第46話 褐色少女、スコライブを開催する
オデッサを救出したアランとクロノノは地下の食堂にやってきた。
なおカチュアとリティシアは別働隊として、地中戦艦で別の山を解放している。カチュアの掘削力の伸びは凄まじく、リティシアと一緒なら悪魔の100や200はゆうに倒せるだろう。そう伝えられた本人は抗議していたが。
ともあれ、薄暗い食堂内にオデッサとクロノノ、アランがいる。
赤い髪のポニーテールの少女、オデッサは椅子に座っていた。
全裸だったのでとりあえずマントをかぶせている。
「オデッサ! 無事だったんだね、わたし、わたし……っ!」
オデッサをぎゅっと抱きしめてクロノノは涙目だった。
オデッサはクロノノにとって姉のような存在だ。
「ま、待ってクロノノ。私、何がなんだかわからないの」
特にピンクの犯罪的マイクロビキニの意味が全くわからない。
そんなオデッサにクロノノは説明する。闇の国を脱出したところ、アランのスコップ波動砲に助けられた。報酬として『スコップ』することを約束した。アランはレジスタンス活動を支援するためスコップ地中戦艦を操作しスコップ牢破りした。
そのへんでオデッサは再び頭を抱えた。
「(わからないことが――さらに増えたわ――っ!)」
正直、クロノノの言葉が悪魔の洗脳よりもきつい。
「クロノノ。そのあたりで止めておけ、オデッサを休ませなければ」
「そうね……拷問を受けた直後よりも疲れてるわ……」
ふらふらと立ち上がり、横になるオデッサ。と、己の80センチの胸がぷるんと先端まで露出していることに気づく。ああ――服すらも奪われたのね――アランの目が恥ずかしい、でも隠す気力すらない。
と、クロノノが立ち上がって、慌ててマントをかけた。
「ご、ごめんねオデッサ、裸のままだったね。そうだ、予備の服ならあるよ!」
そう言ってクロノノはごそごそと側にある紙袋をあさった。
取り出したのは白い紐である。リボン結びされた薄い布地。
ていうか、マイクロビキニである。
「……」
クロノノが申し訳なさそうに頭を下げながら。
「小さいけど伸びる生地なの。は、恥ずかしいけど……裸よりはマシだよねっ!」
裸のほうがマシよ。
心の中でツッコんでからオデッサはぶっ倒れた。
△▼△
「話はだいたいわかった(ということにする)わ」
「理解が早くて助かる」
目が覚めたオデッサは、30分ほどで落ち着いてアランの話を聞いた。ビキニは単にアランの仲間の異常趣味で、スコップとは何か奇妙な魔法と理解したようだ。完全に誤解だが訂正の労力をこれ以上使うつもりはない。
こうしている間にも地底では悪魔に人類が虐げられている。
一刻も早く『革命』を起こさなければならない。
そのためにはレジスタンスの長、オデッサの決意が必要だ。
「…………無理、よ」
だがオデッサは力なく首を横に振った。
スコップで心は混乱していたが、己の無力さだけは心に深く刻まれている。
「武器はない……皆の士気もない……」
人類が悪魔を倒す武器を数年にわたり考えた。だが、ない。
そのことを知った仲間は、更なる絶望に包まれた。そして何よりの問題は――。
「レジスタンスは……もう、ないの」
比喩ではない。
悪魔への反抗のために組織したレジスタンス『人類の刃』は、自分とクロノノ以外の全員が悪魔に囚えられた。秘密のアジトに集まって、悪魔に対抗できる武器を検討していたら突如として『火球』が撃ち込まれたのだ。
24人の主要メンバー全員が捕まり、悪魔に生きたままマグマに放り込まれた。
悪魔が支配してからというもの、地底にはマグマの川がそこらに流れている。
3日前のことだ。
生き残ったのはただ2人、オデッサとクロノノだけ。
「……っ!」
「クロノノ。つらい話を聞かせてごめんね……でも……もう、無理、なのよ」
オデッサは力なく笑った。
3年かけて組織したレジスタンス。仲間がいた。同志がいた。だからがんばれた。その仲間が目の前で、次々とマグマに放り込まれたとき……オデッサの闘志も、どろどろと溶け落ちていったのだ。
私は、そして人類は、しょせん無力でちっぽけな存在に過ぎないのだ――。
ぎゅっと。
オデッサの体をクロノノが抱きしめた。
「オデッサ……ごめんね、知らなかった、ごめんね、つらかったね……っ」
クロノノの浅黒い肌に、涙がぽろぽろと伝っていた。つられてオデッサも涙が出る。暖かな何かを感じた涙だった。だから私はこの子を逃した。人のために泣ける暖かさ。そんな子が笑える世界であってほしかった。
過去形である。オデッサはもう知っていた。
この世界は――そんな、おとぎ話のような明るい世界ではない。
オデッサが嗚咽の声を漏らした、そのとき。
「仲間はマグマに沈んだのだな。了解だ、すくおう」
「……え?」
アランがすちゃりとスコップを手にとり、ぐつぐつ煮えたぎるマグマにスコップを突き入れると、ザバア! 水から魚を引き揚げるみたいに、女性が出てきた。アランが一声『Dig!』と発するとまとわりつくマグマが一瞬で離散した。
見知った顔であった。レジスタンスの主要メンバーで一番の親友、エゼルだ。
すーこーと息をしている。
「………………え?」
なにがおきたの?
「ここが地底でよかったな。地上では、スコップでも死人はどうにもならん」
砂漠の国で長老を掘り起こした際の技だ。アランは死を操ることはできない。だが地底の『過去』なら掘り起こせる。闇の国は地底の国であり、1週間程度なら過去を掘り起こすことも可能だ。解説しながらアランは次々とマグマをすくった。
ざばーざばー。
主要メンバー全員が原型をとどめたまま、姿を現してくる。
止まったままのオデッサ。やがてぱちりと、一人が目を覚ます。
「ここは……あれ、私は……?」
「え……え、エゼルッ!?」
生きてる……生きてるっ!
なにがなんだかわからないけど、とにかく生きてる!
感動のあまり抱きつきそうになるオデッサを見て、エゼルは一言。
「え、オデッサ……? ちょ、なんて格好してるの!?」
「え? あ……ひゃんっ!?」
布地が異常に薄いうえ、胸と腰に食い込む白ビキニなのである。
オデッサがあわてて身を隠した。その間にもざばーざばー。
主要メンバー全員がマグマからすくわれていた。
「ちょ……ええええええええええ!?」
オデッサは目を回した。
死人がいきなり無傷で生き返った。これで混乱しない人間はいない。
「よし完了だ。オデッサ、次に足りないものは『武器』だったな」
「アランさま、すごい、すごいですっ!」
「まま待って! 待って! 私、混乱! 混乱してるのっ!」
アランは待たなかった。食堂に転がる銀食器のフォークとスプーンをズゴゴゴと叩いて叩いてスコップ状にした。更にズゴゴゴップ! 超高速でスコップの柄に文字を彫り始めた。『デーモンスコッパー』と彫られていた。
ぎらりと、超常的な輝きを放つスコップ。
その一本をアランが手に取り『Dig!』叫び声とともに壁にぶつける。
壁がズゴオオオウとえぐれ、向こう側にいた悪魔がシュワアっと白く溶けた。
「量産型だが良好だ。オデッサ、武器は10万本で足りるか?」
「まって、お願いまって、まってってばああああっ!?」
夢を見ているとしか思えない。スコップで死人が蘇ってスコップで悪魔が倒せた。そんな都合のいいことが、起きてたまるか。だが目の前では次々と武器ができあがり、食堂中にスコップが溢れそうだ。
「みんな、あのね、スコップを使うときは『掘るぞ!』という意思を込めるんだよ!」
クロノノがみんなに『デーモンスコッパー』を配って使い方を説明している。
「う――そ――」
おかしい。こんなことありえない。
こんな、こんな――。
「こんな、おとぎ話みたいなことが――起きるはずが――」
そのとき、騒ぎを聞きつけて悪魔たちがやってきた。アランが『Dig!』一声発してドシュオオオウウウズガアアアンと消滅させた。全員がアランを見て、ついで『アラン! アラン!』と称賛の声を上げはじめた。
まるで地底に降臨した神を崇めるかのようだ。
「――あ、え」
一瞬で悪魔を消滅させた。
じわりとオデッサの心にも何かが湧き上がる。
本当にそうなのか。このスコップ男がすべての絶望を払う神なのか。
そんなのありえない――でも、でも――信じたくなってしまう――。
「よし。最後に、悪魔に立ち向かう『士気』を高める」
「アラン様! それならクロノノにお任せを、リティシア様に習いました!」
「リティシア……? 嫌な予感がするが」
きらきら。クロノノの輝く視線。
弟子のモチベーションをくじくのは師匠としてはあるまじきことだ。
「仕方ない、やってみろ。俺も手伝おう」
「はいっ!」
そして食堂にスコージができた。スコップで建造したステージだ。アランの工事により数十秒で完成した。3メートルほどの高さのステージの両脇にスコーカー(スピーカーの亜種、土を伝って音を発する)が設置され、天井にはスコットライトが並ぶ。
観衆はアランがスコップで地底を掘ってかき集めた。
30秒で3000人を集めた。
食堂には収まらなかったのでスコップで掘って拡張して地底に大ホールを築いた。
「よし。クロノノ、設営完了したぞ」
「は、はいっ!」
スコージ中央で、ピンクのビキニ姿のクロノノが羞恥に頬を染めている。
こんな裸そのものの格好で、これからみんなの前で恥ずかしいことをするのだ。
恥ずかしいなんてもんじゃない。
ほっぺたが熱くて、マグマよりも熱を持っている。
でも――。
「(あ、アラン様は、こういうのが、好きなんだしっ!)」
リティシアに吹き込まれたアランの趣味は、クロノノの誤解を爆発させていた。
だから、どんなに恥ずかしくてもがんばると、決めたのだ。
「(それに……オデッサ達を元気づけられるならっ!)」
自分の恥ずかしさだけで、みんなが元気になるなら、安いもの。
だからクロノノは観衆の前に立ち、ぎこちない笑顔を浮かべる。
そして1本のスコップを唇に近づけると――。
『みんなー! 地底の『スコライブ』はじまるよーっ!!』
パチィンッ!
スコットライトがいっせいに灯り、クロノノの浅黒い13歳の柔肌を照らした。
アランに集められ呆然としていた聴衆が、驚愕の声を上げる。『あれはなんだ!?』『ライブ!?』『歌うのかクロノノ様が!?』『クロノノ様の格好がエロすぎる!』『あざとかわいい!』『クロノノ様すこですー!』声は次第に熱狂に染まってゆく。
『クロノノ! スコノノ! スコ! スコ!』
クロノノ背後からバックスコーラスが響く。スコギターとスコドラムを持った掘削兵の声である。クロノノは音楽に合わせ、スコップに体を絡め、悩ましげに足を開いたり閉じたりする。あまりにも犯罪的な少女のダンスだ。
『クロノノ様えろすぎる!』『馬鹿野郎えろじゃねえ!すこだ!』『すこですー!』
食堂の熱気は更に高まる。ドドドっと地響きのように観衆が足踏みをする。
――これがリティシア考案の『スコライブ』だった。
マイクロビキニ少女の歌とダンスとスコップで(主に男性の)戦意を高揚させる秘策だ。羞恥に頬を染めつつも、スコージで体をくねらせるクロノノ。ビキニの紐リボンが腰でほどけそうになり、クロノノが『ひゃうっ』と隠した。
スコオっと歓声があがる。超人気ライブとなっていた。
『み、みんな、あのね、ほ、ほどけちゃうからあんまり揺らさないで……っ!』
『スコ! クロノノスコ! ホントスコ!』
『ひあああううう……っ!』
ずどどどど。観衆の足踏みで更に揺れるスコージ。
そんなライブの様子を、アランとオデッサが舞台袖から見つめていた。
「ふむ。方法に多少問題はあるが……士気は上がったな、オデッサ」
「…………」
オデッサは白目をむいて気絶しそうだった。自分が現実にいるとは思えなかった。この数十分の間で起きたできごとは、オデッサの脳髄をぐるぐるにかきみだし、ミックスジュースみたいに何もかもが混ざり合っていた。
溶けゆく思考の中に、さきほどの自分自身の言葉が浮かぶ。
『こんな、おとぎ話みたいなことが――起こるはずがない――』
目の前でスコップを抱きながら踊り続ける、ビキニの少女クロノノ。ちょっとだけ膨らんだ胸からヒモが外れそうになる。熱狂の声がする。その狂気の声を聞きながら、オデッサは確信していた。いま目の前で起きていること。
これはおとぎ話なんかじゃない。
もっとずっと、おぞましい何か――。
『はうっ! み、みんな、そんなにクロノノは『すこ』なのかなっ……!?』
いや違う。おぞましいという表現すら生ぬるい。
それはまさしく――。
『スコ!スコ!スコ!スコ!』
『はうううぅぅぅ……!』
まさしく――すこましい何かであった。
スコライブの最前列チケットが欲しい方はブクマ評価のうえ『ビキニ褐色ろりスコライブほんとすこ』と……違うんですスコップ社長。ぼくは絶望に沈んだレジスタンスの士気を上げたいだけの無罪作者です。褐色ロリ少女にスコップ応援ダンスを踊らせたかったわけでは(このへんで公開スコ処刑された




