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第53話 カチュアのおみみスコップ

 アラン達が地獄から闇の国に戻ると『光の建国記念スコライブ』が開かれていた。

 革命はもはや終わっていた。スコージの上ではマイクロビキニ姿のクロノノが『すこっぷ♪すこっぷ♪』とスコダンスをしている。ふにっと柔らか愛くるしいぺったんボディがぬいぐるみみたいにスコップを抱きしめる姿に、観衆は熱気に包まれている。

 

『みんなー♪ すこの時間だよー♪』

 

 なおクロノノの後ろには汗だくのオデッサがいる。

 どうやら二人でコンビを組んでいるようだ。

 

『みんなー! すこ、すこの歌だよ! す国歌を歌いましょう♪』

『う……うた、うたいましょう……』

 

 オデッサが恥ずかしげに続ける。

 スコッカ。聞いてるだけで口が酸っぱくなりそうだ。

 

『すこ、すこ、すこ、ふったっりは、すこキュアーっ♪』

『す、すこきゅあ……』

『もー♪ オデッサ、ほらもっと堂々と歌ってーっ♪』

『だ、だって、これ、こんな水着、ほどけちゃうわ……!』

『スコップでかくせばだいじょうぶだよ!』

 

 なにひとつ大丈夫ではない。

 だがカチュアはツッコミを入れられなかった。

 自分自身が、それどころではなかったからだ。

 

「う……うあっ、な、なんだ、なんだこの歌……っ!!」

 

 耳栓をしているのに耳裏に声が響いてくる。クロノのが『すこ』と言うたびに、耳の穴がくすぐられるみたいな気分だ。まずい。この歌はまずい。直感して、楽屋裏から全速力で飛び出して草原にまで出る。

 

「「カチュアっ!?」」

 

 アランとリティシアの声を無視して走る。

 やがてポカポカの太陽が輝る広場に出てようやく歌が聞こえなくなる。

 そこでカチュアは、どうっと、草原にぶっ倒れた。

 

「はああ……はあっ、な、なんだ、なんだったんだ今のは!?」

 

 まだ耳に感触が残っている。

 まるで細かに砕けた爪楊枝が耳の中で運動会をしているかのようだ。決して不快ではない感覚なのだが、それが余計にまずさを感じる。おかしい。姫殿下の祈りの声ですら、ここまでの危機感は覚えなかった。

 クロノノの歌が妙な魔力を持ってしまったのだろうか?

 

「カチュア、大丈夫か?」

 

 と、追いかけてきたアランが言った。

 

「あ……あの歌は絶対におかしいぞ……アラン」

「ダンスはともかく、歌は普通のものだったが」

「そんなわけあるか! 姫殿下よりひどい! 鼓膜を直接ひっかかれてるみたいだ!」

「む。わかった。とにかく耳を『すこ』し見せて――」

 

 その瞬間、かりぃぃぃぃっ!

 

「ひああああああんっ!」

 

 カチュアの耳から全身に電撃が走ったような感覚を覚えた。

 汗がだくだくと全身から出る。

 

「な、なんだ、なんだこれ……っ!?」

 

 おかしい。なんだこの汗は。

 アランがしばらくじーっとカチュアの耳を見つめた。

 やがて。

 

「そうか……カチュア。おかしいのは歌ではない。おまえの体だ」

 

 アランが深刻な表情で断言した。

 

「――――は?」

 

 アランが説明する。カチュアが寝ていた間にアスモデウスから『聖鞘アルカディア』の説明を受けていた。それによると、毎日一定量の『耐スコップ力』が吸収されない場合は鞘が『充填モード』に入るという。

 

『――モードに入ると、効率的な充填のため、使い手のスコップ感度を上げる』

 

 つまりカチュアの体はいま『極度にスコップに敏感』になっている。

 だから普通の歌やアランの『少し』という単語にすら反応したのだ。

 

「待て待て待ってええええええええええええっ!」

 

 カチュアは涙目であった。

 だってそんなの聞いてない。終わったはずじゃないか。地獄でアランのスコップ告白に耐えてスコップ体験は終わったはずじゃないか。泣きたい。ていうか泣いてた。ぼろぼろと涙をこぼしてしまっていた。

 

「な、なんとかしてくれアラン! そんなのいやだっ!」

 

 ぽかぽかと、だだをこねる子どもみたいにアランの胸を叩くカチュア。

 が、アランは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「すまん……俺も何度かやってみたが、その鞘にだけは手が出せん」

「なっ!?」

「『耐スコップ力』の源だからな。時間をかけて掘れば或いは可能かもしれんが」

 

 あのアランですら――カチュアは絶望に包まれた。

 アランにも不可能があるのか。この男に不可能なら世界中の誰にも不可能だ。人間どころか悪魔にだって無理だ――そのとき、視界のすみっこで、鞘からうにょうにょと何かが伸びはじめているのが見えた。

 先端がスコップ型にきらりと光る――触手である。

 

「やっ……!」

 

 される。アレに。くすぐりスコップされてしまう――。

 カチュアが絶望と恐怖で震えながらきゅっとアランの胸をつかむ。

 

「やっ……やだ、アレだけはいやだ……っ!」

「………………カチュア」

 

 アランは考える。鞘にはスコップが出ない。だが無力な少女のように助けを求めているカチュア。己が掘り尽くすと誓った女。見捨てることなど、できようはずもない。なにか手はないのか――アランは考えた。

 おそらくこの冒険で最も真剣にカチュアを救う方法を考えた。

 耳がスコップに敏感になっている――耳が――。

 

「……そうだ」

 

 すちゃりと。アランがスコップを構えた。

 カチュアが『びくうううっ!』と怯えるように震えた。

 

「な……アラン、まさか……っ」

 

 先にカチュアをスコップしようというのか。触手よりも先に、地獄での宣言どおりにカチュアを掘り尽くそうというのか。あんなに大きいスコップで。だめだ。それはだめだ。心の奥底のカチュアが警告している。

 

「(そんなことをされたら、私が私でなくなる――っ!)」

 

 それでも視線はアランのスコップから離せない。

 体は明らかにスコップを求めている。でも嫌だ。死んでも嫌だ。

 ぎりりりりりと歯を噛み締め、衝動を止めようとするカチュア。

 ――そのとき。

 

「Dig!」

「っっっ!」

 

 スコップが風を切る音。カチュアは目をつむった。終わりだ。今までの女達と同じように私もスコップされる。スコップの騎士カチュスコ。いやスコチュアの方がゴロが良いか。どっちにしても不格好だけど。

 あはは。あははは。

 スコップに負けた私にはお似合いな称号じゃないか――。

 

「……あれ?」

 

 とか考えてる間、ずっとスコップは来ない。

 不思議に思って目を開けると、アランが竹を手にしていた。Digはそれを切った音のようだ。今も超高速でスコップをスコココと動かしている。やがてアランはポイッとスコップを捨てた。

 代わりに超ミニサイズの竹を手にしていた。

 

 ――というか、耳かきであった。

 

「……え?」

 

 アランが真剣そのものの表情で宣言する。

 

「カチュア。耳掃除を、しよう」

 

 

 △▼△

 

 

 そよ風の吹く草原で、カチュアは横になっていた。

 

「う……あう」

 

 耳掃除は、耳を小さな棒で掘るというスコップな行為だ。だが、普通の人間なら誰でもする行為でもある。『絶対にスコップしたくない、でも絶対にしなきゃいけない』カチュアにとっては、妥協できる線のはずだ。

 触手が迫りかけていたカチュアはその提案に一も二もなくうなずいた。

 耳掃除ならスコップだけどスコップじゃないのだ!

 人として恥ずかしくない行為だ!

 だからカチュアは感動の涙を流しながらアランの太い膝に頭を乗せた。

 

 ほりほり。ほりほり。ふーっ。

 

「ひ……ふあっ……んっ……」

「カチュア、じっとしていろ」

 

 頭を手でがっちりと押さえられる。

 敏感になった耳にカリカリという心地よい感触が響く。

 ポカポカの太陽のしたで、アランの膝枕に頭をあずけている。

 

 かりかり。かりかり。ふーっ。

 

「う、う、う……っ!」

 

 カチュアは必死で自分に言い聞かせる。

 これはただの耳掃除なのだ。

 スコップだけど、比較的普通のスコップなのだ。

 だから恥ずかしくなんかない――ぜんぜん、恥ずかしくなんか――。

 

 ぶちん。

 

「(恥ずかしいに決まってるだろ私ーーーーっ!?)」

 

 心の中で叫んだ。自分を騙すのも限界だった。

 ポカポカの太陽。そよ風の吹く森の広場。二人きりでひざまくらの耳掃除だ。アランの膝に頭を乗せて、足をしだけた姿だ。角度によってはパンツも見える。私はバカか。なに感動してるんだ。こんなの恥ずかしいに決まっているじゃないか。

 こんな――付き合い始めた恋人みたいな、ラブラブ行為っ!!

 カリカリ。カリカリ。

 

「ひああ……うう……っ」

 

 でもきもちいい。

 元来、耳掃除は気持ちのいい行為である。しかもアランがうまい。とてつもなく。かゆいところを即座にカリカリとちょうどよい塩梅でかいてくれる。さすがは掘る専門家――じゃなくてっ!

 

「あ、あ、アラン……もう、もう、いいだろっ……!」

「だめだ。まだだいぶ残ってる」

「あううううう……」

 

 耳の穴を耳質にとられてしまっている。カチュアはなすがままである。

 ぐすん。涙が出てしまう。でもきもちいい。ちがう。耳掃除だからだ。

 カリカリ。カリカリ。カリカリカリカリ。

 無言でキモチイイところを掘り続けるアラン。

 

「あ、アラン……だ、黙るな、何か話をしろ……っ」

「む?」

 

 ずっと黙って耳掃除って、まるでお互いを信頼しきった夫婦みたいじゃないか。

 

「そうだな……この旅もそろそろ終わりだな(かりかり)」

「うっ……そ、そう……だな」

「その後はどこへ行くかな、カチュアよ」

「え……?」

 

 その言葉にカチュアは疑問を覚えた。

 

「どこへって……アラン。おまえ姫殿下と結婚するんだろう」

「は?」

「地獄で『責任を取る』と言ってただろう」

 

 カチュアも色恋沙汰には詳しくないが、リティシア姫がアラン以外とくっつくところなどまったくもって想像できない。不可能だ。ロスティールの未来、というか人類の未来のために絶対にリティシアを引き取らせるべきだ。

 だがアランは首を横に振った。

 

「カチュア、それはありえん(カリカリ)」

「はううっ……な、何故だっ?」

「年が離れすぎている。その上に王女と鉱夫だ、身分が違う」

「いや……いやいや?」

「リティシアもそんなつもりはないはずだ」

「いやいや待て待て待て待て」

 

 余人が言うならごく普通の納得できる理屈だが。

 このスコップ魔人とスコップ姫に理屈が通用するはずがない。

 

「第一、俺は王に成るつもりなどない(ふーっ)」

「ひああうううっ……だ、だが、姫殿下は……っ」

 

 絶対にアランと添い遂げようとするはず――だが言葉にならない。

 じんわり、じんわりと耳から温かさが来てしまうのだ。

 アランは構わず続けた。

 

「だからカチュア。どこへ行くのか考えておけ」

「ど、どこへって……」

「大陸一の聖騎士になるには、更なる修行の旅が必要だろう(カリカリ)」

「ひああうっ……!?」

 

 アランが最後にふっと耳を掃除して、言った。

 

「俺はお前を掘り尽くすと決めた。だから一緒に、旅をするのだ」


 

 カチュアの息が止まった。

 

「………………っ」

 

 草原にそよ風が吹いた。逆光の中で笑うアランがまぶしく見えた。じんわりと、先ほどとはちがう温かさが伝わってくる。耳からだった。耳かきではない。アランの言葉そのものがあまりにも心地よく、暖かく感じていた。

 掘り尽くされる――私が掘り尽くされる旅――なんとスコップな響き――。

 体の力がフッと抜ける。とろけるようだ。もっとスコップに甘えたい。

 

「アラン……私も……おまえと……っ」

 

 そんな衝動に導かれるまま身をよじった、瞬間。

 

 ぽちっとな。

 

 聖鞘アルカディアの『耐スコップ力発動』ボタンが体で押された。

 

「ってうああああああああああああああああああっ!?」

 

 耐スコップ力、全開。

 全力でガバっと飛び起きてカチュアは5メートルほど瞬時に離れた。

 危なかった! 今完全に堕ちかけていた! アランのスコップにっ!

 

「ぜーはーぜーはーぜーはーっ!」

「む。いつの間にか充填が終わっていたのか」

「あ、あ、あ、アランッッ!」

 

 ずびしいいっ!

 アランに『聖騎士の剣』を向けてカチュアは断言する。

 

「さ、さっきのは気の迷いだ! 私は絶対にスコップなどに屈しないのだ!」

「そうだな。カチュアはそれでよいぞ」

「~~~っ!? そ、そういう恥ずかしいこと言うなーっ!!」

 

 ぽかぽかぽかっとアランの胸を叩くカチュア。

 そんな二人を、森の奥から、見守るものがいた。

 しばらく無言だったが、やがてぽつりとつぶやく。

 

「………………すこです(´・ω・`)」



 ――謎の姫であった。

カチュアの膝枕で耳掃除いちゃいちゃしたい方はブクマ評価のうえ『かりかりすこすこ』と……違うのですスコップ姫殿下。メインヒロインは絶対にリティシア姫なのです。決して『あれこれカチュアの方がヒロイン力高いんじゃ』などとは(このへんでスコップ漬にされた


↓の評価頂けると作者のモチベがたかまります。今回で書き溜め完全ゼロになったのでみなさまのご支援でかいてますよろしくお願いします。かきかき。

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[良い点] かりかりすこすこ [気になる点] スコップないでスコップ! [一言] カチュアがアランに堕ちるのも時間の問題ですこ…
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