3話 招待状。
──『楽園』
前世に強い未練を残すものだけがいくことのできるという世界。
即ち死後の世界の異世界。
即ち天国であり地獄。
即ち…此処。
──『血晶』
私たちの命、魔力の源。
曰く宝石のよう。
曰く心臓に埋め込まれている。
曰くそれは殺し合いで得られる。
靂は今日悠希から教えてもらったこの世界の情報を頭で纏めながら復習していた。
強い未練──。
心当たりは全くと言ってないのだが、気になるものは気になる。
追い続けるだけ無意味だと分かっているのに、追い続けねばならない気がしてたまらない。
そこまで思考した所で靂はあっさりとそれを放棄した。
自分はきっとこういう性ではない。難しいことは今は考えない、そう決めるともう一つの影を思い浮かべた。
──『夢喰い』
そう悠希が呼称したのはあの虚無の怪物のことらしい。
白くて白くて紅い。
そしてあの腕から生えた殺気を固めたような歪な刃。
この世界は、魔力という人知を超えた力を手に入れる代わりに一つ代償があった。
それは夢をこの世界に差し出す、ということ。
なんでもいい、「一番強くなりたい」、「平和に生きていたい」、「世界征服をしたい」…だが望むだけでは駄目だ。この世界は望みっぱなしの自分たちの怠惰を許さない。
叶えるための努力、これをしないといずれ自分も彼女たちと同等の存在になる。らしい。
つまり、あの白い怪物は、夢を捨てこの世界に喰われた者だろう。まるで世界が努力しなければお前らもこうなるというふうに見せしめにしているように思える。
だからだろうか。
────少し可哀想な気もする。
そう考えながら靂の意識は闇へと落ちていった。
※※※※
現実に答えがないのならば。
此処に答えはあるかもしれない。
此処は現実じゃないんでしょう?
夢物語なんだろう?
それは勘違いというやつさ。
確信は持たないほうがいい、
確信は怖いよ。
人を貶める。
まあ、今の自分が人間なのかは知らないけど。
※※※※
「んんっ…よく寝た」
視界が明瞭になり、意識が覚醒する。
目の前は白い天井。悠希が作り出したのはシンプルな家だった。いいと思う。
悠希は昨日ドヤ顔で作った割にはベッドを一つ足し忘れるとかいうミスをしたため、床に布団を顕現させて寝ていた。ベッドを顕現させるのも可能だが、どうせなら魔力消費量を少なく済ませたかったらしい。
「ふわぁ…おあよー…れきはやっ」
むくっと悠希は起き上がると、此方に向けて話した。なんだろう、朝からテンションが高い。悠希らしいとも言えた。
──そういえば、俺は悠希のことをよく知らないままだ…。
「どーしたのーっ、そんな難しそうな顔して…?」
顕現させた食パンを焼きながらそう問うてくる。
「──悠希の夢ってなに…?」
すると悠希は驚いたように目を見開くとくすくすと笑った。
「それでなやんでたのかー!別にたいした理由じゃないよ…私の夢は──」
言いかけた所で、声が止まる。
ピンポーンと軽快なチャイム。どうやら家にチャイム機能までついていたようだ。
いや、だがチャイムを押す人なんているのだろうか。宅配業者なんていないだろうし。
「なにかな…?ちょっと行ってくるね!」
そして、遠くから少女のような声が聞こえた。
「第十領域領主の使いのものです!貴方に招待状が届いております!」
そう聞こえた。