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クルスの調べ - Side Story -  作者: 緋霧
セスの憂鬱
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第52.5話 アイゼンとベルナデット

アイゼンとベルナデットに稽古をつけてくれとせがまれるセスのお話。

本編 第52話と第53話の間くらいの出来事。


三人称視点です。

「セス、頼むよ! 今日こそは!」


 またか。


 しつこく纏わり付いてくるアイゼンから視線を逸らし、セスは小さくため息を吐いた。


「私も頼む。稽古をつけてくれ」


 その後ろから無邪気な目を向けてくるベルナデットに視線を移し、すぐにまた逸らす。


「……適任者なら他にいるだろう」


「セスがいいんだよ。頼むよ」


「…………」


 新しい3班の任務が始まって2週間弱。

 彼らは毎日のように暇を見つけてはセスに付き纏っていた。


 理由は先述した通り、セスに稽古をつけてもらうためだ。


 任務が始まってすぐの頃、手合わせと称してシエルに怪我を負わせたことを彼らは微塵も反省していない。


「……じゃあ、一度だけだよ」


 今まで適当にあしらってきたが、こうも毎日付き纏われてはさすがに面倒だ。

 そう思って彼らに聞こえるように大きなため息を吐くも、その言葉に喜び勇む彼らの声に掻き消されてしまった。


「…………」


 我先にと修練場へと向かって行った彼らの背に向かって、セスはもう一度小さくため息を吐いた。


 自分の剣は、人の模範となるような綺麗なものではないのに、と。






「2人纏めておいで」


 どちらが先にやるか、と揉めているアイゼンとベルナデットに、セスが言った。


「なんだって」


 その言葉にアイゼンとベルナデットが表情を険しくする。

 この程度の言葉でも挑発と受け取る2人に、セスは彼らに悟られないくらいの小さな笑みを浮かべた。


 子供らしいな――――と。






 アイゼンが横殴りに振った木剣を後方に飛んでかわす。

 その着地点を狙い澄ませたかのように待ち構えていたベルナデットが、セスに向かって素早く突きを繰り出した。

 だがセスにとっては想定内のこと。それを強い力で薙ぎ払った。


「くっ……!」


 いくら勇ましいとは言え、ベルナデットも女性。その強い力に耐えられず、握っていた木剣と共に自身の体も飛ばされた。

 それを隙と見たアイゼンが木剣を上段から降り下ろす。しかしセスは流れるような動作で軽くなし、そのまま空いている脇腹へと強く打ち込んだ。


「ぐぁっ……!」


 お手本のような綺麗なカウンターを返され、アイゼンの体が地面を転がっていく。

 打ち付けられた脇腹の痛みで、起き上がることは叶わなかった。


 肋骨の1本や2本は折れてしまったかもしれないが、訓練にこの程度の怪我は付きものだ。どうせそれを治すのは自分なわけだし、致し方ない。

 そう自分に言い聞かせて小さくため息を吐いたセスの背後から、ベルナデットが仕掛ける。

 当然それもセスにとっては想定の範囲内。振られた木剣を振り向きざまに受け止め、力で押し返した。

 ベルナデットがたたらを踏んだところでセスは一度木剣を引き、ベルナデットの胴を目掛けて横殴りに振る。

 ベルナデットは後方に飛ぶことで何とかそれを避けたが、さらに深く踏み込んできたセスの追撃には耐えられず、再び木剣を弾き飛ばされてしまった。


「終わりだよ」


「…………」


 セスの木剣がベルナデットの首元へと突きつけられ、2対1の手合わせは終了となった。






「一瞬で終わった……」


 地面に寝そべったままセスの治癒術を受けつつ、アイゼンが呟いた。


「攻撃時の隙が大きすぎる。1撃の威力を上げたいのは分かるが、それによって隙を生んでいては逆に1撃で仕留められてしまうよ」


「まったくもってその通りです……」


 セスの言葉に何も返せず、アイゼンは治癒術の光に導かれるようにその目を閉じた。

 刃がついた剣であったならば、あの瞬間死んでいた。まさかここまで手が届かない存在だとは。


「セス、私は?」


 そんな2人を後方から眺めていたベルナデットが聞く。


「そうだな、君は……」


 アイゼンの治癒を終え、少し呼吸を乱したセスが立ち上がり振り向いた。


「身のこなしが軽いんだから、剣1本に拘らない方がいい。予備として短剣の類を潜ませておくのもいいし、暗器のようなものを使ってみてもいいかもしれない。力で敵わない相手には、そのスピードを活かしてさまざまな手段で対向していった方がいいと思う」


「ふむ……」


 己の剣にすべてを懸ける。今までそういうやり方をしてきたが、確かにそうかもしれない。


「稽古と助言感謝する。この討伐隊が終わったらそういう戦法も試してみよう。ひとまずここにいる間は引き続き剣術の稽古を頼む」


「一度だけだって最初に……」


「ありがとな、セス! 次はもう少し粘れるようにしないとな! また頼むぜ!」


「いや、だから……」


 セスの抗議の声はまったく相手にされず、2人は盛り上がりを見せている。


「はぁ……」


 思わず口をいて出てしまった大きなため息も、やはり同じように掻き消された。



 結局、この後も幾度となくセスは彼らの相手をする羽目になったのである。

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