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スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第8章 スコップの国のスコップ(???すこ)
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第67話 王女、鉱夫になんでもしてもらう 

 スコップ大神殿・祈りの間(旧 ロスティール城・玉座の間)。

 自称シャベル(リティシア姫)はアランと戦い、2秒で負けた。

 

「すこですー!?(´・ω・`)」

「何がしたいんですか姫殿下……」

 

 というか戦いにはならなかった。

 カチュアが見たところを正確に描写するなら、アランに襲いかかろうとしてすべって転んだところでアランにお姫様抱っこされて、姫はふにゃんと骨抜きになった。アランに触れられると力が抜けてしまったかのようだ。

 なんだかんだでアランが大好きなのだ、リティシアは。

 にも関わらず襲いかかってきたのはーーどうしてだろう?

 

「はうぅぅぅぅ……や、優しすぎますこ、鉱夫さま……」

 

 しくしくと泣き始めるリティシア。

 アランにすがるような視線を向けると。

 

「鉱夫さま……わ、わたしをどうか、スコップで倒してください……っ!」

「できるわけあるか。俺はおまえを守る」

「!!??」

「最初から最後まで、何があってもリティシアの味方だ」

「!!!!」

 

 真っ赤になり嬉しがりつつ『そうじゃないんですー!』と言いたげなリティシア。

 そんなリティシアを抱きかかえ、アランは真っ直ぐにリティシアを見つめる。

 

「だから聞かせてくれ。何故こんな――シャベルな真似をした?」

 

 シャベル=間違った行為という意味だ。たぶんこの世界のスコップ地獄化させた行為を指している。カチュアは頭痛をこらえながら理解した。アランとリティシアの会話はいちいち翻訳が必要なのだ。

 正直、今の会話の方がこの世界よりよっぽど気が狂ってると思う。

 

「あ……う」

 

 アランの視線に、リティシアは一瞬トロンと瞳をたゆとわせた。唇が開きかける。だが直後、キュウっと、抱っこされたまま体全体を縮こまらせた。言えないです。これだけは絶対に言えないんです。そう叫ぶかのようだった。

 どうやら決意は硬い。

 

「(だが――急がなければ)」

 

 アランとて引くわけにはいかない。

 世界のスコップ地獄化はなおも進行中なのだ。

 今こうしている間にも、いつ太陽神が《神の怒り》を落としてくるわからない。

 自分はともかく、リティシアとカチュアが神の怒りを喰らえば命が危ないのだ。

 すちゃり。

 アランは自らのアダマンティンのスコップを構えた。

 そして厳かに宣言する。

 

「時間がない。リティシア、おまえの真意を《掘らせて》もらうぞ」

「すこ!!!???」

 

 リティシアが『しゃべるるるるー!?』と慌てだす。だめ。それだけはだめ。気持ちが知られちゃう。じたばたと暴れるが、もちろんアランへの抵抗など無意味だ。スコップは全てを掘り尽くす。

 リティシアの目にじわりと涙がうかぶ。スコップの形の涙だった。

 知られちゃう。鉱夫さまに。

 シャベルな自分の心が――知られてしまう。

 

「心を掘られるのが恥ずかしいか、リティシア?」

「…………す」

 

 コクンと涙目のままうなずくリティシア。

 アランは『そうか』とうなずくと、少しの間考えて。

 

 

「ならば――俺もおまえに《掘られて》やろう」

 

 

 などとスコップな宣言をした。

 リティシアが『すこ!?』と驚きの表情を浮かべている。

 カチュアは『そろそろツッコミやめてもいいかな』と遠い目を浮かべている。

 

「互いに心をさらけ出すのだ。一方的に掘ることはしない。俺がリティシアの真意を掘るように、リティシアも俺の真意を掘るがよい。お互いが、お互いの心を掘り合う――そのような関係であれば」

 

 アランはリティシアの手に赤いスコップを授けた。

 そしてリティシアに笑いかけた。

 

「リティシアも恥ずかしさに、耐えられるだろう?」

 

 数秒の時間があった。

 カチュアは『いやその理屈はおかしい』とツッコもうとした。だがリティシアがアランに惚れ直したように見つめているのでやめた。心を掘り合う関係ってそれは恋人なんかより遥かに深い関係だろもう結婚しろという意見も、引っ込めた。

 カチュアは空気を読めるえらい子であった。

 

「でははじめよう――《真意掘削スコッピングハート》」

 

 アランがグッとスコップを握ると、部屋に砂場が現れた。

 子どもがつくったみたいな砂山がひとつある。その側にアランとリティシアが座った。アランの前の山肌には『リティシア』という文字が彫られていた。リティシアの前には『アラン』である。

 

「(あ――う)」

 

 リティシアがぶるりと震えギュッと目をつむる。

 だがもう抵抗の様子は見せていない。アランのなすがままだ。

 もはや覚悟を固めているようだ。

 なおカチュアはもはやツッコミを放棄している。

 

 ――ざくり。

 

「っ!!」

 

 アランがリティシアの砂山を掘りはじめた。

 ポワワと砂山から人の形の煙が立ちのぼっていく。

 半透明のそれは、赤ちゃんみたいにスコップを抱いて寝るリティシア。

 そこから声が聞こえてきた。

 

 

『――わたしはとんでもないシャベルを犯しました』

 

 

「っっっっっ!?」

「(わからない)」

 

 第一声からカチュアには理解不能であった。

 だがリティシアが怯えているところから見て『罪を犯した』の意味だろう。

 声は続く。

 

『がんばった、つもりでした』

『たくさんがんばった、つもりでした』

『リティシアはスコップでもなんでもない、ただの人間ですけど』

『スコップを練習して、スコップになれるようにがんばりました』

『ぜんぶ、ぜんぶ』

『鉱夫さまにスコップ(動詞)いただくためです』

 

 カチュアはそこで耳栓を探したくなったが我慢した。

 まちがいなく、リティシアの本気の真意なのだ。

 こんなんでも我が主君なのだ。真意を理解せねばならないのだ。

 声はまだ続く。

 

『がんばったら、鉱夫さまに、褒めてもらえるようになりました』

『おまえはとっても『すこ』な女の子だって、褒めてもらいました』

『感激しました』

『ほんとに、ほんとに、感激しました』

『ただの人間のわたしでも、がんばればスコップになれるんだって』

『でも』

 

 そこで一瞬声が止まると。

 

『間違っていました』

『リティシアは最初から間違っていたのです』

『だって、だって、鉱夫さまは――』

 

 そこで声が一瞬止まると。

 

 

『すこな女の子より、ふつうの女の子が、大好きだったのです』

 

 

 カチュアは反射的にアランを見た。

 真剣な表情のままリティシアをじっと見つめていた。

 対象的に、リティシアの目尻からは涙がポロポロとこぼれていた。カチュアは『ふつうの女の子って誰です。クロノノですか。アレはかなりのスコップですよ』と心のなかでツッコンでいたが、ともあれ声は続いた。

 

『わたしはもう、ふつうには戻れません』

『鉱夫さまが認めたんです。リティシアは身も心もスコップだって』

『だから、ふつうの女の子が、クロノノちゃんが、うらやましくて』

『うらやましくて』

『たまらなくって』

『そんなときにオーブを手にして』

『みんなが――みんながスコップになれば、リティシアも、ふつうに戻れると』

『願ってしまったんです』

 

 リティシアは子どものように泣きじゃくっている。

 映像だけじゃなく、本物のリティシアもそうだった。

 

『この地獄を願ったのは、わたしです』

『わたしは悪のスコップです。むしろシャベルです』

『世界から消えてしまうべき、シャベル大魔王なんです』

『だから』

『鉱夫さま、最後のお願いです』

『どうしようもなくシャベルなわたしを』

 

 映像のリティシアがぱちっと目を開いた。

 泣きながら、アランを見つめて。

 そして宣言したのだ。

 

 

『わたしを――スコップ(放送禁止用語)してください』

 

 

 そこで映像は途切れていた。

 沈黙の時間が流れていた。リティシアがしくしくと泣き続ける音だけが響いていた。アランは微動だにせず意味を考え込んでいるようだった。カチュアは『リティシアの真意』にそろそろ自制心の限界が来ていた。

 なんの限界かというと、ツッコミ衝動の限界である。

 

「姫殿下」

 

 色々言いたいことはあるが。

 とりあえず一番重要な事実誤認だけツッコむことにした。

 

「アランがふつうの女の子が好きって……いつ聞いたんです?」

 

 明らかにトラブルはそこが起点で、なおかつ何かの狂いを感じる。

 いやリティシア姫は常に狂っているが特に何がねじれているように感じる。

 

「だって、約束の相手はクロノノちゃんがいいと、鉱夫さまが仰ったんです」

「約束ってなんのことです?」

「あ……そういえば」

「カチュアには話していなかったな。俺とリティシアは旅の始まりに約束したのだ」

 

 今さら隠し立てする理由はない。

 アランとリティシアは視線を合わせて頷きあう。

 そして同時に言ったのだ。

 

 

「子づくりをすると」「後継者を募集すると」

 

 

 たっぷり十数秒の間があった。

 やがて動いたのは、リティシアである。

 

「……………………すこ?(゜o゜;)」

 

 ぱちぱち。全力でまばたきするリティシア。

 え、あの、鉱夫さま、募集って、なんのことですか?

 そう言いたげだったのでアランはとりあえず答えた。

 

「何を言ってるんだリティシア、後継者が欲しいと言っただろう」

「すこ!? あの、その、それはつまり、息子とか娘とかのことですよね!?」

「普通に弟子のつもりだったが」

「!!??」

 

 リティシアの目が丸くなった。

 

「リティシアは王女だから募集も国民に容易にかけられるだろうと」

「!!!???(゜o゜)」

 

 リティシアがものすごい大口を開けた。

 

「だがクロノノがわりと才能がありそうなので彼女を弟子に取るのかと思った」

「!!!!????(゜o゜)」

 

 リティシアは気絶しそうなほどに驚いている。

 

「あの!? ま、ま、待って、待ってください鉱夫さま!?」

「待つぞ」

 

 興奮と驚きのあまり語尾にスコップも出てこない。

 リティシアは叫ぶように確認を続ける。

 

「あのそれはつまり、クロノノちゃんとエッチなことがしたいわけじゃないと!?」

「犯罪だろうそれは」

 

 すごいまっとうな論理感であった。

 

「あのそれはつまり、産まれる子どもの名前を考えてたのは意味がなかったと!?」

「考えていたのか!?」

「はいっっ! 男の子なら『スコップ』女の子なら『波動砲』と名付けようと!!」

「……とてつもなくスコップ(形容詞)なネーミングセンスだな」

「あ、こ、光栄ですこ……じゃなくてですねっ!?」

 

 ブルブルっとリティシアは全力で首を横に振った。

 そしてもう一度アランを見ると。

 

「すこーっ!?( ゜д ゜ ;;;)」

 

 リティシアは人生最大の混乱を迎えていた。前提条件がなんというか完全無欠に崩れていた。だってそれ、話がちがう。鉱夫さまの子どもを、つくる。そのためだけにスコップしてきたのに。スコップになってきたのに。

 鉱夫さまはぜんぜんその気がなかったのだ。

 泣きたい。

 

「あ……うううぅぅぅぅぅぅ(´・ω:;.:...」

 

 ていうか泣いている。泣かざるをえない。

 気付いてしまったのだ。間違ってたのはスコップ地獄だけじゃないと。旅の最初の時点で、リティシアの考えはシャベルだったのだ。もう穴をほって埋まりたくて、がくりと、膝から崩れ落ちるリティシア。

 そのときだった。

 アランが、動いた。

 

「リティシア」

 

 がっしりとリティシアの腰をアランが抱いた。

 アランは変わらずリティシアを見つめていた。

 

「すまない……俺はとんでもない勘違いをさせてしまったようだな」

「鉱夫……さ、ま……」

 

 本当に申し訳なさそうにリティシアを見つめるアラン。

 鉱夫さまはシャベルじゃないです、いつもスコップです。

 そうと言おうとしたところで。

 

「すまない。詫びはする。俺は責任を取らねばならない」

「えっ――?」

「責任をとって、今ここで」

 

 アランはそこですちゃりとスコップを構えると。

 

 

「俺にできることなら、なんでもしよう」

 

 

 旅のはじめのリティシアと、同じことを言ったのだった。

 

「っ!?」

 

 リティシアは思わずスコップを握った。

 なんでも。アランのなんでもは次元が違う。本当に『なんでも』だ。この長い旅の間でリティシアはその意味を理解していた。世界征服だろうと宇宙スコップ飛行だろうと、叶えてくれるだろう。

 だがリティシアの望みはそんなものではなかった。

 願いはただひとつ。

 

「…………あ、ぅ」

 

 口がぱくぱくと開く。

 だが声が出ない。出せなかった。勇気が出なかった。だって自分はシャベルだ。旅の最初に約束の意味を間違えた。途中にスコップになろうとしたのも間違いだ。クロノノちゃんに意味もなく嫉妬したのも間違いだ。

 なにからなにまで間違っている、ダメダメ姫なのだ。

 なにからなにまで完璧なスコップのアランにはふさわしくないのだ。

 あきらめよう。

 心のどこかが弱音を吐いたそのときだった。

 きらりと鋭い切っ先が光るのが見えた。

 

「わ――」

 

 アランのスコップの先端が光るのが見えた。そしてリティシアは思い出した。ふんわりとしたスコップの感触。アランとかわした『すこきす』の感触。すこ。すき。きすすき。そんな思いでいっぱいになってしまった。

 身も心もスコップに染まってしまったリティシアである。

 もう、アランなしで生きるなんて、考えられないのだ。

 

「わた――し――」

 

 自分に言い聞かせる。勇気を出すのだ。

 確かに自分はシャベルな女だったけど。

 それでも、今からでも、スコップになり直すことはできるのだ。

 

「わたし――は――鉱夫さま――とっ!」

 

 リティシアはアランにもらった赤いスコップをギュッと抱いた。

 恥ずかしいけど。とんでもなく恥ずかしいけど。

 でもしたいのだ。

 したくてたまらないのだ。

 ずっとずっと、それだけを願って、アランについてきたのだ。

 だからリティシアは本当の願いを心の底から掘り出して、叫んだのだった。

 

 

「え、え、えっちなスコップ(動詞)で……子づくり、したいですっ!」

 

 

 3秒後。

 置き去りにされていたカチュアが心の中でツッコんだ。

 

 ――え、ちょっと姫殿下、それまさか、今ここでするんですか?

この小説は健全な超王道英雄ファンタジーです。

でも世界の理をつらぬくのがスコップです(どーすんだこれ)

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