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クルスの調べ - Side Story -  作者: 緋霧
セスの憂鬱
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第52.5話 フィリオとパーシヴァル

アイゼンとベルナデットがセスに稽古をつけてもらっていると聞きつけたフィリオとパーシヴァルが、セスに稽古をせがむ話。

本編 第52話と第53話の間くらいの出来事。


三人称視点です。

「最近、アイゼンとベルナに稽古をつけているそうですね」


「…………」


 不意に目の前に立ちはだかったフィリオから、セスは不自然に目を逸らした。


「俺たちも頼む、セス。稽古をつけてくれ」


「…………」


 その隣にいるパーシヴァルからもさらに言葉が重ねられ、セスの視線は泳いだ。


「アイゼンたちには良くて、僕たち2人にはダメなんてこと、ありませんよね?」


「……いや、それは」


 フィリオの有無を言わさない圧力に、セスの言葉が詰まる。


「じゃあ早速頼む」


「……今?」


「今」


「…………」


 パーシヴァルの有無を言わさない圧力にも、何も言えなかった。

 おそらく2人は、セスにこの後の用事がないことを把握している。逃れられない。


「…………はぁ……」


 大きく吐き出したため息は、やはり2人には届かなかった。






「2人一緒でいいんですよね?」


 アイゼンとベルナデットからある程度のことは聞いているのだろう。フィリオが断定的に言った。


「どうぞ」


 最近では1対1でもやっていたりするのだが、それを知らないのなら2人同時に相手をして手早く終わらせてしまいたい。そういう思いからセスはそのことを口にはしなかった。


「では、遠慮なく」


 フィリオが地面を蹴る。

 それに少し遅れてパーシヴァルも地面を蹴った。


「…………」


 先に来たのはフィリオ。


 横殴りに振られた剣を受け止めつつ、その脇を通過して背後に回り込んだパーシヴァルを視界の端に入れる。

 パーシヴァルの剣が振られる前に、セスは受け止めていたフィリオの木剣を弾いて退避した。


 セスがいた場所を、パーシヴァルの木剣がぐ。


 フィリオの追撃。セスはそれを後方に飛んでかわした。

 さらに続くパーシヴァルの追撃。退路には回り込んだフィリオ。


 よく連携が取れている。


 パーシヴァルが上段から振り下ろした木剣を受け止めつつ、セスはパーシヴァルの鳩尾あたりに向かって蹴りを繰り出した。


「ぐっ……!」


 予期しない攻撃だったのだろう。

 パーシヴァルは慌ててかわそうとしたが、間に合わずにその体が後方へと飛ばされた。


 それと同時に上段から振られたフィリオの木剣を、セスは体を捻ることでかわし、隙が残るフィリオの脇腹へ向かって木剣を振る。


「……っ!!」


 フィリオはそれを横へ飛ぶことで避けようとしたが、避けきれなかった木剣が脇腹を打った。

 バランスを崩して地面に手を付く。


 当然、それを見過ごすセスではなかった。


 フィリオに向かって、上から強い力で木剣を振り下ろす。


「うぁっ……!」


 強い力のそれを受け止めきれずに、セスの木剣はフィリオの右肩へと打ち込まれた。

 そのまま間髪入れずに右手首にも打ち込まれ、フィリオの手から木剣が落ちる。


「君はこれで終わりだ」


 セスはそう短く告げ、態勢を立て直したパーシヴァルが振った剣を飛んでかわした。


 それを追うようにパーシヴァルが地面を蹴る。

 しかし鳩尾へのダメージが残っているのか、その動きは先程までに比べたら幾分遅い。

 横殴りに振られた木剣も、無理をしたかのように大振りで隙だらけだった。


 セスはフッと体を深く落としてそれを避け、立ち上がりざまに木剣をいだ。それを避けることもできなかったパーシヴァルの脇腹へ、木剣が打ち込まれる。


「ぐぅっ……!」


 踏み留まることはできずに、パーシヴァルの体が地面を転がっていく。


「いい連携だったよ」


 地に近いところにいる彼らの上から、乱れを知らない静かな声が降り注いだ。






「すみません、セス。無理をさせてしまって」


 地に近いところにいるセスの上から、申し訳なさそうなフィリオの声が降り注ぐ。


「……そう思うのなら、これで最後にしてくれ……」


 辛い。


 骨折程度の怪我とは言え、さすがに2人を同時に治癒するのは辛い。


 そうせざるを得ない状況にしてしまったのはセス自身だが、これくらいやらないと彼らは何度でも立ち上がってくるだろう。

 正直、これで懲りてほしい。


「分かった。次はセスに治癒術を使わせなくて済むように善処しよう」


「……そういう、ことじゃなくて……」


 パーシヴァルの言葉に願望が打ち砕かれ、急に疲労が増幅した。

 彼らは理的だ。ちゃんとセスの言葉の意図を理解している。理解していてなお、あえてそういう言葉を選び取った。


「……はぁ……」



 この後、いつもの稽古に2人が追加されたのは言うまでもない。

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