第74話 シーラのしんけんスコップ
「し、失礼いたしました……とんだ先走った真似を!」
邪教の神殿、アランが掘った地下室。
銀色の髪が激しく揺れていた。シーラが布団(※ふかふか)に正座してぺこぺこと頭を下げているのだ。《神剣抽出》の儀式の内容が『スコップ(動詞)』だとサリエラから聞いたシーラは、天界でエルがしていた行為だと思いこんだ。
だから、裸足をくすぐられようとしていたのだ。
「あああ……なんて、なんてばかなまねを……」
しゅんと頭を下げてアランに謝り続けるシーラ。
その目にはじわりと涙がにじんでいる。
「いや泣くな。リティシアが誤解させるようなことを言うからいけない」
「え……あの、リティシア様? 天使サリエラ様ではなくて?」
そういえばシーラはまだリティシアが囚われの身だと勘違いしたままだった。
「ああ。リティシアがあの天使を遠隔スコップしていたのだ」
「えんかくスコップ?」
「リティシアの得意技だ」
それ以上の解説はできない。原理はアランにも不明だからだ。
姫の洗脳スコップの進化はもはやとどまるところを知らない。
「は、はあ……えと、とにかくあのお方が無事なら、その、よかったです!」
シーラの表情が困惑から笑顔になった。この聖女、スルー力がわりと高い。
「あんなにも信仰豊かな方に何かがあったら、私はどう責任を取ればいいのか」
「それは気にするな。リティシアに関する全責任は俺が負っている」
「全責任……あ、その」
シーラはちょっとだけ納得する。
アランとリティシアがただならぬ仲なのは雰囲気からわかっていた。
「お二人はどういったご関係なのですか?」
アランにとって、とてつもなく難しい質問だった。
リティシアに聞いたら《スコップな関係》と即答するだろうが。
「とりあえず、子どもがいることは確かだが」
「(あ、やっぱり)」
恋人同士だったのですね。
納得して、うんうん、とうなずくシーラだった。
たくましい偉丈夫のアランと、信仰豊かで一途なリティシア。まるで物語に出てくる勇者と姫みたいに、とてもお似合いの二人だ。太陽神エル様もきっと祝福するだろう――なお実際には呪われている。
「(……もっと、がんばらないと、です)」
そしてシーラはぐっとこぶしを握り締めた。
シーラには使命がある。
この《聖なる国》に生きとし生ける人すべてを守る、聖女の使命だ。その使命はまさにアランやリティシアのような、輝く魂を持つ人々を守るためにこそ、あるのだ。使命を果たすためなら、シーラはなんでもしなければならない。
「あの、アラン様。それでは儀式の内容を、お教え願えますでしょうか」
だからシーラは正座に姿勢を直して改めて懇願した。神の力が宿るという《神剣》がシーラの魂に融合しているという。一刻も早く剣を取り出して、神の御加護をふたたび地上に取り戻さねばならない。
「《創聖記》第五章第三節、リューン派学説」
「え?」
「わかるか?」
「え、も、もちろんです。創聖記は太陽教の聖書ですし」
シーラは教団のトップであり当然聖書もすべて暗記している。
「第五章は《はじめの人間》第三節は《禁断の果実》の伝承です」
シーラが解説する。
天界の楽園に《最初の男》イルヴァと《最初の女》ルタがいた。楽園には、宝石のように輝く果実が実っていた。それは神の食物であり、決して食べてはならぬと言いつけられていた。それでもイルヴァとルタは禁断の果実をどうしても食べたかった。
禁断の果実の木は、人が触れられぬよう、柵で守られていた。だがイルヴァとルタは諦めず、二人で力を合わせて穴を掘り、柵を超えて《禁断の果実》を食べてしまった。最高の果実を味わった二人は、しかし神の怒りを買い、天界を追放されてしまった。
人が天界ではなく、地上に存在する、その理由である。
シーラがそこまで解説したところでアランが言った。
「その神話のリューン派学説とやらが儀式だそうだ。わかるか?」
シーラは『もちろんです』とうなずいた。
リューン派学説は聖書の解釈のひとつでシーラの得意科目だ。
「神話にはさまざまな暗喩が込められています。これは――」
ぴたり。
そこでシーラの動きが止まった。
内容を忘れたのではなくて――完全に思い出してしまったからだ。
「――――――――う」
ど、どうしよう?
一瞬だけシーラは逡巡したが、でもすぐに首を横に振る。
使命を果たすためなら、シーラはなんでもしなければならないのだ。
「リューン派学説では……その、この神話は……せ……」
シーラは頬を赤らめ、手を口元にやった。
そして視線をアランから逸らしながら、ぽつりと。
「《性交》に伴う《最高の喜び》を……い、意味すると、言われております」
しばらく沈黙の時間が流れた。
アランはシーラの言葉と先ほどの神話の内容を考えた。
そして理解した。
「なるほど。それなら俺の得意分野だ」
「へっ!? と、と、得意分野なのですかっ!?」
真っ赤な
アランは力強くうなずいた。なぜ儀式のために自分が必要なのか、なぜリティシアが『スコップ(動詞)』でも間違いではないと言ったのかを理解した。たしかに、この儀式には自分が適任であろう。
「《製綱》に伴う《採鉱の喜び》なら、俺が教えられる」
すこーん。
遠くで金属が地面にたたきつけられる音がした。
たぶん、この世界そのものが何かを間違えた、音だった。
△▼△
採鉱の喜びで間違いない。
アランは確信していた。
「では早速はじめるか」
《禁断の果実》とはすなわち地中に埋まった宝石だ。実際、アランが鉱山を掘っていた時にも何度も、神に封印された地層を見てきた。それに《ふたりで協力して穴を掘った》とはまさにスコップで鉱山を掘る意味だ。
採鉱は製綱の前の一ステップであり、つまりはそういうことだ。
「(なにもおかしくないな)」
実際はなにもかもおかしいがあいにくツッコミ役は不在だ。
だから二人のすれ違いは、加速するばかりである。
「え、えと、あの、その……すす少しだけお待ちをっ」
シーラは耳まで真っ赤に染め、待ったのポーズ。だって、だって、心の準備とかそういうのが全然ない。だって、はじめてなのだ。そもそも何をするのかすら、聖女として育てられたシーラはさっぱりなのだ。
裸になって、なんだかエッチなことをする、ぐらいしか知らない。
もちろんアランは経験豊富なのだろうけど――リティシア様と――。
と、そのとき。
「あああっ! そ、そうです、まずいです! リティシア様が!」
「む? リティシアがどうした?」
「アラン様、だめです、り、リティシア様に悪いです!」
そうだ。いちばん大事なことを忘れていた。アランとリティシアは恋人同士(シーラ認識)。しかも子どもまでいる。いくら儀式のためとはいえ、この二人の仲を引き裂くだなんて――そんなの絶対に許されない!
「いやリティシアはむしろ喜ぶぞ」
「えっ!?」
「俺がカチュアにスコップ技を教えた時も、喜んでいたしな」
「え……か、カチュア様にも教えられたのですか!?」
衝撃の事実(シーラ認識)が飛び出す。
「カチュアには素晴らしい素質があった」
「そそ素質があられたのですかーっ!?」
「いずれは大陸一、いや世界一の聖騎士になるはずだ」
「せせせ世界一の性騎士にー!?」
シーラ脳内でカチュアの認識がとんでもないことになった。興奮したうえ性に染まったシーラの勘違いはとどまるところを知らない。頬を手で覆って真っ赤だ。た、たしかにお綺麗な騎士様だけど、短いスカートだなあとか思ってたけど!
「それにリティシアは全人類に採鉱の喜びを教えたがっているぞ」
「ぜぜ全人類に、最高の喜びをーっ!?」
そもそもアラン達が旅をする目的は『太陽神エルに会い、ロスティールへの攻撃を止めてもらう』ことだった。だがリティシアはそんなこと多分覚えてない。多分、全世界をスコップ化することしか考えてない気がする。
「ああ、でも、でも、南方大陸は、そういう文化なのでしょうか……」
シーラはぐるぐる混乱しながら思い出す。たしかに南方の大陸では王族は何人もの妃で《はーれむ》という文化をつくると聞いたことがある。つまりこれが文化の違いというやつなのだろうか(ちがう)。
強引に結論付けて、シーラは改めてアランに上目遣いを向けると。
「わ……わ、わかりました……あの、私、がんばります!」
ぺこんと頭を下げるシーラ。
白い布の服からも形がわかる果実がぷるんと揺れた。
これから何をするのか、ほんのさわりだけならシーラは知っている。
「それではその……し、失礼いたします……」
シーラはためらいがちに服を脱ぎ始めた。ぱさり。地面に布が落ちると、純白の下着に包まれた聖女がそこにいた。豊かに膨らんだ上半身をわずかに包む布と、きゅっと閉じた太ももに食い込む布地が、シーラの肌色を引き立たせていた。
「って待て。なぜ脱ぐ?」
「えっ!? あ、すみません、ご、ご不満でしたか!?」
服を着たままなのが、南方の文化なのですね!(ちがう)
シーラは両手で胸と太ももの奥の純白を隠しながら、あわてて弁明する。
「すみません! でもあの聖書の絵画ではルタは、し、下着姿で……」
「む」
「その、これは儀式ですので……こ、こういう形式でないと……」
アランは思い出して納得する。確かに宗教絵画に出てくる男女は、ひらひらした布で局部を隠しているだけの恰好。ほぼ裸だ。そしていま求められているのは神話の再現。そういうことなら下着姿でやるしかあるまい。
「確かに(昔の鉱夫は)汗の処理のため、ほぼ裸だったしな」
「あああ汗!? そ、そうですね、汗とか、そのほかのも!」
コクコクと高速でうなずくシーラだった。
「あの……ではその、は、はじめましょうか……」
「うむ。これを持つがよい」
「え」
ずっしり。シーラの両手に何かが手渡された。
大きくて固いそれはおそらくアランの体温によりほのかに温かかった。
もちろんスコップである。
「シーラ用のスコップだ」
「―――――」
シーラがしばらく固まって、そして意味を理解して叫んだ。
「わ――わ、わ」
「わ?」
「わたしようのスコップ!?」
これをどうするの!?
スコップですこするの!?(混乱)
「何を驚くのだ。スコップは(採鉱の)必需品だろう」
「必須!? な、な、南方大陸では(性交の)必需品なのですかっ!?」
「いや、南方だけではあるまい。世界中どこでもスコップは使われている」
「えええええええええええええええええ!?」
「全部とは言わんが、かなりの家に、スコップが常備してあるはずだ」
シーラの脳内は火にかけたやかんより過熱していた。
あまりにも衝撃的だった。
みんな実はスコップを使っていたのか。でも心当たりはシーラにもあって侍女が『固くて大きいあれ』と言っていた。つまりスコップ。ご夫婦のみなさんは、みんな、みんなスコップを使っていたのですか!! 大臣も騎士団長も服屋もみんな!
「し、し、知りませんでした……! スコップを、スコップを使うのですか!」
「そうだ、採鉱に使うのがスコップだ。今から使い方を教えるぞ」
「は、ははははいっ!!」
アランはシーラにスコップを持たせて壁の前に立たせた。シーラの手を取り、スコップを大きく振りかぶらせる。下着に覆われたふくらみが、ぷにょりとスコップの柄に触れてたわわにゆがんでいる。
ざくざく。すこすこ。
――あれ?
「あ……穴を、掘っています……?」
思ってたやつと、だいぶちがう。
「そうだが? 何か問題でも?」
「あの……え、えと……」
わ、私の体に使うのでは? そう言いかけてシーラは口をつぐんだ。シーラの性知識は勘違いだらけだった。なにしろスコップを使うことすら知らなかった(※正常です)。つまりアランの行為が正しく、自分の知識が間違っているのだ。
「(……そ、そういうことですよね、きっと)」
でもちょっと、あまりにも信じがたい。
だから念のため、もう一回だけ、確認しよう。
「あの……こ、このスコップで、アラン様は、子どもが……できたのですね?」
「む? ほう、よく知っているな。リティシアに聞いたのか?」
「いえ! なななんでもないです!」
やはり自分が勘違いしていたようだ。シーラはほっとした。
みんなみんな、スコップを使っていたのだ。
ざくざく。すこすこ。
背中にアランの体温を感じながら、シーラは確信した。
「(ああ……わ、私、《して》いるの……ですね……)」
シーラの知識とはまるで違う行為。
でもこれが本当の行為なのだ。侍女が持っていた、えっちな本。その男女が絡み合うシーンを見てシーラは真っ赤になって『信じられない……』と思った。でも本当に嘘だったのだ。あの肌色が乱舞した絵は、ただの比喩表現だったのだ。
「(これが……これが、本当の……)」
愛し合う二人の男女はみんなスコップですこすこしていたのだ。
聖書にもそう書いてある(誤解)。
そしてアラン様は実際、リティシア様との子どもができた(真実)。
この行為で――これでおなかに、本当に子どもが、できてしまうのだ――。
「(ああ……私、私……っ)」
シーラがとてつもなくまずい方向に進みはじめた、そのときだった。
びりいっ!
「きゃっ!」
スコップの勢いが余り、シーラの胸を覆う下着がやぶけ、ぷるりんと空気にさらされてしまった。あわてて左腕でふくらみを隠す。しまった、夢中になっていた。そういえば侍女も行為に励むうちに服が破れたとか言っていた。きっとこれだ。
確かにこれは破れる。
「む、いかんな」
乙女の恥ずかしいところが見えてしまうし、何より服が違えば儀式に差し障る。
「少し待て。今スコップで服をつくる」
「えっ」
アランはスコップの握りに巻いた白い包帯をほどいた。《スコップ無限増殖》で包帯の量を一気に増やし、スコップの鋭い切っ先でちょきちょきと布地を切り、最後に《スコップ・ミシン》でカタカタと縫った。
この間2秒の早業である。
「――はい?」(←おどろきシーラ)
「素肌では怪我をする。シーラ、身に着けるがよい。スコップの羽衣だ」
できたのは純白のヒラヒラしたいかにも女神が着ていそうな羽衣だ。シーラは呆然と受け取ると、羽衣は淡い白色の光を発し始めた。その布はシーラの両胸の先端、ピンク色をやわらかく隠した。
ほわほわと漂うなんだか温かみを感じる布だった。
「い――いま、なにが!?」
いろいろ大事な物理法則とか時空法則を無視していた。
ありていにいって、奇跡が起きた。
「いや裁縫スコップしただけだが」
「さいほうスコップ!?」
「鉱山では服がよく破れるからな。裁縫スコップで縫うのだ」
「ええええ!? え、あの、す、スコップではそんなことまで!?」
シーラの脳内にやばい電撃が走った。
奇跡だ。奇跡が起きた。なんてことだ。私は本当に何も知らない。でも考えてみれば、新しい生命の誕生というのは、すなわち奇跡だ。だって体に触れもせず地面に穴を掘るだけで子どもをつくるスコップだ。
服を縫うぐらい、なにもおかしくない。
すごい。すごい。すこっぷって、すこい!(だいぶだめだ)
「シーラ、シーラ。何をにへっとしている」
「……はっ!?」
しまった。あまりの衝撃に頭がヒットしていたようだった。
シーラはぷるぷるっと首を横に振った。
いけない。そもそもこれは天使様に頼まれた《神剣》抽出の神聖な儀式なのに。スコップに夢中になってしまっていた。恥じ入りながら、ほとんど裸の体をしゅんと縮めてしまうシーラ。また失敗してしまった。
「す、すみませんすみません! こ、今度こそ真剣にやりますので!」
「気にするな。楽しんで穴を掘るのは、良いことだ」
「で、でも、私には使命が」
《聖なる国》に生きとし生ける人すべてを守る。そのためだけにシーラは生きてきたのだ。このスコップも、聖なる国にふたたび太陽神の御加護を取り戻すための、儀式のひとつなのだ。そう続けようとしたシーラだったが。
「使命を果たすのと、自らが楽しむのは、相反することではないぞ」
「――え?」
ざくざく。
スコップで穴を掘りながらアランが言う。
「シーラ、スコップに大切なのは、継続することだ。そして継続のためには、自らが楽しまねばならん。採鉱は重労働だ。いやいやスコップを扱ったところで、途中で気力が尽き、坑道の半ばで倒れてしまうのだ」
ざくざくざくざく。
穴を掘り続けるアランは無表情だが、ほんの少し楽しそうだった。
「おまえも使命や儀式を果たしつつ、楽しんでよいのだぞ」
「楽しむ――」
「別に、楽しむのは、恥ずかしいことではない」
シーラはアランの言葉をゆっくりと理解していく。
神聖な儀式を楽しむなんて、今までになかった概念だった。心のどこかの理性が『聖女としてはしたないです』と言っている。でも、でも、固いスコップで穴を掘る作業は――すごく、心が躍るのだ。
今度は何が飛び出してくるのか、どきどきわくわくするのだ。
「私――私は――あの、その――」
だからシーラは言った。
潤んだ瞳で背後に立つアランを見あげて、羞恥に耐えながら言ったのだった。
「もっと……す、スコップで……《性交》……したい、です……」
アランは満足げにうなずいた。
「うむ。《製綱》だな。鉱石が取れたら続けよう」
もはやすれ違いは解けそうになかった。
「は……はい……」
どきどきざくざく。
スコップで穴を掘りながらシーラは思った。太陽神エル様が、天界でスコップでこちょこちょされて、笑っていた姿――あれはひょっとしてシーラに、楽しむことの大切さを教えようとしていたのかも――ううん、きっとそうに違いない。
シーラは祈りをささげた。
そのとき、シーラの胸に剣の姿のシルエットが、ぽうっと光輝いた。
「ああ……剣、が……」
製鋼が成功した……わけではない。
単にスコップの掘削力がシーラにいきわたった結果神剣が発掘されたのだ。
だが本当の理屈など、もはやシーラにとってはどうでもよかった。
「(エル様……ああ、エル様、そういうことなのですね……!)」
もし太陽神エルが彼女の祈りを聞き遂げていたらこう言っただろう。
\んなわけあるか!/
(゜Д ゜ ;;;)
△▼△
やがて生贄の間。
「み、皆様、お待たせしました……」
アランと共に出てきた銀髪の姫君・シーラ。
どことなく、なにかをやり遂げたような満足感をにおわせる声だ。
「お疲れ様です、シーラ姫……それが……?」
どことなく落ち着いた雰囲気のシーラに、カチュアが声をかける。ぼろぼろの服を着たシーラは輝く刃を抱いていた。神秘的とすら言える輝きを放つ、その抜身の刃、おそらくは《神剣》のフォルムは、だれがどこからどう見ても――剣であった。
剣であった。
何度見ても、カチュアが念のため三度見しても、剣だった。
「おおお……よかった……っ!」
カチュアが深々と安堵のため息をついた。
隣ではリティシアが『すこー(´・ω・`)』とちょっと残念そうだ。
「はい……えと、すみません、剣です……」
「謝る必要などございません。シーラ様はスコップと関わるべきではない」
「え、そ、そういうわけにはいきません。スコップは生命の根源です」
「え」
「聖書にもそう書いてあります」
そこでシーラはカチュアを見つめた。
なぜかちょっと頬をピンク色に染めながら、シーラが言う。
「スコップは神聖な営みですし」
「は?」
「は、恥ずかしがらずに、楽しんでスコップするのが、大事ですし」
「は?」
「だからその……私もこれから積極的に、す、スコップを、勉強するつもりです」
「すこー!(*´▽`*)」
喜ぶリティシアの横でカチュアはガンガンに頭が痛むのを感じた。
カチュアは思った。何があったか知らないが。
「すこ! すこですね!」
「え……は、はい、すこです、すこです」
「すこー!(*´▽`*)」
「す、すこー!」
――姫が増殖しつつある。世界の危機だ。
どこのご家庭にもスコップがあった理由はこういうわけなのです(風評被害)




