第57.5話 前衛組
本編第57話くらいのお話。
セスの憂鬱3作目。
三人称視点です。
デットライン討伐が始まってもうすぐ2ヶ月。
前衛組との稽古をなし崩しに続けさせられて早1ヶ月。
もはやこれが日常となってしまった現実に為す術もなく、セスは今日も彼らに付き合わされていた。
前衛組全員で訓練をやるようになってから、セスは彼ら4人を2対2に分けて戦わせるという方針を取っている。
自分はアドバイスが中心、たまに手も出す、という感じだ。
そうすることで誰が誰と組んでも連携を取れるようになるし、お互いがお互いの手法を理解できるようにもなっていく。
デッドライン討伐では前衛組4人が一度に同じ敵に向かうことはほぼない。だからこうしている。
「いい連携が取れるようになってきたね」
この1ヶ月で彼らは目に見えて成長した。
フィリオとパーシヴァルは元々複数で戦うことに関して長けていた部分はあったが、今まで個々の力を磨いてきたであろうアイゼンとベルナデットも他者との連携が取れるようになってきた。
元々素質があったのだろうが、自分がこうして彼らの相手をしてきたことがそれを引き出すきっかけになったのだと思うと、嬉しく思う気持ちもあった。
あったからこそセスは先の言葉を紡いだわけなのだが、
「じゃあ、そろそろセスに対抗できるようになったかな?」
などとアイゼンから返され、絶句することとなった。
4人全員で訓練をやることになった初日、セスは同時に襲いくる彼らを一瞬で叩き伏せた。アイゼンがそれを相当悔しがっていたのはセスもよく覚えている。
が、いい連携が取れるようになった、という言葉だけでその気になってもらっては正直困るのだ。
いくら彼らがこの1ヶ月で成長したと言っても、まだセスの方が実力では上回る。この前より時間はかかるだろうが、4人を無傷で叩き伏せることは可能だろう。
となれば、全員を一度に治癒しなければならない。それはさすがに辛すぎる。初日に身を以って経験しているのだ。もうやりたくない。
「…………」
という意図を含んだ沈黙。
彼らの表情を窺い見れば、その意図を理解しているであろう人間が2人、していないであろう人間が2人。
前者はもちろんフィリオとパーシヴァル。後者はアイゼンとベルナデットだ。
「怪我をしないように善処する」
その上で紡がれたパーシヴァルの言葉に脱力する。
いっそ先ほど心の中で思ったことをそのまま口に出してしまおうか、とも思ったが、全員を一度に治癒する前提の言葉を挑発と取られてしまいそうで言えなかった。
「…………はぁ……」
「よし、じゃあ決まりってことで」
今度こそ彼ら全員に届いたため息は、アイゼンに了承の意と取られてしまった。
非常に不本意だ。
この1ヶ月で磨かれた彼らの連携は見事なものだった。
4対1だからと言って、4人同時にかかってくるような愚かな真似はしない。
1人が攻撃を仕掛ければ1人が退路を塞ぎ、そこを掻い潜るように避ければさらにそこにも待ち構えている。
ならば上に逃げるかと思っても、身のこなしの軽いベルナデットがその隙間を埋めるように仕掛けてくる。
それもそのはず、セスがそれを教えたのだ。
自分にとって不利になるであろう戦法を惜しみなく。
若い彼らはそれを湯水のように吸収した。
ならば活路は1つしかない。
目の前に立ちふさがる彼らを、真っ向から捩じ伏せるのみ。
単純な力勝負ということではない。
長い年月で培った技を以って制する。
振られた木剣を舞うように往なしてから、隙を狙って叩きこむ。一撃で決められるよう、それなりの威力を乗せて。
それを、4回繰り返す。
最初は女性であるベルナデットにだけは遠慮をしていたが、特別扱いしないでくれと縋るように懇願されて仕方なく折れた。真っ先に治癒することでせめてもの罪滅ぼしとしている。
「……誰だよ……そろそろセスに対抗できるかな、なんて言ったのは……」
「貴方です、アイゼン……」
弱弱しく呟かれたアイゼンとフィリオの会話を聞きながら、セスはベルナデットに治癒術をかけた。