Side-7
「そうなることを分かっていた上で俺は連続投与をする判断を下した。興奮状態にあってもシエルがそんな行動に出るとは思ってなかったからだ。苦痛を取り除いてやりたかった」
「逆に言えば、興奮状態になくてもシエルが同じ行動に出た可能もあるのでは?」
セスの話を聞いてリーゼロッテが推測を口にした。
「確かにその可能性もあるだろう。だが痛み止めを打ってなければシエルは物理的に無理だった。痛覚が邪魔をするからだ。しかし命を守るための痛覚をあの薬は麻痺させる。それこそ死に至るくらいの怪我でも動けてしまう。それだけでも危険なことなのにそこから興奮状態になったらより危険になる。だから連続投与が禁じられているんだ」
「でもさ、連続で2回打つことの影響は興奮状態に陥ることだろ?その薬自体の効果が痛覚を麻痺させることなら、用法を守ったって同じことじゃないか?」
アイゼンがフォローするように言う。
「まぁ……そうだね。1回だけ打って興奮状態にないシエルが自分の意思で同じ行動に出れば、同じことと言えるかもしれないね」
「じゃあセスのせいじゃないよな? 実際連続で打ったから暴れたという確証はないわけだし」
アイゼンが周りに同意を求めるように尋ねた。
「今回の問題点は俺が連続投与の判断を下したことにある。言い方は悪いが、シエルがこのような行動を起こさなければこの問題は露呈することはなかった。だがこうなった以上、連続投与の影響と考えるのが一般的見解だろう。そうなれば俺の責任は免れない。何かしらの処分は受けることになる。……あぁ、勘違いしないでほしいんだけど、それについて別にシエルを責めるつもりはない。俺が悪いというのは分かっているから」
「そんな……」
希望を打ち消すようなセスの言葉に、アイゼンが絶望的な顔を見せた。
「ねぇ、セス。その薬を連続投与したことはもう報告したの?」
エレンが聞く。
「……してない。まだ」
「じゃあここにいるみんなが聞かなかったことにすればそれで解決じゃない?」
なるほど、そうすれば問題が露呈することはないと言いたいのか。
確かにいい案かもしれない。倫理的にはよくないが。
「もしそれをするというのであればジョヴァンニもそのことを知っているから口止めをしなければならないな」
診療室でもその話はしていた。ジョヴァンニもそれを聞いていたはずだ。
「いや、その必要はない」
セスが静かに言った。
「正直……バレなければいいと思っていた。連続投与しても何も問題を起こさず24時間も経過すれば中毒症状は抜ける。でも、そんな浅はかなことを考えたのがそもそもの間違いだったんだ。俺の判断の結果、シエルは命を危険に晒した。これで本当にシエルが命を落としていたらそれこそ悔やんでも悔やみ切れない。だから俺は……罰を受けなければ」
「でもそれだってシエルのためだろう? シエルだってそんなセスの判断を責めることはしないのではないか」
セスの言葉に今まで黙っていたベルナデットが口を開いた。
そう、セスのその判断もまたシエルのためなのだ。少しでも苦痛を和らげてあげたいという。
「そうだけどね。今回はそれが裏目に出てしまった。そうなった責任は取らなければならない」
「お互いにお互いのための行動が裏目に出てしまったんですね……。なんだかやり切れないです」
リーゼロッテが悲しそうに目を伏せた。
「そういうこともあるさ。俺はシエルが薬による中毒症状を起こしていても、事を起こすような人間だとは思っていなかった。俺がシエルのことを知らなすぎたんだ。逆にシエルが、他のみんなも俺のために怒ってくれて嬉しく思うよ」
どこか吹っ切れたようにセスが言う。
「そんなの悲しすぎるよ……。だってこれはリベリオのせいじゃないか……! リベリオがあんなこと言ったせいだよ!」
突然大声で叫んだニコラに、俺たちはみんな驚きを隠せなかった。