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スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第二部 第1章 聖なる国のスコップ(シーラすこ)
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第73話 聖女シーラ、償いのスコップを誓う

 邪教の神殿、その地下3階。

 アランは《聖光姫》シーラとカチュアを連れ地下への階段を進んでいた。生贄候補として連れていかれたリティシアを、見つけなければならない。あの姫を一人にするとわりと現実的な可能性で人類が滅亡するのだ。

 アランの深刻な表情を見て、シーラの胸がキュッと痛んだ。

 だってリティシアが連れていかれたのは、自分のせいなのだ。

 

「すみません、すみません……リティシア様が危険に……っ!」

「いえシーラ様。危険なのはリティシア姫殿下ではなく人類です」

「え」

「そこまでだ。気配を見つけた。地下13階だな」

 

 アランが話を中断させたのでシーラの誤解はそのままだった。

 まあどうでもいいか(カチュアの本心)。どうせ常人には理解できない。

 と、シーラがまたギュッとこぶしを握り締めると。

 

「道案内でしたらお任せを! 私は大神官として《神聖なる地図》の魔法が――」

「いや大丈夫だ。スコップがある」

「えっ」

「今回は急ぐからな」

 

 アランはスコップを構えて『Dig!』と一声叫んだ。カッと太陽のごとき光がスコップから放たれ、階段のある床にドゴゴゴと多重残像が走り、光がおさまったとき階段はもはや階段ではなくトロッコになっていた。

 線路があって、人が乗る用の箱があって、奥深くまで続いている。

 

「は?」

 

 シーラはわけがわからない。

 

「アラン……シーラ姫は普通の人間なんだぞ。少しは人類と対話しろ」

「む。すまん、配慮が足りなかったか」

 

 アランはうなずいて説明を始めた。

 

「シーラ、案ずることはない。これは地下13階への直通トロッコだ」

「は?」

「なぜトロッコかというと、俺は鉱夫でトロッコが得意だからだ」

「は!?」

「む、まだわからんか……つまりなんだ、トロッコは鉱石運搬によく使うだろう」

「は!!??」

 

 鉱石の運搬によく使うからなんなのですかーっ!?(シーラ心の悲鳴)

 

「(今回のお姫様も、もうだめそうだな)」

 

 思いつつも口には出さないカチュアだった。どうせ何を言っも無駄だし今は一秒でも時間が惜しいのだ。そんなわけで3人でトロッコに乗ってジェットスコースター(スコップ動力のジェットコースターのこと。たのしい)で地下13階にたどりついた。

 シーラは目を回してぜーはー言っている。

 

「む、ちょっとスリルがありすぎたか」

「そういう問題じゃない――姫殿下がいるのはここか?」

 

 言いながらカチュアが辺りを見回すと、そこはがらんとした、広い空洞だった。岩がごつごつと張り出しているが、そこに黒い粘液がこびりついていて、粘液はときどきうごめいているようだった。明らかに邪悪の巣窟だ。

 

「この部屋のどこかにいるはずだ。二人とも、探すのを手伝ってくれ」

「アランでも姫殿下の位置がわからないのか?」

 

 カチュアは驚いていた。

 この男はスコップでだいたいなんでも探す。

 情報収集は鉱夫の必須技能だとか毎日のように言っている。

 

「リティシアは《スコップ・センス》では発見しづらく精度が出ないのだ」

「なぜだ?」

「俺は鉱夫だから、生命体や鉱石をスコップで探すのは得意だ。だが」

 

 アランは残念そうにつぶやく。

 

「だが――スコップでスコップを探した経験は、いまだかつてない」

 

 数秒ほどの間があった。

 

「……………ああ、うん、確かにスコップでスコップは探せないな」

 

 アラン的にリティシアはもはや生命体としてカウントされてないらしい。

 当然だなとカチュアは思った。あの姫殿下はそれだけのことをした。

 

「あ、あの、お二人とも、あそこに誰かいます!」

 

 ジェットスコースターの肉体的及び精神的衝撃から回復したようだ。

 シーラが指さした先を見ると、たしかに、ぼんやりと白く光る台座が見える。

 三人ですぐにそこに向かう。

 すると見えた。

 

「む」

「あ、この方は……っ!?」

 

 シーラは息をのんだ。

 古く赤黒い血のこびりついた祭壇に、金髪の女性が縄で縛られていた。ぼろぼろの白布をまとっていて、肌色が惜しげもなくさらされている。その肌には明らかに拷問の跡が見てとれた。だがシーラがいちばん驚いたのは――。

 

「て……天使、さま……っ?」

 

 その女性がリティシアではなくて。

 背中に雄大な翼を身に着けた、神々しい光を全身から放つ天使だったことだ。

 はじめてみる天使。それは伝説に伝わる姿そのものであった。

 シーラは口を開けたまま止まった。

 だって、はじめてなのだ。

 こんなにも綺麗なものが――この世に存在するのかと。

 とか思っていたらアランが普通に天使に近づいて頬をぺたんと触った。

 

「ええええーっ!?」

「リティシアの擬態、ではないようだな。普通の天使だ」

「そうだな。普通の天使だな」

「え、ちょ、あの『普通の天使』ってなんなのですかっ!?」

 

 まるで慣れ親しんだ相手みたいにぺちぺち触るアランを見て仰天している。

 

「いや、天使はわりと頻繁に会うからな」

「ひんぱんにあう!?」

「(平仮名化した。いよいよシーラ様もだめだな)」←カチュアの名推理

 

 アランは二人の天使を従えている。《空の国》でのオーブ探索の旅のときに知り合った天使長ガブリエラと、見習い天使ルーシィだ。この祭壇に縛られた天使は、どうやらガブリエラと同格の天使のようだった。

 だが――少し天使の様子がおかしい。

 

「ううう……あああああああ……っ!」

 

 太ももを内側に閉じて、頬を赤らめて、高い声で悶える縛られ天使。

 その原因は明らかだ。翼の先端が、不気味な紫がかった黒に染まりかかっている。アランとカチュアは、それに見覚えがあった。かつて天使長ガブリエラの心を黒く染めさせた『堕天の黒き快楽』をまさにその身に受けているのだ。

 天使という存在の、汚染。

 

「放っておくわけにはいかんな」

 

 アランはスコップを取り出した。

 カチュアは《空の国》でのできごとを思い出していた。あのときも確かにアランがガブリエラを《堕天の黒き快楽》から救い出していた。ただその方法はスコップから出す光で翼の汚染を上書きして心をスコップ染めにするという方法だった。

 要するにスコップ汚染である。太陽の天使からスコップの天使になっていた。

 カチュアはため息をついた。

 また天使にケンカを売るのか……と、思ったそのときだ。

 アランが『ちゃきん』とスコップを天に向けた。

 

「ん? どうしたんだアラン?」

「前回のガブリエラで、堕天対策に《スコップ・ライト》は少しまずいとわかった」

「少しどころじゃないが、それで?」

「本物の《天界の光》を使う」

「どうやって」

「もちろん」

 

 アランは『Dig!』と一声叫んだ。ドシュオオオオオオウウウズガアアアアン! 文字通り天をも穿つ青白い光線が発射され、地下13階の邪教神殿の天井を突き抜けて地上に出て雲を蹴散らし、雲のあった場所にギォォォンとぶつかった。

 ドゴオオオオオウウゥゥゥゥウン!

 天界へと通じる、穴であった。

 そこから神聖な光が漏れ出てなぜか地下13階まで届いた。

 その光が天使の翼を包み込んで、やわらかく、黒色から白色に染まった。

 

「(゜Д゜ ;;)」←シーラ

「(゜Д゜ ;;)」←カチュア

 

 呆然とする二人に向かってアランは告げた。

 

「もちろん――波動砲で天界への門を開くのだ」

「のだ、じゃない!!」

「太陽神エルと交戦したとき、天界の門があの雲にあることがわかったからな」

「わかったからなんだ!!」

「天界の光を使うことでスコップ汚染はガブリエラに比べ25%となる」

「それでも25%も残るのか!? あああどこから突っ込めばいいかわからん!」

 

 叫びながらカチュアはシーラに振り返った。

 

「―――――――――」

 

 目の光がない。

 もはや人類としての機能を完全に停止したのか――と思いきや。

 

「ああ――ああ――」

 

 いきなりひざまずいて、ぷるぷると何かを拝みだした。

 

「エル様――私は、私は、ああ、夢を見ているのでしょうか――っ!」

 

 カチュアはちょっと安心した。

 よし、スコップじゃなくて神様に祈ってる、この子はたぶんまだ大丈夫だ。

 

 

 △▼△

 

 

 回復した金髪の天使はサリエラと名乗った。

 

「地上のものよ、よくわからぬが、私を助けてくれたのだな。礼を言う」

 

 しゃんと姿勢を正し、礼儀正しく頭を下げるサリエラ。

 どうやらスコップ汚染は見えない、よかった、とか思ってたら。

 

「私はそなたらのな『すこ』とに『すこ』く感謝しているぞ」

 

 ズガン!!(床にぶつかるカチュア)

 

「やはりだめじゃないかアラン!!!!」

 

 この天使、完全にスコップ汚染されてる。

 

「いや、濃度100%のガブリエラよりはマシだ」

「だからなんだその濃度基準は……ん、どうしましたシーラ姫?」


 カチュアが見るとシーラは天使から顔を背けてぷるぷる震えていた。

 口を両手で抑えて、なんだかちょっと苦しそうだ。


「……っっ!!」

 

 というか笑いを必死で抑えていた。ああ、とカチュアは納得する。そういえばシーラ姫は太陽神エルを笑ったことに罪を感じていたのだったか。アランのスコップ絶技は凄すぎて笑う暇もなかったようだが、天使のスコップ口調はヒットしたようだ。


「ふむ? どうした人間よ」

「す……すみません!」

 

 全力で首をブルブルと横にふるシーラ。めっちゃ必死だった。

 だってだめだ。これ以上罪を重ねちゃだめなのだ。


「あの、大丈夫です、何でもないです! 私、笑ってなんかないです!」

「む……? いや笑うがよい。人の笑顔こそ天使の使命であるぞ」

「そ、そういう意味ではなくて……ああぁぁ申し訳ありません……!」

 

 ひざまずいて許しを請う姿勢のシーラである。

 どうやら罪の意識の根は深そうだ。


「で、サリエラだったか。おまえはなぜ地上にいるのだ?」


 そのままだと話が進まなそうなのでアランが口を挟んだ。


「いや――すまぬが地上の者には話せぬ」

「地底の者でもだめか?」

「なおさらだめだ。だめすこだ」

「だめすこか」

「(駄目なのはこの会話だ)」

「っっっ!!!」


 シーラがしゃがみこんで必死で耐えている。かわいそうな聖女だった。

 と、そんなシーラにサリエラは視線をやった。

 

「む……いや待つがよい。そなたはまさか、シーラ殿か?」

「はっ!」


 シーラは『おかしくない! おかしくなんかないです!』とつぶやいて立ち上がる。


「はははい! 私がシーラです、サリエラさま!」

「了解した。すこやかな女の名前であるな」

「すこやか……? ……っ!」

 

 なにかに気づいたシーラが感情を抑えるためにぎゅっと身を縮めた。

 

「む、どうした? その身の縮め方、すこティッシュフォールドか?」

「っっっっ!!」

 

 シーラの目尻にじわりと涙があふれて頬が緊張してもう倒れそうだ。

 この天使汚染されすぎである。これで汚染度25%か(絶望)。

 とかカチュアが考えていたら。


「シーラよ。私はそなたを探して地上に降りてきたのだ」

「けほっ……わ、私を?」←がまん中シーラ

「そなたには話そう。この世界に迫る危機と、たったひとつの、すこな希望を」

「~~~~~っ!!」

 

 なんか深刻な話がはじまりそうだがシーラはもう卒倒寸前だ。

 

「アラン。次は5%以下にしてくれ」

「善処する」

 

 ともかくサリエラは語りだした。

 主神にして太陽神エルが天界から姿を消した。

 原因は、不明。

 だが、そこからすべてがはじまったのだ。

 

「天界はいまや、シャベルの極みにある」

「(これもう突っ込んだら駄目な奴だな)」

 

 最大の神格として天界を独裁していたエルの不在により、各パンテオン――《元素》や《法》を中心としたパンテオンが、情けないことに、権力闘争を繰り広げている。だがそれより遥かに問題なのは、主神不在の長期化で、光の力が薄れつつある。

 エルが封印した《魔のもの》が、地上に這い出つつあるのだ。

 サリエラは無念そうに首を横に振ると、歌うように。

 

「そう、あたかもシャベル掘りで地上を目指す地底人のように――だ」

 

 わけのわからない比喩をくりだしてきた。

 

「アラン!!」

「気にするな」

 

 カチュアを猛烈な頭痛が襲ってきた。慣れた頭痛だった。

 サリエラの話は続く。

 地獄の公爵アスモデウスをはじめとする七大魔王。邪神が世界を破壊するために生み出した究極の兵器《竜王》。異界より到来した、名前もいうにはばかれる異形の神々。それら魔の者を、世界の奥深くに封印していたのが、主神エルの力だ。

 その封印力が弱まり、地上に《魔のもの》が進出している。

 

「そ、そんなことが……っ!?」

 

 シーラの表情から笑顔が消えた。

 確かに心当たりはある。

 聖騎士団の報告によれば辺境の地に強力な悪魔が出現していた。

 突如として出現したこの《暗黒神殿》も証拠のひとつだ。

 

「だが希望は残っているのだ。《神剣の巫女》シーラ殿、そなただ」

「……わ、私?」

 

 サリエラは説明する。太陽神エルは地上に生きる人類のために、強大な神力の一部を九振りの剣《九神剣》に封じ込めた。だが、ふだんは剣の形をとってはいない。人の魂そのものに剣を封じた。それこそが――《神剣の巫女》なのだという。

 神剣さえあれば《魔のもの》の封印も可能だろう。

 また主神エルとの交信も可能となる。天界に呼び戻せるかもしれない。

 

「私に、そんな剣が――?」

「いかにも《神剣の巫女》よ。そなたが捕まったのも、それが理由だろう」

 

 自分の体にそんな神の力が宿っているのか? 呆然とするシーラ。いちおう《九神剣》の伝説は知っているが、人の魂そのものに剣の力が宿っていたとは。代々伝わる聖なる力はひょっとしてその力なのか?

 

「その《神剣》を取り出すには、どうすれば?」

「儀式が必要だ。多大な犠牲を伴う儀式だ。巫女よ、覚悟はあるか?」

「え……? あ、も、もちろんです!!」


 シーラは再びサリエラにひざまずいた。

 手を組んでうつむき、神に祈る姿勢。


「私にできることなら、なんでもいたします……っ!」


 もし太陽神エル様を笑ってしまった罪を償えるなら。

 シーラは命も誇りも、すべてを投げ捨てる覚悟があるのだ。

 

「うむ。良い心がけだ。それでは、そなたは今から」

 

 ごくりと息をのんでサリエラの言葉を待つシーラ。

 そんなシーラにサリエラは、荘厳そのものの声で告げたのだった。

 

「『スコップ(動詞)』をしてもらう」

 

 たっぷりの時間があった。


「――――――――!」


 シーラは湧き上がる衝動に必死で耐えていた。

 これは試練だ。さっき『なんでもします』と誓ったシーラを試す天使サリエラの試練なのだ! 歯を噛み締めて足の指先に力を込めてとにかく耐えた。真剣になるのだ私。そうだ真剣に。真剣に神剣のことを考えるのだ――しんけんにしんけんのことを――ふふ。


「ああああああああああああっっっ!?」


 いろいろ限界だったシーラは完全敗北した。

 ごめんなさいごめんなさい、と泣いて謝るシーラ。


「(やはりもうだめだな)」


 そんなシーラを見て、カチュアはとある確信を抱いていた。


「(《神剣の巫女》とか言ってたが――)」


 ――これ絶対、神剣じゃなくて、神のスコップが出てくるパターンだ。

この回は第2部の真面目な設定説明回にするつもりでしたが、ぼくが一刻も早くシーラちゃんにTSUGUNAIスコップをさせたいと思った結果こうなりリティシアの出番がもうちょっと遅れるはめになったでござるの巻。

あ、それと書籍1巻の発売日ですが1月25日となります。がんばるです。

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