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クルスの調べ - Side Story -  作者: 緋霧
その時彼らは - リィン -
22/24

Side-9

「セス! 何してるの早く!」


 振り向くとセスは私の後ろで立ち尽くしていた。

 目を見開いて、瞳を揺らして、立ち尽くしている。


 あぁ、セスからは、医術師であるセスからは、あの出血量ではもう手遅れに見えただろう。

 呼吸が止まるのを待つだけの状態に見えただろう。

 それが自分が判断を誤った結果だから、動けないのだろう。

 そもそもこれはセスをあの部屋から連れ出した私の責任でもある。セスだけが悪いのではない。だから、私も必死でシエルを助ける。今ならそれができる。


「セス! まだシエルは生きてる! 今なら間に合うから!」


 そんなセスを叱咤する。

 セスが治癒術をかけなければシエルを助けられない。

 私の叫びにセスは荒い息を吐きながらヨロヨロと近寄ってきた。


「……シエル……」


 そして力なく側に膝をつく。


「セス! しっかりしてよ! 早く治癒術をかけて! シエルが死んじゃう!!」


 私だって無限に血を止めていられる訳ではない。

 もちろん魔力を消耗していく。

 この量の血を戻し止めることはそれなりに力を使う。


「セス!!」


「…………!」


 再三の呼びかけに、やっと我に返ったのかセスが治癒術をかけ始めた。

 その手がわずかに震えているように見えた。


 シエルは、近くにあった酒瓶を割ってその破片で自分を傷つけたようだった。

 普通自分でやるには痛みが邪魔をしてここまで深く刺せないだろう。これがファネルリーデの影響なのだろうか。


「はっ……はぁ……ゴホッ……ぐっ……」


 シエルに治癒術をかけていたセスが突然血を吐いた。


「もういい、やめて」


 私はセスの手を掴み、無理やりやめさせた。

 体力が尽きないくらいでいいから、とは言ったものの、それ以上やろうとするであろうことは分かっていた。

 体力が少ない状態で神力を使えば内臓を損傷していく。

 今のセスは割合的に体力以上に神力が残っているためにリミッターにも引っかからない。このままでは死んでしまう。


「うっ……ゴホゴホッ……」


 口元を押さえたセスの手の隙間から血が溢れる。

 正直あの状態のセスに治癒術を使わせることは致命的だ。それでもやらなければシエルは助けられなかった。

 ひとまず血が出てこないくらいにはシエルの傷は塞がっている。今急いで戻ればどちらも助かる。


 私はセスとシエルの肩を掴み、帰還点へと帰還した。






 第2待機施設へと戻り、私は治癒術師の2人を叩き起こした。

 1人をシエルの治療に当たらせ、もう1人をセスの治療に当たらせる。

 セスは当然それを拒否したが、抵抗する力も残ってなかったので治癒術師に無理やり治癒させた。

 先ほどセスがシエルに治癒術をかけた際に損傷した内臓は元に戻った。傷も完全ではないものの、だいぶ塞がったようだ。今は無理やり薬で眠らされている。


「……これでいいのか」


 シエルの両手を鉄枷で拘束し、ヒューイが言った。

 セスは薬で眠らされる直前、ヒューイにそれを頼んでいたのだ。


「うん。本当は自分で自分を傷つけないように最初からこうしなければいけなかったってセスは言ってた。ニルヴァに打たれた薬の影響で、強い幻覚症状に陥っているみたいだから……」


「そうか……」


 私の言葉にヒューイは悲しげにそう呟いた。


「この首輪は、バルミンドを捕えに来た男が着けたものだと自供していた。それならば今は逆に外さない方がいいのかもしれないな」


 シエルに着けられた封力の首輪はニルヴァを殺しても外せなかった。

 それは後で考える、とセスはその時に言っていたのだが、誰が着けたのか判明したようだ。


「ブライトウェルの手の者によって着けられたのなら、シエルが眠っているうちに外させて私たちの誰かが着け直したほうがいいと思う」


 シエルの怪我は完全に治癒されていた。

 私が血を戻したのとセスが傷を塞いだことにより、ここにいる治癒術師1人でも完治までもっていけたようだ。

 だが意識は戻らない。昏々と眠り続けている。


 シエルはブライトウェルの人間に会いたくはないだろう。あのような仕打ちを受けたのなら、会うことで余計に錯乱させてしまう可能性もある。それだったら知っている人間がいつでも外せるように、今のうちに外させて着け直しておいた方がよさそうに思える。


「なるほど、ではそのようにしよう。外させて、俺がまた着けておく」


 特に理由を聞いてくることもなくヒューイは頷き、すぐに男を連れてきて首輪を外させた。

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