Side-2
数日後、ヴィクトール隊長の知り合いだという冒険者が駐屯地に到着した。
この人物の名はセス。なんと天族だった。
天族なのだから治癒術に長けているのかと思えばそうではないのだという。
その代わり剣の腕はこの駐屯地の中でも右に出るものはいないくらいのものだそうだ。
ただ、亡くなった恋人の代わりの人員ということもあって、リベリオさんはそんな中途半端な人間が治癒術師として配属されるなんて、と診療所に手伝いに行く我々騎士見習いに愚痴をこぼしていた。
セスにもその話が耳に入ったのだろう、リベリオさんの手を煩わせないようにと3班で主戦力として活躍したと聞いていた。
それが後々問題にはなったのだが、ひとまずそれで治癒術師の問題は解決された。
だがその討伐期間が終わってもまだ次の治癒術師は見つからず、その後の3ヶ月もセスは引き続き3班に配属されることとなる。
そしてパーシヴァルの訃報。
俺は最初、本職の治癒術師ではなかったからパーシヴァルを助けられなかったのかという疑問を持っていた。
もしそうであるならば、自ら志願した3班への配属ではあるが、セスと上手くやれる自信はなかった。
しかしパーシヴァルは仲間を庇い、自身の守りを手薄にしたために急所を避けられなかったのだとガヴェイン班長は悔しそうに言っていた。
それを聞いた時、なるほど、何ともパーシヴァルらしい、と思った。
武術学校時代もそうやって仲間を大事にするやつだったから、自身を顧みずに仲間を救ったことが誇らしくも思えた。
何よりパーシヴァルに庇われたエレンの憔悴ぶりが痛々しくて誰かを恨む気持ちなどとても持てなかった。
3班のメンバーは、フィリオしか顔を知っているものはいなかった。
と言っても、フィリオは別の研究室に所属していたので、顔と名前を知っている程度で話をしたことはほとんどない。
俺がパーシヴァルと同じ研究室にいたことを知っているフィリオは、最初に俺を見たときに気まずそうに目を逸らした。
彼も彼なりにやり難かっただろう。
パーシヴァルを失くしたばかりの3班のメンバーはエレンのみではなく皆一様に消沈していた。
俺はパーシヴァルが仲間を守ったその気持ちを尊重したくて、きっとパーシヴァルならそう望むだろうとなるべく3班のメンバーを元気付けるように励ました。
それがどんな影響を与えたのかは分からないし、何の影響も与えられなかったかもしれないが、少しずつ会話や笑顔も見られるようになってきた。
そんな時、シエルがとんでもない怪我をした。
怪我、と今ならば呼べるが、あれを反対側のパーティーから見ていた俺は確実に助からないと思った。
こちら側にいた全員が恐らく同じことを思っただろう。
ガヴェイン班長までもが、持ち場を離れすぐにシエルの元へと駆けつけていった。
シエルという人物について、俺はよく分かっていない。
中性的な顔立ちで、最初は女性なのかと思ったが男性だった。
こちらから話しかければ話してはくれるが、そんなに周りに話を振るような人間でもない。
大人しい子、それが俺が持つシエルの印象だった。
ただ術師としての実力は他の術師よりも群を抜いているように見えた。
エルフだから、というのもあるだろう。彼だけは無詠唱でリザードマンとも対等に対峙することができていたし、ワイバーンの討伐率が他の班よりも優れているのは彼の功績だ。
そんな彼が向かってきたリザードマンを前に何の回避行動も取らずに背中を向けたのは甚だ疑問だった。
リザードマンと初めて対峙した際に術を破られて怪我をしたことがフラッシュバックしたことは、これもまた後から聞いた話だ。