6.秘密の会話に聞き耳。
シリアス回。
正直に言おう。
ジル様は何も答えてはくれなかった。そりゃあ、そうでしょうね。見ず知らずの人物に内情を話す訳もなく、私は『レオン様の誘拐事件を調べている事を黙っていてほしい。』とジル様に申し出た所だ。そして、静かに退散した。
破滅フラグは立てたくないし、好いてもいない人物の傍にいても、勘違いされて、後が困るだけ。別に、私はジル様の事は嫌いでもないのだが、それ以上にレオン様の事が好きなのだ。ただ、それだけ。
リュート様と共に庭園を散策していると、何故だか、嫌な予感がした。所謂、第六感というものだろうか?私はそろりと周りを見渡す。そうすると、数人の大人の貴族が話をしているのが見えた。その人たちはまるで、他人を避けている様子が見て取れる。余程、聞かれたくない話でもあるのか。
これは・・・チャンスかもしれない。私は高く空の上へ引き上げられる興奮を覚える。好奇心は猫をも殺す。なら、いっそ殺される直前まで近付いてみようか。きっと、ゲームの中のレオン様も同じ事をしていたに違いない。けれども、この世界のレオン様は違う。なら、私がやらねばならないわ。
一種の使命感に駆られて、私は慎重に怪しい貴族達に近付いていく。貴族達の会話が聞こえる場所まで移動した。そして、静かに、私は風の音を聞くように風魔法を展開しながら、聞き耳を立てた。
「・・・王城の守りも大した事なかったですね。簡単に第四王子様を誘拐できたなんて。」
「これで、賭けも成立したし、こちらとしては大儲けですよ。」
・・・!?賭け・・・ですって!?そんな事の為に、レオン様は誘拐されたっていうの?いや、待てよ。落ち着け、私。・・・もっと、冷静に話を聞かなくては。もっと、核心を突く話をするまで落ち着け!
「・・・もう、第四王子様もきっと、死んじまっている事だろうしな。俺達は王族に恨みはねーが、このご時世、退屈なもんでねぇ・・・。賭けでもやってないと、つまんねーもんだわ。」
「・・・今度は第三王子でもやっちまいますか?」
「おう、いいねぇ。俺達の貴族グループで”ジル王子への襲撃事件”の成功で賭けでもするか?ジル王子に傷を負わせれば、成功って事で。」
「・・・おう、それいいな。連絡は追ってする。今日はここまでだな。しばらくお茶会に出ていない事がバレたら、怪しまれるからな。」
貴族達がその場を立ち去って、しばらくして、リュート様が私に声をかける。
「・・・今の会話は、酷いものでしたね。”貴族達の退屈凌ぎの為の賭け”のせいで、第四王子は誘拐され、殺されてしまったのだから。それにしても、次は”ジル王子の襲撃事件”ですか?貴族様のやる事は分からないものですよ。」
・・・レオン様は無事に生き残る事が出来ているって事には触れない方がよさそうね。レオン様=リュート様ってバレたら、私はどんな事をするか、解らない。私は表情には出さないように努めた。
「そうね。いくら貴族でも、私にはあいつらの考えている事なんて理解不能だわ。」
「どうします?今の会話、王家の者に伝えますか?」
「・・・いいえ、それは出来ないわ。私には王族の者に接点なんか持ち合わせていないもの。・・・それに・・・。」
・・・きっと、この”賭け”は成立してしまう。私はそれを、ゲームをしていた中で知っている。確か、ジル様が8歳の時に”襲撃事件”が起きる事を、そして、それがジル様にとって”トラウマ”になってしまう事をジル様ルートで見ている。
二兎を追う者は一兎をも得ず。ジル様の事は諦めるしか出来ないのかしらね。私はしばらくその場から動く事は叶わなかった。
フローディア様は今後どんな判断をするのでしょうね?それは、作者にも分かりません(笑)。