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召喚先が皆巨人過ぎるので私はヒールを極めます  作者: しゅか
本編外ショートストーリー
6/7

ザイーグの幸福な日常



 44代様は蛇であらせられた。

 その師お姿と師である神官長の背中を見ながら、次代様はどのような方であろうかと、静かな日々の中でよく考えていた。


 そんな静かな日常は今や遠くなったものだ。と、意識に上ったところでザイーグはぼんやりと目を覚まし、そっと部屋を見渡した。


 神官長となって広い部屋へ移ることとなった。それからもうすぐ4年となる。もうこの部屋にもなじみ切ったものであったが、懐かしい夢を見たせいか、何とはなしに見渡して自分の部屋である事を確認し、安堵した。

 先代様の夢を見たせいか、どこかまだ夢の中ではないかという考えがよぎったのである。


「さて、着替えるか。」


 起き出し、身支度を整える。

 鏡を見れば、この4年程で少し目の下に細かな皺ができたなと思う。

 顔を洗い終え、着替えが終わると部屋を出る。

 ザイーグは朝の祈りの前に祈りの間の中を確認することとしている。

 神の子であるニチカに危害を加えるようなものはこの国にいるはずはないのだが、それでも、用心するに越した事は無い。

 部屋の中の検分が終われば、ニチカの部屋まで迎えに行く。

 もしかしたら、先代様のように人ならざる身というわけではないので祈りの間で待っていてもいいのかもしれないが、先代の神官長に付き従っていた頃からの日課でもあり、やめる気にはならなかった。


「おはようございます。ニチカ様」

「おはよう、ザイーグ。今日は風が気持ちいいね。」


 部屋に行けば支度を整えたニチカがそう挨拶を返し、歩み寄ってくる。

 この4年で、ニチカは日常使いの靴もある程度踵…ニチカが広めた言葉ではヒールのある靴を履くようになった。そのため、成長期はとうに終わっているものの、初めて顔を合わせた時よりもつむじの高さが近くなった。

 近くなるのは何とはなしに嬉しいものだが、何度見ても、その元には不安を感じる。


 この国ではヒールのない安定した靴が普通のものであった。特に、神殿では柔らかい布の靴が主流である。ニチカの生み出したその靴とはありようがあまりにも違っていた。

 また、風の噂では、同じようにヒールのある靴を履けるようにと女性達が奮闘し、挫折し、場合によってはけが人まで出ているらしいと聞いている。

 いつニチカがけがをするかと気が気ではないが、当のニチカは危なげなくすたすたと歩きくるくると動き回る。

 心配した所で平気だよと歩いて見せる無邪気さに、太刀打ちできた試しはなく、賢明なザイーグはその問答を繰り返すことはやめた。


 ただ、平素の通り手を差し出して


「行きましょうか」


 と声をかける。


「はーい。」


 ニチカはにこにこと笑って柔らかく手を握り返して歩き出す。

 その姿をほほえましく見守りながら、ニチカの侍女たちがその姿を見送る。


「もうすぐニチカ様がいらして4年になりますね。」

「もうそんなになるんだ。なんだか実感わかないなぁ。」

「それは…そうでしょう。」


 ザイーグから漏れる苦笑に、ニチカはちょっとむっとした。


「今絶対失礼な事を考えた。」

「まさか。」

「絶対そうだよ。」


 むーっと唇を尖らせるニチカに、ザイーグは4年経つというのに変わらないなぁ。と、思うのだ。

 自分は少し年を重ねた気がする。

 だというのに、どれほど時を重ねても、ニチカの見た目は相変わらず…幼いという言葉は怒らせてしまうが、変わらないままだ。

 逆に4年近く経っても変わらないものだから、彼女から発せられるすでに成人を過ぎているという言葉に信憑性が出て、周囲はやっと納得し始めたのだが、これもまた言葉にしたら怒るだろう。

 そして、その言葉通りなら、彼女は22歳になる。


「ニチカ様を見ていると、時の流れを忘れますね。」


 どういう意味だろう?と首を傾げるニチカ。


「さて、もう祈りの間につきますから、心を落ち着けて。」

「むぅ…逃げられた。」


 今日も平穏な一日が始まる。

 いつもの神殿の日常が。




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