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クルスの調べ - Side Story -  作者: 緋霧
その時彼らは - リィン -
16/24

Side-3

「そろそろ移動を始めた頃だろうか」


 20時半を少し過ぎた頃、ヒューイが呟いた。


「バルミンドの施設から取引場所までは大体30分くらいの距離のようだからね。そろそろ動き出しただろう」


 地図を見ながらセスが返した。

 ここから1日か、2日か。私たちはひたすら待機だ。


 ここで私は1つ準備を始めた。

 腰に携えた短剣を取り出し、自分の腕を切る。


「何を?」


 それを見ていたヒューイが私に問う。


「ここに帰還点を設置する。私の血で陣を描けば、離れたところからここに戻れる」


 ポタポタと流れ落ちる血で陣を描く。

 切った傷はすでに塞がり始めている。


「……なるほど、影移動に近い感じか」


「まぁ、そうだね。最初に設置しておかなきゃいけないから、影移動よりは不便かも」


 ヒューイの言葉に肩を竦めて答えた。


「…………!」


 不意に、シエルの血の匂いがした。


「シエルの血の匂いがする」


 私の言葉に2人の顔色が変わった。


「囮と気づかれたのか?」


「分からない……。でも、結晶を取り出されたくらいの、出血だと思う」


 ヒューイの質問の答えが曖昧になってしまう。

 囮と気づかれたのかどうか私には確証が得られない。ただ血の匂いがする。それだけしか分からない。


「場所が変わった」


 そうこうしているうちに一瞬で匂いが分散した。

 影移動を使ったのだろう。


「場所は分かるか?」


 ヒューイが地図を広げる。


「だいたいこの辺り……かな?」


 細かい場所までは特定できない。

 大まかな範囲を丸で囲む。

 そこは取引場所からさらに離れたところだった。おそらく、20分くらいの距離。ここからでは1時間20分。


「2人とも行ってくれ。リンフィーは別の人間に追わせる」


 すぐさま、ヒューイはその決断を下した。


「走れる?」


 施設を出るなりセスが私に聞いた。

 シエルが囮と気づかれたなら、1時間20分は長い。それは悠長に歩いている場合ではないだろう。


「うん、大丈夫」






 そうは答えたものの、セスの足は速かった。

 先ほど地図に印をつけたからある程度の場所を把握していることもあり、先を行くのはセスだ。追いつけない。


「はぁ、はぁ……」


 全速力で追う。

 もう辺りは真っ暗だ。所々に家の明かりはあるものの、本当に真っ暗な場所も多い。

 私は魔族なので夜の闇でも普通に見えるのだが、天族であるセスは周りが見えているのだろうか。そうとしか思えないくらい迷うことなく先を行く。


「…………!」


 セスが止まって私を待っていた。


「ごめん、ちょっといいかな」


「えっ……!?」


 息の一つも切らしていないセスが私を抱え上げる。

 そして走り出した。


「ちょ、ちょっと……!」


「時間がないんだ。文句なら後で聞くから」


「…………」


 確かにその通りだ。

 シエルには時間が残されていない。

 一刻も早く行かなくては。


「セス……セス、シエルが……」


 シエルの血の匂いが少しずつ濃くなってきている。

 それは近づいているから、という意味ではない。

 シエルの血が流れている、という意味だ。


「…………」


 セスは何も言わなかった。

 何も言わずにただ走り続けた。


 どんどん、シエルの血の匂いが濃くなる。

 酷い傷を負っている。

 酷い傷を負わされている。


「シエル……っ」


 嫌でも分かってしまうかんばしくない状態に、思わずその名を口に出してしまった。


「……は……っ」


 私を抱えて走るセスの息が少し乱れている。

 もうだいぶ走り続けている。

 私だったらここまで走れなかっただろう。


「近い……近いよ、この辺だ。ちょっと下ろして。位置を特定するのに集中したい」


 その言葉にセスが私を地面に立たせた。

 匂いに集中する。

 大まかな位置から正確な位置を探る。


「こっち」






 辿り着いた先は、富裕層が住んでいると思えるくらいの広い家だった。

 その絢爛けんらんさは、およそ施設と呼ぶには相応しくない。

 結界術が作動しないギリギリのところで私たちは止まった。


「どうする?」


 そういえばどうやって調教施設に侵入するかを話し合ったことはなかった。

 そんな大事なことを決めもせずにここに来てしまった。


「まぁ、典型的なやり方でいこうか」


 別段慌てることもなく、セスはコートの内側から短剣を取り出して私に言った。

 それが何かと疑問に思う前にセスは左手を前に突き出し、気を放つ。


 セスが放った気は、ドォンと音を立てて扉にぶつかった。

 すぐに中の人間がそれに気づいて、外の様子を窺うように扉をわずかに開ける。

 そのわずかに開いた扉の向こう側に、セスが容赦なく短剣を投げた。

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