Side-8
「ニコラ……」
「リベリオの発言のせいでシエルは傷ついてセスはその責任を取らなきゃいけないのに、リベリオには何のお咎めもないなんて……そんなのおかしいよ!!」
ドンッとニコラが強くテーブルを叩いた。
ニコラの言いたいことはよく分かる。
そもそもの元凶はリベリオさんの発言にある。詳しくは分からないけれど、リベリオさんが余計なことを言わなければこんなことにはならなかった。
「ニコラ落ち着いて。リベリオはただのきっかけにすぎない。それがあったから問題が露呈するだけであって、どちらにしろ俺の医術師としての判断が間違っていたことは変わらない。今回こういう結果にならなければ、俺はそれを良しとしていた。それじゃダメだとシエルが教えてくれたんだ。だから大丈夫だ。いいんだ」
「よくない!!」
そう叫んで勢いよく立ち上がり、ニコラは食堂から走って出て行ってしまった。
「ニコラ待って……くっ……!」
それを追いかけようと急いで立ち上がったセスがよろめいて地面に膝をつく。その時に激しくぶつかった椅子がうるさいくらいに音を立てた。
「セス! 大丈夫か」
「僕追いかけてきます!」
「俺も」
セスに代わってフィリオとアイゼンがニコラを追いかけるために食堂を出て行った。
「ニコラ……」
静寂に包まれた食堂にセスの苦しそうな声が響いた。
結局、あの後しばらく待ってみたが食堂に3人が戻ってくることはなかった。
いつまでも3班が食堂を陣取っているわけにもいかないので、俺たちは一度解散することにして、セスが風呂に行っている間に俺はフィリオたちの部屋を訪ねた。
「レオンさん……」
案の定、そこにはニコラもいた。部屋の奥のベッドに座っている。
俺の顔を見るなりニコラは視線を逸らし、どこか不貞腐れたような表情をした。
「気持ちは落ち着いたか?」
「…………」
何も言わないニコラの隣に俺は腰かけた。
「納得はできない」
「そうだな、それはみんなそうだろう。ただ、俺たちがリベリオさんに何かの処罰を求めることはできない。セスが責任を取るつもりでいるなら処罰を免れることもできない。でも寛大な処分を求めることはできる。俺たちで署名をして進言書を提出しよう」
「進言書……!」
俺の言葉にニコラのみならずフィリオもアイゼンも表情を明るくした。
その場で俺たちは署名をし、女性たちには夕食後に署名を求めることにして、俺は部屋を後にした。
部屋に戻るとセスはまだ戻っていなかった。
それからしばらく経ってからやっと戻ってきたセスは、ヴィクトール隊長に例の件を報告したのだと俺に話した。
「ヴィクトール隊長は何て?」
「リベリオと相談する、と」
なるほど。あの人はセスのことをよく思っていないだろうから心配だ。
「ガヴェイン班長にはこのことは?」
「会ってないからな。まぁ、ヴィクトールから聞くだろう」
「そうか……。ニコラについては中々納得はできないみたいだったがひとまず落ち着いてはいる。フィリオとアイゼンが一緒にいるから大丈夫だろう」
俺がニコラの名前を出すとセスの瞳が揺れた。
「……そう。シエルといいニコラといい、普段大人しいと思ってた子がずいぶん意外な一面を見せるね。それとも、俺がみんなを知らなすぎただけなのかな……」
そう言ってどこか悲しげに瞳を閉じた。
夕食時、ガヴェイン班長からシエルの命は助かったがしばらく面会謝絶だと聞かされた。
誰も昼の事には触れず、何とも言えない空気の中での食事だった。
夕食後に女性たちに署名を求めると、フィリオたちと同じように表情を明るくして3人は署名をしてくれた。
「……なるほど。俺の知らないところでずいぶんと事は動いていたようだな」
俺が差し出した進言書を受け取り、ガヴェイン班長が言った。
「聞いてますよね。セスの件」
「ああ。先ほど隊長から聞いた」
「処分は免れないんですよね」
「おそらくな。だが俺からも寛大な処分をと進言するつもりではいるし、お前たちの進言書もある。シエルも厳罰など望まないだろうし、そう重い処分は下されないだろう。これは責任を持ってヴィクトール隊長に届けよう」
「お願いします」
俺は頭を下げてガヴェイン班長の部屋を後にした。
そうして長い特別な1日は終わりを告げた。