第68話 ( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ
「(わたし――わたし、言って、いってしまった――っ!)」
リティシアの内心はどきどきばくばくであった。
アランがなんでもしてくれるというので『えっちなスコップ(動詞)』を要求したリティシアだが、2秒後にはもう後悔していた。いやらしい。なんてはしたない。直球でエッチして妊娠したいとか。
でも、でも、もう訂正はできない。
だってしたいのだ。
エッチなこと、したくてたまらないのだ。
スコップにも女の子にもあるまじき思いだけど止まらないのだ。
だからリティシアはじっと、アランを見つめて、返答を待った。
やがて。
「わかった」
「!」
アランの返答で、全身に歓喜がほとばしった。
アランは更に続けた。
「リティシア。旅の間、俺にはおまえの言葉がほとんど理解できなかった。それでも、例え理解できなくとも、俺はおまえになんでもしてやりたい。おまえの望むすべてを与えたい。なぜなら――リティシア」
アランはそこで言葉を止めた。
これまでで最も真剣な口調で、宣言する。
「俺は、リティシアが好きだからだ」
「!!」
うおう! カチュアは心の中でぶっ飛んでいた。
これは告白だ。しかもスコップじゃない、人類的な告白だ!
「本音を言えば、おまえをずっと、掘り尽くしたかった」
「!!!」
更なる爆弾発言である。
だがスコップ寄りになっているが。
「俺にはおまえが何を考えているかわからん。それはつまり、未知の鉱脈だ。なぜ言語がスコップなのかも、なぜ俺と子を成したいのかも、未だに理解できん。だから欲望が止まらんのだ。リティシアの心も体も――すみずみまで、掘り尽くして」
リティシアをぎゅっと抱くと、アランは宣言する。
「未知なるリティシアのすべてを、俺のものにしたいという、欲望が止まらんのだ」
数秒の間があった。
リティシアは感動に打ち震え、アランと見つめあっている。
カチュアは『もう私いなくていいんじゃないかな』と窓を見ている。
「鉱夫、さ、ま」
「えっちなスコップ(動詞)での子づくり、はじめるぞ」
こくりとリティシアがうなずく。
己の豊満な胸を盛り上げるプリンセスドレス。
それに手をかけようとして――はっと、何かに気づく。
「あっ……! ふ、ふ、服は着たまま、でしたよねっ!」
「む?」
「は、はじめての練習スコップの時に……そう仰ったので……」
何度も何度も脳内シミュレーションしてスコップ(えっち)である。
今こそその経験を活かすべき時だ! が、アランは首を横にふると。
「いや、その服は脱いでおいたほうがいい。おそらく破れる」
などととんでもないことを言い出した。
「破れる!?」
「なるべく優しくするつもりだが、俺も初めてで、加減がわからんのだ」
「あ、あ、あうううぅぅうぅぅぅ」
いきなりの乱暴な宣言にクラクラしてしまうリティシア。
でも嫌なわけじゃない。むしろ、むしろ――。
「お、お、お望みなら……激しく、して、くださった方が……」
「そうなのか?」
「あの、あの、り、リティシアはその……」
唇の前でつんつんと指を突き合わせながらリティシアは言う。
「こ、鉱夫さまの望む、えっちなこと……ぜんぶ、してあげたいです……」
健気にそんなことを言う姫を見れば、アランとしてもうなずくしかない。
「では、このままするぞ」
「は、はいいぃぃ……」
ぽおおっと頬を染めて幸せいっぱいのリティシアである。
服は着たまま、あと、えと、大事なのは――そう場所っ!
いまこの場には、玉座ぐらいしか存在しない。
「べ、べ、ベッド……ベッドは、その、いるでしょうか……っ」
リティシアの乏しい知識ではベッドは『えっちなスコップ』の必需品だ。
真っ白なシーツをつかんで、快感に耐えなきゃ、いけないのだ。
「ベッド……? それも壊れてしまうぞ」
「ベッドも壊れちゃうんですか!?」
「初めてで加減がわからんのだ」
驚愕であった。クラクラどころかフラフラしてくる。
さすがは鉱夫様。服どころかベッドまで壊れるなんて!
でもでも、鉱夫さまのすべてを受け入れると決めたのだ。だからリティシアは己の赤いスコップを握った。玉座の間にキングサイズの真っ白シーツのベッドが、シュゥンと転移してきた。嵌め込まれた7つのオーブの力だ。
アランはうなずくと。
「ではリティシア。そのベッドに座ってくれ」
「あ……は、は、はいっ……すわ、すわります、すわります!」
「なるべく集中できる態勢で頼む」
コクコクコクと高速でうなずくリティシアだった。
集中。えっちに集中。つまりえっちな格好!
――乙女回路全開のリティシアを見て、カチュアはため息をついた。
「(退出しよう)」
さっさと二人きりにしてやるべきだ。2時間、いや3時間ぐらい、部屋の外に出ていればいいだろうか……もしその間に神が襲ってきたら? そのときは、自分が戦うしかないだろう。
主君を守るのは騎士冥利に尽きるというものだ。
決して『もう勝手にしてくださいふたりとも』という諦めではないのだ。
カチュアはアランに背を向けようとした、そのとき。
「待てカチュア、どこへ行く」
アランに引き止められてしまった。
「いや、どこへって……その、二人でごゆっくり?」
「いや、俺はカチュアも見ているべきだと思うが」
一瞬の間があった。
「「ええええええええええっ!?」」
同時に叫び声があがった。カチュアとリティシアである。
「何を驚く。カチュアにも参考になるだろう」
「待て待て待て、さ、ささ、参考だとっ!?」
とてつもない無茶を言いだしたぞこの男。
ハッと何かに気づき、カチュアは己の胸を隠すように抱く。
太ももをキュっと閉じて、むっちりした肉をアランの視線から隠す。
「ちょ、ま、まさか、まさかおまえ、私にも、するつもりなのかっ!?」
「む……? いや、お前が望まない限りそれはないが」
「望んだらしてしまうのか!?」
「するが」
待て待て待てそれはリティシア姫に失礼というか私はぜんぜんそんなつもりはないというか、でも胸がキュンキュンしてしまう。抑えろ私、なにかんがえてるんだ、などとカチュアが混乱しているとリティシアが動いた。
「あの……か、カチュア、その、ここにいてください」
「姫殿下までっ!? 恥ずかしいでしょう!?」
「は、はずかしいですよ! ですけど!」
きゅうっと自らの身を抱いてリティシアは言う。
「こ……鉱夫さまは、み、見られながらが……いい、みたいですから……っ!」
姫殿下ちょっと従順乙女すぎませんかね!?
だがカチュアの叫びは声にならない。おかしい。こんなのおかしい。だいたいそういうのは二人の秘め事だ。アランの趣味が明らかにおかしい。こんなにも頭がおかしいやつだったなんて思わなかった――!
「(……って、あれ?)」
何か違和感がある。
アランはそんな倒錯的な性趣味を持っているのだろうか、という。
さっきはクロノノを抱くのは犯罪だとか、常識的なことを言っていた。
そも、スコップ以外ではわりと論理感のある男だったはずだ。
姫殿下と違って。
「そ……それ、では、すわ、ります……ね……」
カチュアがちょっと疑問を覚えている間にも事態は進行する。
「あ……う」
精神を集中できる姿勢。
それはつまり――えっちなポーズのことだ。
リティシアはベッドのシーツの上に膝を置いた。ごろんと、枕を背に寝転がる。足は体育座りみたいに立てる。豊満なむちむちした左右の太ももが、限界まで見える。ぴっちり肌を覆う純白ストッキングと、太ももの付け根の間が、ぷっくりふくれている。
ストッキングを吊るのは、白く紋様のあるガーターベルト。
リティシアのスカートの奥には、下着がある。
いつでもアランに見られていいようにした、清楚だけどきわどいエッチな下着だ。
アランの視線を感じる。
はずかしい。
でも、見てほしい。
「あう……鉱夫……さまっ……」
胸を抱きながら強調する。
たゆんたゆんと揺れる王女の2つのメロン丘。おっきくはある。形だって、綺麗なまんまる型のはずだ。お風呂に入るたびに、いつアランに見られてもいいように、念入りに洗っているところである。
大きさはフィオちゃんほどではないけど。
鉱夫さまは、気に入ってくれるだろうか……。
どきどきしながらアランを見ると、やる気満々でスコップを構えていた。
「ああぁ……っ」
されちゃうんだ。えっちなスコップ(動詞)されちゃうんだ。
嬉しくて、嬉しくて、たまらなくて、リティシアはきゅっと目をつむった。
そのときだった。
アランの目の前に、ふわりっと白い羽が舞った。
『アラン! アラン! もう時間がないわっ!』
羽に次いで空間を切り裂いて現れたのはスコップ守護天使・ルーシィである。
血相を変えながら、パタパタと羽ばたいていた。
「気付かれた! もう持たないわ、太陽神エル様が向かっているの、早く逃げて!」
カチュアはほっとため息をついた。
姫殿下には残念だがいいところに来てくれた――と思ったら。
「それはできん」
「なっ!?」
「俺はこれからリティシアと子を成すのだ。誰にも邪魔はさせない」
「ちょ、何を言っているの!? エル様が来るまで3分もないわ!」
「大丈夫だ。1分あれば終わる」
「いっぷんっ!?」
叫んだのはカチュアだ。なんて男だ、そりゃ城を30分で作る男だから(口ではとても言えないプレイ)も1分でできてしまうのか。って私は何を考えているんだ、問題はそこじゃなくて……っ!
「そ、そんなに激しく動いたら、姫殿下が壊れないか!? 一応、乙女だぞ!」
ちがう問題はそこでもない! 心の中でセルフツッコミした直後。
「動く……? いや、動く必要はないだろう」
「は?」
「もう時間がない。はじめよう」
アランはすちゃりとスコップを頭上に構えた。
「(――待て)」
カチュアはぞくりと背筋が冷えた。なにかが決定的に間違っていた。なぜアダマンティンのスコップ(比喩ではない本物)を構える? なぜ1分で終わる? なぜ私にまで見させようとする?
「ゆくぞリティシア。これが俺の――!」
ドゥゥゥン。
アランから青白い炎が立ち上った。炎のように見えるオーラだった。空間そのものを焼き尽くすかのごとき、強烈さだ。周囲のスコップ地獄と化した世界そのものが焼け落ちてゆく。その燃え殻がアランに吸収されてゆく。
ドドドドドドドォォォオォォ!
周囲を燃やし尽くしながらなおもオーラは増大する。
それがアランに頭上に収束してゆく。形はまさにスコップ。
巨大に燃え盛る、太陽のごとき――スコップオーラである。
いやいや。
「待って」
カチュアが言った。だがアランは待たなかった。
ベッドでえっちなポーズをするリティシアを見る。愛しかった。己に理解が及ばぬスコップ・プリンセス。そのすべてを自分のものとしたい。おのれのすべてを、リティシアに叩きつけたい。止まらぬ想い。
「――リティシア!」
こみあげる欲望の全てをスコップに詰め込んでアランは叫ぶ。
『D i g!』
ドシュオオオオオオオオオオウウウウウウウウズガアアアアアアアン!
「(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ」 ←リティシア
リティシアが、そして世界が、つらぬかれた。
圧倒的なまでに巨大なビーム。世界のすべてが埋め尽くされる。月も星も太陽も宇宙すらも飲み込まんばかりの青白いうねり。アランのスコップ先端からとてつもない轟音と爆風と共に放たれ続けている。
空間が切り裂かれていた。
スコップ地獄と化した世界が飲み込まれ、一瞬で素の草原の国へと戻った。
それでもビームは止まらない。リティシアを中央にとらえ、照射し続けている。
アラン超必殺の、波動砲である。
「うおおおおおおおおおおおおいい待てえええええええええええええ!?」
そのへんでついにカチュアがツッコんだ。
「何を撃ってるんだアランーーーーーーーーっ!?」
アランはなおも波動砲を放ち続けている。
その対象はリティシアだ。消滅はしていない。服もベッドもとうに壊れているが、体はまったく傷つかず、その美しい裸体を晒していた。ちぎれた服がかろうじて局所を隠しているが、こんもり盛り上がった胸の先端が激しく揺れていた。
リティシアが、声をあげた。
『ふああ……んんんあああぁぁぁっ!?』
なに。なにこれ。わからない。わかるのはただスコップ。スコップに全身がこすられているということだけ。こすられてる。すこられてる。鉱夫さまのスコップ波動砲にこすこすこすこすこされてる――はどうほうで――えっちな――っ!
『えっちな……!』
そのときリティシアは理解した。してしまった。
『ふあん……ああ鉱夫、さま、まさかそういう、こと……なのですかっ!』
「いったいなにがどういうことです!?」
耐えきれずツッコむとリティシアは(波動砲を受けつつ)答える。
わりと余裕があるみたいである。
『ひあう、え、えっちはイニシャルなのです……カチュア……っ!』
「すみません人類にわかりやすく解説願います!」
『波動砲のスペルです……っ!』
「は?」
なにいってんだこの姫殿下。
思いつつカチュアは考えてしまう。
スペル。波動砲のスペル。HADOHO。
ぞくり。
人生で最もスコップな気づきがカチュアの頭をよぎった。
「まさ――か」
HADOHOのイニシャルは『H』である。
「……………………あ」
とてつもない脱力感がカチュアを襲った。
「あ、ら」
カチュアは深呼吸をした。己の精神をなんとか鎮めるためだ。だが無駄だった。昂ぶる衝動は何をしても抑えられなかった。いましがた理解してしまったHADOHO理論に、ツッコミ衝動がどうしても抑えられなかった。
「ア、ラ、ン!」
そのへんでカチュアは全身全霊の、人生最大のツッコミを入れた。
「な・ん・で・そうなるーーーーーーーっ!!!!!!!!!」
「なぜ――」
問われてアランは自問する。なぜリティシアは『えっちなスコップ(動詞)=波動砲』での子づくりを望んでいるのだろう。一瞬だけ『よもや、波動砲ではなく人間的な意味でエッチなことか?』という思考が頭をかすめたが、しかし瞬時に却下した。
「(リティシアは――俺の理解を超えた少女なのだ)」
であれば、アランにも理解可能な普通にエッチなことなど望むはずがない。
「なぜかと問われれば俺にもわからん――それでも、やるのだ」
リティシアがえっちなスコップ(波動砲)での受胎を望んだ。
ならばやると決めたのだ。生命誕生の論理を覆すのだ。
どれほどの無茶であっても、押し通すと決めたのだ。
なぜなら――。
「俺はリティシアを――どうしようもなくスコップな、おまえを」
アランはぐっとスコップを握った。
そして天上にも届かんばかりの声でカチュアに答えた。
「愛しているからだ」
一瞬の間の後、波動砲の直径が倍ほどにも膨れ上がった。アランの服が弾け飛んだ。なおも強烈に輝き続ける波動砲。カチュアに意識が消えゆく。世界が塗りつぶされる。最後にカチュアは、全身全霊でツッコミを入れた。
「愛しているなら、ふつうに抱け――――――ッ!!!」
ドシュオオオオウウウゥゥゥゥドゴォォォォォォォォン!
カチュアのもっともなツッコミはかき消され、すべてが波動砲に飲み込まれた。
――後に謳われるスコップ神話、その序章であった。
△▼△
もうもうと土煙のあがる中にカチュアは立っていた。
すでにスコップ地獄は解除されている。だが地獄よりひどい光景だ。ロスティール城は波動砲に飲み込まれ消滅していた。ここは既に瓦礫の山だ。無事なのは地面に広がる真っ白なシーツと、そこに寝転がるほとんど裸のリティシアだ。
ていうか無事とはいいがたい。
もう、コトを終えた感じの姫殿下なのだ。
「鉱夫……さま……こうふ、さま、こうふさま……っ」
はぁ、はぁと息も絶え絶えな様子だ。周囲にはちぎれたプリンセスドレス。肌は汗だくで、白い液体(たぶん波動砲の残滓)にまみれている。大きな胸が呼吸するたびにぷるんぷるんと揺れている。
そのお腹のあたりで――キラキラと何かが光った。
スタイルのよいくびれ部が、ぽこんと小さく膨らんでいる。
そんなリティシアにルーシィが羽ばたいて近寄ると。
「えと……あの」
何を言っていいのかわからない様子だが。
とりあえずルーシィは笑った。笑うしかなかった。
そして死んだ目で、天使のお仕事をすることにした。
「ご懐妊されてます……おめでとうございます」
処女受胎の告知である。
「あ……ああ……あううぅぅぅぅ」
ぽろりとリティシアから涙がこぼれた。
うれしくて、うれしくて、うれしくてたまらなかった。
そんなリティシアにアランが近付いてきた。こちらの方がリティシアよりひどい。上半身は完全にボロボロで、なぜか傷だらけだ。アダマンティンのスコップはまるで数億年経った化石のようにボロボロだ。
すべてをやり遂げた戦士の――もとい鉱夫の表情であった。
「生命の誕生……スコップの力をすべて使った……うまく……いった……ようだな……」
アランは残りの力を振り絞って笑みを浮かべてみせた。
そして、力尽きたように、ドウっとリティシアの側にぶっ倒れた。時を同じくしてリティシアもアランの胸板に、倒れ込んだ。ふにょんっと胸をつぶしながら、抱き合うようにして倒れる二人だった。
アダマンティンのスコップが役目を果たしたかのように塵となってゆく。
太陽に照らされたその塵が、風の中へと消え去っていった。
「…………………………神話、だな」
カチュアが呆然とつぶやいた。
目の前で起こったことは、まちがいなく神話だ。地上最強の男が、地上最狂の女と愛を交わした。天使に処女受胎を告知され、幸せ絶頂のなか、ふたりは裸で抱き合っている。誕生してくる子どもは神にも等しい力を持つだろう。
新たなる神話の誕生。
自分はその立会人だ。
感動しよう。感動すべきだ。
そう自分に言い聞かせていると、リティシアの寝息が聞こえてきた。
「すこ……すこ……鉱夫さま、すこ……」
すこーん。
リティシアの赤いスコップが胸からこぼれ落ちた。
ぶちん。
カチュアの理性が事切れる音であった。
ざくざくと、足下の地面を掘り始める。
「勇者カチュア?」
「ああ、ルーシィ……少し永久に眠ろうと思ってな」
「それ永眠ですよね!?」
「これ以上世界がスコップに変わりゆく光景を見ると、私もスコップになる」
カチュアはフッと笑った。もう終わりだ。
スコップ地獄は元に戻ったがロスティールはスコップ教の聖地と化した。
ただの人間であるカチュアが守るべき国は、もう、どこにもない。
「だ、だめです! 貴方がいなくては誰が世界を救うのですかっ!」
「頼む……もうだめだ、世界は終わった……せめて私は人間のまま死にたい……」
「だめだめだめですーっ! だいたいカチュアも割と人間やめてるじゃないですか!」
「なにいっ!?」
などと言い合いをしていたときだった。
ルーシィがビクンと震えた。
「っっっっっ!?」
圧迫感。熱。とてつもない。
「な……!?」
カチュアの全身に鳥肌が立つ。
アランの処女受胎ビーム以上のプレッシャーだ。
ほとんど反射的に天を見上げた。そして目を疑った。
「空が……太陽がっ!?」
巨大な太陽がすぐそこにあった。そして空がなかった。より正確に言えば、まるで鳥のような大群が空を埋め尽くしていた。空が3で、鳥が7。だが鳥ではない。鳥は輝く神聖オーラを放ったりしない。
ルーシィが震えながら絶望的な声でつぶやいた。
「あ……あ、エル、さま」
「エル?」
ルーシィの視線の先を見る。
カチュアにはそれは太陽に思えた。
だがすぐに、そうではないとわかった。数キロ向こうにいるというのに、その姿はまるで意識そのものに突き刺さるように、はっきり認識できる。完璧な、金髪の少女だ。目をつむっていて表情は伺えない。年齢は人間でいえば14ぐらいか。
だが明らかに人間ではない。
顔も、耳も、胸も、太ももも、翼も、存在そのものが光り輝いている。
足の先にまで届く髪は、神々しく――比喩ではなく神々しい、金色の光を放っている。
その激しさといったら、まるで太陽のフレアのようだ。
「あれが……神……?」
ただひとつ、完璧でないところがあった。
白く輝くふんわりローブの一部が破けて、胸が見えかけていることだ。
その破れ方は激しく、今しがたアランに妊娠させられたリティシアのようだ。
なぜに?
少し考えてからカチュアの頬からたらりと汗が落ちる。
あの服はまさか――。
そのとき太陽神エルの声が、空に響き渡った。
『定命のものたちよ。汝らの罪状を告げる』
ゴゴゴゴゴと空気が震えだす。
『一、不遜にも、我が世界を、地獄にて塗りつぶした』
カチュアはその声で予測が正しいことを知った。
服が破れてるのはたぶん、アランの波動砲が当たったせいだ。
『ニ、我が日輪に、不遜で不浄なるモノを突き刺した』
『三、最も神聖たるべき生命誕生の営みを、冒涜した』
『四、至高神にして太陽神エルの、おきにいりの服を、乱暴にやぶいた』
『汝らの、四つの巨大なる咎に、太陽神エルの名において判決を下す』
そこで太陽神エルは目を見開いた。
さっきまでの威厳ある女神は消え去り、そこにいたのは子どもだ。
頬をぷくーっとふくらせて、涙目になってカチュアたちを睨むと。
『ぜえええええええええったいに! ゆるさないんだからああああああーーーっ!』
凄まじい勢いで空から飛来する天使軍。
カチュアは聖騎士の剣を構えた。危機だった。アランの波動砲ですら服が破れただけの太陽神が、その怒りをぶつけてきている。だがカチュアは笑っていた。だって私がおかしいんじゃないって、わかったのだ。
あの子どもっぽい太陽神様も、大激怒している。
だからやっぱり、リティシア姫殿下とアランは――。
「やっぱり怒られたじゃないか、アランッ!」
神様も怒るぐらいに、おかしなスコップを、したのだ。
(゜Д゜ ;;)
↑この話を書いたときの作者の心境
あ、あと2話で最終回です。たぶん。すこべる(わからないの意味




