第56.5話 ピッケ
時系列的には討伐任務始まって1ヶ月ちょっとくらいかな?という感じの、3班の若者で集まってババ抜きをやる話です。
「第1回、ピッケ大会を開催します!」
3班専用の会議室にニコラの声が響き渡った。
ピッケというのは、一言で言うならトランプだ。
絵柄は元の世界と異なっているが、基本的な構造はそう大差ない。アナログな遊びはどの世界でも共通しているということなのだろう。
もちろん、私も幼少期には父や母とよくやった。遊ぶものがほとんどなかったエルフの里では貴重な遊びの1つだ。ひどく懐かしい。
ニコラはこのピッケを持ってきていたらしく、みんなでやろうと夕食後にいきなり切り出した。
今日は15時までの任務。明日の夜まで時間が空くので、確かに何かをするには適していると言える。
ちなみに、ここに揃ったメンバーはセスとガヴェインを除いた3班8人だ。
ピッケをやろうと盛り上がっている私たちを横目にセスは静かに食堂を後にし、ガヴェインは「お前ら夜更かしするなよー」と言いながら去って行った。
ニコラはその2人も誘うつもりであったみたいだが、誘ってもどうせ来ないだろうし、万が一来たら気まずくないか、正直……。
女子チームも来るのかどうか疑問だったが、意外にも3人ともすんなり参加を表明した。
やる種目はみんな楽しいババ抜きである。
1回戦目のメンバーはこちら
・フィリオ
・パーシヴァル
・リーゼロッテ
・私
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
カードが抜かれ、揃って置かれる音だけがそこにはあった。
私は今ジョーカーを持っていない。
誰がジョーカーを持っているのか全く分からないほどに、残りの3人は無表情だ。
「あがりです」
リーゼロッテがパーシヴァルから引いたカードで、手札が0になった。
「おぉ……つえぇな、リーゼロッテ」
見物人のアイゼンが感嘆の声を上げる。
私の手札は2枚。
フィリオは1枚。
パーシヴァルは2枚。
フィリオが私からカードを引く。
「あがりです」
「まじか」
私から引いたカードでフィリオがあがった。
つまりジョーカーを持っているのはパーシヴァルだ。
「さぁ、シエル」
パーシヴァルが挑発的な笑みを浮かべて2枚のカードを掲げる。
右か、左か。
試すように手を動かしても、パーシヴァルの表情は変わらない。
ええい、ままよ!
「あぁっ」
ジョーカーだった。
周りから一斉に笑い声が聞こえる。
くそぅ……みんなバカにしてぇ……!
「さぁ、パーシヴァル」
気を取り直してパーシヴァルに向かって2枚のカードを掲げる。
ジョーカーじゃない方のカードをわざとらしく上にずらして。
「…………」
それを見てもパーシヴァルは挑発的な笑みを崩さない。
悔しいけどかっこいい。状況が状況だけにイラッともするけど。
パーシヴァルは、私があえて上にずらしたカードを何の躊躇いもなくスッと抜いた。
「あっ……」
「あがり」
パーシヴァルがドヤ顔で揃ったカードを置いた。
私の手元にはジョーカーが1枚。
つまり、負けだ。
「くっそ……!」
がっくりと肩を落とした私の上からみんなの笑い声が降り注いだ。
……覚えてろよ、パーシヴァル。
2回戦目
・アイゼン
・ニコラ
・ベルナ
・エレン
「あがり」
アイゼンからカードを引いたエレンが1番にあがった。
「くっそー!」
アイゼンが悔しがっているが、正直自業自得だ。
ジョーカーを持っているのはアイゼン。最初から今に至るまで、ジョーカーは動いていない。
それもそのはず、アイゼンは顔に出ているのだ。
エレンがジョーカーを引こうとすると、若干ニヤつく。それを見てエレンが引くカードを変えると、若干がっかりした顔をする。
見物している私たちは笑いを噛み殺すのに必死だ。
「よしっ!!」
それからもう1巡、ニコラがアイゼンからジョーカーを引いた。
アイゼンはめっちゃ嬉しがっているが、完全に慈悲の心でニコラが引いてくれたのだろう。
容赦のないエレンと違って優しい。
「アイゼン、ルール分かってる?」
ニコラがカードを入れ替えながらアイゼンに聞いた。
「え? 分かってるよ?」
何で聞かれたのか分からないと言わんばかりにアイゼンが返す。
「うん……なら、いいんだけど……」
ニコラもそれ以上は何も言わず、ベルナにカードを掲げる。
ニコラが引いたばかりのジョーカーを、すぐにベルナが引き、
「……むっ……」
顔を顰めてそう呟いた。
見物人から堪え切れない笑い声が漏れる。
今、ベルナがジョーカーを含めて2枚、アイゼンが1枚、ニコラが2枚。
ベルナがカードを入れ替えてアイゼンに掲げた。
「さぁ、アイゼン。ジョーカーはお前から見て右だ」
「えっ!?」
ベルナの宣言にアイゼンが動揺する。
ずいぶんと新しい手法だ。
ちなみにジョーカーはアイゼンから見て左にある。意外に姑息な手段を使う。人のことは言えないけど。
アイゼンが、向かって左のカードを引いた。
「ジョーカーじゃねーか!!」
爆笑。
私だけじゃない。フィリオとパーシヴァルも爆笑している。
ベルナの言葉を信じてみたんかい。
可愛いかよ。
アイゼンがカードを入れ替え、投げやりな動作でニコラに掲げる。
カードは見ていない。却ってその方がいいだろうな。
ニコラがカードを引く。
持っていた2枚のカードの内、1枚と揃ったらしくそれを引き抜いてテーブルに置く。
残った1枚のカードをベルナが引いたことにより、ニコラはあがりとなる。
「あがり」
「え、まじ!?」
「私もあがりだ」
アイゼンが驚きの声をあげているうちに、ニコラから引いたカードでベルナもあがった。
「まじかよ……」
「アイゼン、あんた、顔に出しすぎなのよ」
呆然とするアイゼンにエレンが容赦なく追い打ちをかける。
「出してねーよ!」
これほどに説得力のない言葉はあるだろうか。
「僕、アイゼンと同じチームなら勝てた気がする……」
「うるせー!」
私の言葉にアイゼンはそう答えて、テーブルに突っ伏した。