それならば魔王様......!」
「うむ、我らが魔族を頂点に立たせるためにはこの世界だけではない。別世界すらも支配下に置く必要がある。そのヒントはおそらくだが、この俺をありがたいことに甦らせてくれた神が握っているだろう。何としてでも神から情報を得なければならぬ」
「か、畏まりました、魔王様!すぐに情報を集めてくるよう部下に命じて参ります!」
そう述べて、配下の魔物は魔王の側から急いで離れていった。
(......ふん、人間か。しかし前世と今は関係のないこと、魔族の王として何としてでも人間を滅ぼさなければ......、それにしても妙だ......、何故こうも満ち足りない気分なのだ?何かが足りていない、そんな気がする......)
魔王はこのときまだ知らなかった。自分がまだ完全な存在ではないことを......。欠けた魂の一部が、魔王にとって最大の宿敵に変貌することなど、知るよしもなかったのだ。