LMー1発進す。
陸上自衛隊に潜り込んでいた日本共産党の山村工作隊のメンバーはこともあろうに、陸上自衛隊の連絡機を奪い、預かった「ブツ」を他国の潜水艦に届ける、とんでもない作戦に使ったのである。
「ばかな連中だよ、自衛隊の連中は」
宇都宮駐屯地の格納庫に一人、電気もつけず、ほくそ笑みながら、こっそり連絡機のLMをごそごそ動かしている男がいた。
富士重工製のLMと言うが、早い話ビーチクラフトのボナンザをベースにしたTー34メンタ―を四人乗りに改修したいわば先祖帰りの機体である。
ノーズギアにトーバ―さえ着けて少し頑張ったら、一人でも格納庫から引きずり出せる。
Lー19よりは骨だが、セスナ177なんざよりは楽だ。
幸い格納庫は古いながらも手動でゆっくり開ければ音でばれたりしない。
ブレーキを解除、チョークを外し、ゆっくりトーバ―で引っ張るだけ。
出すとき普段は翼端を見てくれるやつがいないから、注意が必要なだけだ。
飛行前点検は格納庫でこっそり行った後だから、後はマスタースイッチを入れて、スターターをオンにするだけだ。
スターターが回りエンジンがかかりはじめたら、さすがに音がうるさい。とりあえずオイルプレッシャーが規定値ならもう行くしかない。
マグネトーのドロップやらノンビリ見てる間はない。
とにかく滑走路に進入して、直ちに離陸しないといけない。
滑走路に回り込んだらすぐスロットル全開である。
この機体は燃料満載、通常なら約5時間位は飛べる。
しかし今夜は夜間に低空飛行をして、とにかくランデブ―ポイントに行かないといけない。
一切の灯火はオフにして、目視による発見も困難にしないと。
無線もオフであるから、騒ぎ始めただろうタワーからの雑音も聞こえない。ザマア見ろ!
コースは慎重に計画してある。
いくら自衛隊機がボンクラでも明るい市街地を背景にしたら、発見されかねない。
暗い田畑や小さな丘を縫うような飛行のほうが安全である。
高度は500フィートと決めている。
コース上にはそれほどの建築物もないし高圧の送電線もないのは確認しているから、これで十分である。
とにかく、海上に出てしまえば良い。
今日の海上の予報は波も穏やかのようだ。
浮上中の潜水艦の近くに、物を下ろしさえすれば、あと、こちらは回収してくれる仲間の漁船の近くまでいく間に、ほとんどの燃料は費やしているはずだ。
そしてその頃には夜明けを迎えているから手早く、不時着水して、とっとと機体を捨てて、回収してもらえば良い。
雑なように見える計画だが、単純明快であるから成功する確率は高いのだ。
自衛隊、や厚木にいるだろう米軍機が 心配といえば心配だが、聞くところによれば、彼らの迎撃対象は日本海を南下してくる、音速近い速度で、比較的高い高度を取るソ連空軍の爆撃機である。
こちらは敵さんの懐奥深く侵入済みでかつ、敵さんの苦手な低空をゆっくり飛ぶ目標である。
予定ならあと30分、海上に出る。
最悪、潜水艦とのランデブ―が失敗しても回収班の漁船に渡して、のちに潜水艦と会合する代替案もあるからまあ大丈夫だ。
しめしめである。
学生の頃に、学校の教材にビーチクラフトのボナンザがあったのを思いだしながら書いてます。
こいつはV尾翼が特徴的な機体でしたが。