第63話 リティシアのふぁーすこきす
観スコ車とは恋人同士の人気スポットになる予定の遊具だ。二人乗りのゴンドラの中央に魔映石があり、お互いの『すこ(形容詞)』な思い出を掘り起こし、窓ガラスに投影するシステムが搭載されている。
では『すこ(形容詞)』とはなにか?
それはアラン自身にすら理解不能であった。
だからリティシアの魂の一部をスコピーして判断装置にした。
この遊具は、ある意味リティシア自身の分身とも言えるのだ。
「(あ……ぅ)」
そんなわけでリティシアは観スコ車の中でアランの隣に座っていた。
恋人みたいに肩をぴったりと寄り添わせている。
しゃべることができない。
だってリティシアはシャベルじゃなくてスコップが好きだから。
要するに照れているから。
「(どきどきどきどきどきどきどき)」
リティシアはアランと視線を合わせられなかった
だって肩が触れるところから、熱が伝わるのだ。隣にアランがいる。それだけで『しあわせすこですー』ととろけたくなる。もうゼルベルグ絶殺スコ計画や救世スコップ計画なんてどうでもいい気分になってくる。
告白なんてしなくても、こんなにもしあわせになれるのだ。
「リティシア」
「ひゃふすこんっ!?」
どんな悲鳴だ、とツッコミそうになるアラン。
「……そろそろ再生が始まる。俺からでいいな」
「あ、は、はい……『すこ』な思い出が……映るのでしたね」
そこでリティシアは言葉を止めた。
不安になったのだ。
アランの『すこ』な思い出に、そもそもリティシアは、いるのか。リティシアは昔から大陸一の可憐な少女だと称えられてきた。でも人間としての評価など、スコップの役に立つだろうか?
自分はスコップになろうとしても成りきれなかった。
人間ともスコップともどっちつかずな、ハーフスコ娘だ。
最近はカチュアの方がよほどスコップ寄りだと思う。
波動砲も撃てるし(正直、すごくうらやましい)。
それでも――。
「(鉱夫さま――どうか)」
ぎゅっと。
リティシアは手を組んで祈った。
あなたの一番の『すこ』になりたいとは、言いません。
それでも、思い出のすみっこに、私を埋めておいて頂けるとうれしいです。
「(――お願い、しますこ)」
そんな思いを胸に魔映石の映像を見るとエッチな白ビキニのはちきれボディの金髪少女がいた。ぷるるるんと揺れるたわわを恥ずかしげにギュッと腕で寄せ、アランを上目遣いに見上げ『す、すこでしょうか……?』と聞いていた。
ていうかリティシアだ。
海の国で水着を着てはしゃいでいたリティシア(すこぼでぃ)だ。
「ひやああすこですっっっっっ!?」
慌てて立ち上がり己のスコボディ映像を隠すリティシア。
アランが『うおっ』と珍しく慌てた声をあげた。
「す、すこ!? すこーっ!?」
リティシアの目がまわり頭がこんがらがる。
「こ、ここ鉱夫さま、私のこれが一番『すこ(形容詞)』だったんですか!?」
「そもそも俺には『すこ(形容詞)』の意味がわからんのだが……まあ」
映った以上はコレが一番だったのだろう。
実際『すこ(形容詞)』を聞いたのはアレが初めてだったし。
アランがそう続けるとリティシアの頭のてっぺんからぷしゃーと湯気がのぼる。身が縮こまる。だって今はわりと正気だ。海の国では海だしハイテンションだしであんな水着を着てたけど冷静に見返すとなんかこう、あれなのだ!
しかもなんかこう――視点が胸と太ももに集中している。
リティシアのたわわ(すこ)とリティシアのむちむち(すこ)を。
これはアランの思い出だから、つまり、アランがそこに集中してたということだ。
「え、あ、う、あうううううううううっ」
はずかしくて、でもうれしくて、たまらない。
もじもじしながら拳をギュっと握ってドレスをつまむ。と、自分がロングタイプのスカートを履いていることに気付いた。いつもの姫ドレスだ。やっぱりもっと露出させたミニのほうが喜んでくれるだろうか?
いやむしろ――。
「あ、あの……こ、これからは……その、ずっと水着でいましょうか……っ?」
「なぜにっ!? いやそれはやめろ」
「すこ!?(´・ω・`)」
決死の思いが全力で断られがっくり落ち込むリティシア。
「リティシア。あんな格好を好きでもない男の前でしてはいかん」
「え、あ……えっ」
「確かに俺は喜んだが、しかし、もう少し慎みを持って――」
「あ、あのっ! リティシアは鉱夫さまがっ――!」
「む?」
そこでリティシアはぴたりと止まった。
鉱夫さまが――のあとに、続く言葉。それを口に出せば後戻りはできなくなる。言うのか。本当に言ってしまうのか。アランが受け入れるか、わからない。なりすこない(スコップに成りそこなった、の意味と思われる)女だと捨てられるかもしれない。
それでも。
「鉱夫……さま、の、ことが、ずっと……っ」
じわりと、涙があふれてきた。
それでも言葉は止められなかった。
だって、それだけは絶対に譲れないのだ。
「ずっと……っ!」
リティシアは初めて会ったときから、アランのことが――。
ぐっとこぶしを握って、告白の言葉をリティシアは口に出す。
「ずっと……すこ(形容動詞)でしたっ!」
映像は既に止まっていた。
リティシアはアランを見つめたままハァハァと息をついた。唇をきゅっと結んで『言っちゃいました――!』と人生(あるいはスコ生)最大の仕事を終えた表情だった。対するアランはたったひとつのことを必死で考えていた。
――すこ(形容動詞)って、どういう意味だ?
「………………」
そもそもリティシアのスコップ言語はアランですら8割がた意味不明だ。
たぶん『すこ(形容動詞)』の意味を聞いても無駄である。
どうせ『すごくスコップなすこです!』としか答えない。
だからいつもは適当に流している。
が――今回はそうはいかない。
リティシアが本気なのだ。はぁはぁと額から汗を流して、まるでプロポーズの返事を待つ乙女のように(事実そのとおりだったのだが)じっとアランを見つめているのだ。アランも真剣に受け止めなければならないのだ。
アランは地獄でリティシアのすべてに責任を取ると決めた。
だから、意味がわからない想いであっても、受け止めるのだ。
「俺が『すこ』か」
コクコクコクコク(うなずきリティシア)。
「はい、すこです、すごくすこです、だいすこですっ!」
「そうか……すこか……俺がすこなんだな……」
「鉱夫さまがすこなんです!!!」
ドキドキと瞳に涙をためながらアランを見つめるリティシア。
何かを期待している瞳だ。受け入れるだけでは足りないらしい。
「……それで、俺は何をすればよい?」
「っ!?」
「俺がすこなことは(わからないが)わかった。それでどうすればいい?」
「あ、あぅ、その、あのっ……!?」
リティシアはうろたえた。
想定してない反応だった。考えてみれば告白したあと何をするのだ。そのへんのお作法をリティシアはよく知らない。結婚。子づくり。いやそれは国を取り返してから。じゃあたくさんエッチなことしてください?
そんなの恥ずかしくて自分からは絶対言えない!
心はスコップな乙女であった。
かろうじて言えるようなことは――。
「すこ……すこ……」
考えた末にリティシアの頭に浮かんだのは――。
「……き、す」
「む?」
「鉱夫さまと……すこ……キス、したい、です」
言ってから、火が出たみたいに頬が熱くなる。
感情の赴くままにキスをせがんでしまった――!
「それなら、わかる」
「すこっ!?」
アランがぐっとリティシアの腰を抱き寄せた。ぐっと顔を近づけた。リティシアのドキドキは高まるばかりだ。ずっと夢見ていた瞬間が訪れようとしている。そのままアランの唇をじっと待つと――。
かちん。
金属がこすれる音がした。
「……すこ?」
見ると口元にアランのアダマンティンのスコップが来ていた。
アランはスコップを差し出して優しげな笑みを浮かべている。
「すこきす。スコップキス。つまりスコップに口づけしたいということだな」
「……………………」
「俺のスコップでよければ、いくらでも使っていいぞ」
「~~~~っ!?」
どうやら『キス』ではなく『すこきす』と勘違いしたらしい。
リティシアは『ちがうんです』と言おうとした。
でもできなかった。
なぜかというとスコップにキスもしたかったからである。たくましく光る金属の先端部である。アランの波動砲がいつも発射されるその先っちょに口づけできるというだけで幸せな気分になれるのだ。
だからリティシアは目をスコップに輝かせた。
「すこ……です……っ♪」
もうあらゆる意味で手遅れなリティシアがスコップに唇を寄せた――そのとき。
すこちゅっ。
唇に硬いものと、やわらかいものが、同時にあたった。
「っっっっ!?」
「ん、むっ」
やわらかいものはアランであった。鋼の精神を持つ男の唇であった。
アランもリティシアと同じようにスコップに唇を寄せていたのだ。『鉱夫さまと、すこきすしたい』を素直に解釈した結果だ。二人同時にスコップにキスをする。スコップを挟んだ間接キスの形になる。
「……っ!」
熱い。
リティシアの第一印象はそれだった。
スコップを通して、アランの熱さが伝わってくる。
ビリビリビリと走るスコップ快楽に、失神しそうだった。
頭のぜんぶがスコップで掘られてるみたいなスコキス。
「ふうっ……これで、どうだ?」
たっぷり十数秒後に唇を離したアランを見つめるリティシア。
トロットロにとろけた瞳で、リティシアは一声発した。
「…………こ」
「は?」
「鉱夫さまの…………すこ(動詞)……っ」
感動に体をぷるぷると震わせてリティシアは感動に打ち震えていた。
さっきのとんでもない行為の感想が、ぐるぐると頭の中を回っていた。
「ふぁーすこきす……すこい……です……っ!!」
そしてぶっ倒れた。
感想までスコップな姫であった。
△▼△
「……寝たのか、リティシア」
感動のあまりすうすうと寝息を立てるリティシア。膝枕をして金髪を撫でながら、アランは息をついていた。何もかも意味がわからなかったが、それでもひとつだけわかることがある。
リティシアとの『すこきす』。
全身から熱が沸き立ち、姫の体を抱き締めたくなるぐらい――。
「すごいキスだったぞ……リティシア」
ひょっとしたら、さっきのを『すこ』な感情というのだろうか。
考えながらアランはずっとリティシアを撫で続けていた。
さっきのキスを思い出しながら、ぽつりと。
「――キスとは。こういう味なのだな」
アランは知った。
――ファースコキスは、アダマンティンの味であると。
今回はリティシア主観が多いので人類の方にわかりづらくなりがちだと思ったので、かなり解説に気を使いました。おわかりいただければさいわいです。やはりリティシアはメインヒロイン(確信)でもそろそろフィオも出したく(このへんで謎のスコ姫にスコ洗脳された
↓の評価を入れていただく作者がととてもとてもとてもうれしいです。とが多い。




