Side-6
セスの問いに、誰も口を開こうとしなかった。
「……俺に何か関係することか」
みんなの様子で何かを察したセスが静かに言った。
この場には事態を把握していない俺もいるわけだが、俺が関係しているということはこの場合考えにくいのできっとそういうことだろう。
「……言ったら、セスは怒るだろうから」
「怒る? 俺が?」
ニコラの言葉にセスは怪訝そうに聞く。
きっとあれだな、リベリオさんがセスのことを悪く言ってそれにシエルが怒ったとかだろ……。
「シエルは助かったんだ。ならもうそれで良くないか?」
アイゼンが気まずい雰囲気を破るように言った。
言いづらいことなのだろうが、決してこのまま終わりにしていいとは思えない。
「…………」
セスは何も言わない。
それはそうだよな。良くないよ。分かる。
「ここまで来てそれはないんじゃないか? みんなは逆の立場ならここで濁されらどう思うんだ。命に関わったことなんだぞ」
一応フォローを入れる。これで誰か話してくれるといいのだが……。
「じゃあセス、絶対にシエルに怒らないであげてほしい。シエルがあんなことをした理由は僕も分かるんだ」
「……分かった」
ニコラが張った予防線に、セスも素直に頷いた。
「リベリオって人、セスを侮辱するような言葉を言ったんだ。それでシエルが怒って暴れたんだよ」
ほらな。だと思った。
俺は以前からリベリオさんがセスのことを良く思っていないのを聞いていたからというのもあるが……。
「…………」
沈黙が流れた。
気まずい。
他のみんなもセスの出方を窺っている。
「……リベリオは、俺のことを何て?」
しばらくしてシエルのことには触れずセスが聞いた。
「それは……」
ニコラが視線を逸らして言い淀む。
それを見てセスはニコラの隣に座っていたフィリオに視線を移した。
「僕もその内容は知りません。ニコラは言わないので。本当です」
セスの視線を受けたフィリオが慌てて言った。
「…………」
セスが手を付けていない食事に視線を落とす。
その表情は険しい。
「ほら……怒ってるじゃん……」
ニコラが泣きそうな顔で言う。
「怒ってないよ」
怒っている人間の常套句をセスが口にした。
「シエルの気持ちは分かるんだ。僕だってシエルと同じ気持ちだった。班長だってそうだ。あれはリベリオって人が悪いよ。誰だってあんな風に仲間を侮辱されたら怒る」
シエルをフォローするようにニコラが必死に訴える。
「俺は怒ってないよ。シエルには」
「え、じゃあ僕に怒ってる? ご、ごめんセス……」
ニコラがさらに泣きそうな顔になって言う。
まるで小動物のようだ。
「違う、そうじゃない。怒ってるのは自分に対してだ。シエルが暴れたのは俺のせいだからな……」
「セスのせい、ではなくセスのため、です。僕たちだってシエルと同じ気持ちですよ。シエルも悪くないし、貴方も悪くない」
そうだな。
セスのせいではない。
フィリオの言葉に他のみんなも頷いている。
「……ありがとう。シエルが俺のために暴れたと聞いて心中穏やかじゃないのは確かだが、でもそうじゃないんだ。シエルがいくらそれで腹を立てたとしても普段ならそんな行動にはでないはずだ。なのにそれを行動に移したのは痛み止めを短時間に連続投与したせいだ」
そういえば先程もそんなようなことを言っていた。
痛み止めを連続投与したから興奮状態にあったと。
「横穴で注射してたやつ?」
「ああ。俺はシエルに怪我の直後に1回打って、下山の直前にも4班の治癒術師に打つように頼んだ。あの薬は……本来一度打ったら次まで24時間以上空けないといけない。それを俺は5〜6時間でシエルに連続投与した。その結果、中毒症状を起こして興奮状態に陥ったんだ」
医術的な話に誰も口を挟まない。というか、何を言えばいいのか分からない。
だがそれが上に知れたらかなり問題になるだろうということだけは、分かる。