第44話 鉱夫、褐色少女を毒抜きスコップする
時刻はまだ昼間。
だが闇の国の上空には常に暗雲が立ち込めており、空は暗い。
「そこの森でキャンプをするぞ」
褐色の少女を助けたアラン達は『黒曜石の門』を突破したあと、近くの森でキャンプをはじめた。スコップで切った焚き木をスコップ摩擦熱で燃やし、スコッパー・ライフルで狩ったイノシシ肉を焼く。寝床はもちろん竪穴式スコップ洞窟だ。
スコップはアウトドアの必需品である。
「……頭が痛い」
カチュアはため息をついた。今回もひどいことになりそうだ。
ともかく、燃やした焚き木を囲んで、褐色少女に暖をとらせる。
「あの! 助けていただいて本当にありがとうございました、大魔法使い様!」
しずしずと礼儀正しく頭を下げる少女。
クロノノと名乗った彼女は、幼かった。14歳かそこらだろう。
アランとカチュアが二人で話を聞く。リティシアはまだ馬車でお休み。
アリスとルーシィの二人はスコップ昇天中だ。
「大魔法使い……か」
少しおかしくなって、アランは笑った。懐かしい言葉だ。たしかに波動砲を見せたリティシアにも、そのように誤解された記憶がある。どうもスコップから波動砲が出せるという事実は、世間では認知されていないらしい。
「そういえばカチュアにも、幻術師とか呼ばれたな」
「私は今でもそう思っているぞ」
アランのスコップを見ると、ときどき世界が幻のようにしか見えなくなる。
「あの……大魔法使い様?」
「すまん。俺は鉱夫のアラン。こっちはカチュア、聖スコップ神殿騎士団長だ」
「騎士団長さまっ!?」
「完全に違う」
驚いた様子で頭上にはてなマークを浮かべる褐色少女クロノノ。
ああ、純粋な子だ。カチュアは安心すると同時に決意した。
私が――この子をスコップの魔の手から守らねば!
「ただ、あの、あのっ」
と、クロノノがいきなり立ち上がった。
「あの……カチュア様はほんとうに騎士様、なのですね?」
じいっと、クロノノが上目遣いでカチュアを見ている。
尊敬とも渇望ともとれる視線だった。
「ああ。私はロスティールの騎士だ。スコップの騎士ではない」
「ロスティールの騎士さま……! ああっ! なんて幸運なのでしょう!」
希望に目にきらきらと涙をにじませるクロノノ。
と、ササっと姿勢を正した。いきなり、がばあっ!
アランとカチュアに向かって土下座をしてみせたのだ。
「どうか『闇の国』を、いいえ、世界をお救いください、ロスティールの方々っ!」
数分後。
クロノノは『闇の国』の事情を説明した。彼女は5年前までは王女だった。今は違う。ただの奴隷だ。反乱があった。悪魔による反乱だ。『闇の国』は地底を掘り進むために、数万体の悪魔を使役していた。
だが5年前のあるとき、悪魔が反乱を起こした。
「悪魔を召喚し、使役するなど……間違っていたのです」
父の、王の政策にクロノノは反対していた。
古代魔法王国は、たしかに悪魔を奴隷として栄えた。だが自分たちの魔法技術はかつての魔法使いたちの足元にも及ばない。あまりにも危険だ。幼いクロノノが訴えても王は聞き入れず――事件は起きた。
悪魔を支配していた『悪魔支配の王冠』が突如として消え去った。
すべてが一変した。
悪魔の軍団が王城を襲い、王は殺され、国民は奴隷にされた。
男は肉体労働に従事し、気まぐれに悪魔の『餌』となる。
女は16歳まで奴隷に従事の後、悪魔の『苗床』となる。
すべての人間は、暗く深い地底につなぎとめられ、そこで生を終える。
空には悪魔が作り上げた暗雲が立ち込め、陽の光は差さない。
「闇の国の人間は……決して、光を見ることはありません」
そこは、文字通りの地獄なのである。
「わたくしたちの……罪の、報いです」
語り終えたクロノノは鎮痛そうな表情を浮かべる。
「カチュア様、アラン様。このことをどうか祖国にお伝えください」
「祖国に?」
「ええ、できれば王族の方に。事は一刻の猶予もないのです……!」
闇の国は『黒曜石の門』を建造して他国との国交を立っている。上空には暗雲が常に立ち込め、情報を秘匿している。中にいるのは悪魔の大軍団だ。来るべき地上侵攻のために『苗床』の女は悪魔を、男たちは武器を叩き続けている。
近い内に、悪魔たちは戦争を起こすつもりだ。
地上を――人類を支配下におくための。
「くっ! なんということだ!」
そこまで聞いてカチュアはダンっと足で地面を踏んだ。
ロスティールを襲った陰謀は、その大戦争の準備か。
「クロノノ。話はよくわかったぞ!」
この世の地獄から、この少女クロノノは逃げ出してきたのだ。
聖騎士として絶対に見過ごす訳にはいかない――決意した、その瞬間だ。
「話は聞かせてもらいますこっぷ!」
スココーン。
リティシアの声が馬車から響き、緊張した空気が離散した。
ぱちぱちぱち。クロノノがまばたきをして止まった。
「……姫殿下。いまは真剣な話なのです。スコップはやめてください」
「スコップはいつでも真剣でスコップですよスコチュア?」
スコップ濃度が寝込む前から悪化している。誰だスコチュアって。
「え……ひでんか……まさかリティシア姫殿下っ!?」
「すこ(はい)」
クロノノが『えええっ!?』と驚いた表情。
まずい。『姫殿下と話すときは耳栓がお作法』と騙すべきか?
いや流石に無礼だろうか――と思っていたらリティシアが話し始めた。
「クロノノ様、ご苦労スコましたね。どうかわたすこにお任せください」
「本当ですかっ!? ああっ、ありがとう、ありがとうございま――!」
「ただすこ!」
びしっ。リティシアは1本のスコップをクロノノに突きつけた。どうやら『ただし』と言いたかったようだ。カチュアは理解できる自分が悲しかった。この姫はサ行ならなんでもスコップ活用できると思いこんでいる。
「他国にすこ姫がすこ依頼すこ以上……報酬が必要ですこ!」
「ほうしゅう……」
と、それまで黙って空を見上げていたアランが、口を挟む。
「リティシア。俺なら報酬などいらんぞ」
「鉱夫さま。ロスティールとしてはこれは外交。スコ報酬が必要なのですこ」
「む……そういうものなのか」
奴隷に堕ちたとはいえクロノノも一国の姫だ。
国対国の外交ということならアランは黙っていたほうがよいだろう。
「そういうことなのですこ……ふふ」
キラーン。リティシアの目が怪しく光る。ごにょすこ、耳元で会話。
「え――はうっ!?」
ぼうんっ。アランを見て褐色の肌をピンク色に一気に染めた。
「ロスティールとしては『闇の国』を解放すこした暁に、正式に要求します」
「あ……そ……その……わ、わたくし……」
「おいリティシア」
何を言った――そんなアランのツッコミを無視して、クロノノは幼い身体をくねらせた。どうしようそんなそんなこと――少女が恥ずかしがる仕草。だがその視線が己の腕に行ったとき、ハッと何かに気付いたようで、目に見えて落ち込んでしまった。
が、やがて申し訳なさげに、ぺこりと、頭を下げる。
「すみません……あの……それは、わたくしにはできないのです……」
「大丈夫です、すこスコップは痛くないですこ」
「おいリティシア」
「そういうことではなく……っ」
意を決したように、するりと、クロノノは上着をめくる。おへその穴から小ぶりだが形のよい胸の下までがあらわになる。14にも満たぬ少女の柔肌。だがそれより目を引かれたのは――恐ろしい悪魔の形相の、タトゥーだ。
その目はぎらりと光っている。明らかに魔術的なタトゥーだった。
「悪魔の毒の体液で掘られたタトゥー……『苗床』の証です」
じくりと血の跡が見えた。クロノノは『うっ』と苦痛の表情。
おそろしい痛みであろうことが伺える。
「こ……これを刻まれた者は、悪魔以外と交わると、死を迎えるのです」
「スコップ(怒)」
「姫殿下は黙っていてください」
「それに、アラン様も……いいえ、どんな男性の方でも」
クロノノは視線を下げて、さみしげに笑った。
「こんな、おぞましい肌の、しかも子どもと交わるなど……とても、考えられないでしょう」
「スコップ(そんなこと、ぜんぜん関係ないです!)」
「姫殿下は自重してください」
「それと、もうひとつ問題があって……あ、ぐっ……!」
じゅくり。じゅくり。タトゥーから更に血が溢れ出す。
その血は止まるどころかますます勢いを増しているようだ。
「スコップ!?(心配)」
「姫殿下は帰ってください。大丈夫かクロノノ!?」
「いえ……すみません……そろそろ、時間みたい、でして」
ふふっと気丈に笑うクロノノだが、顔には脂汗がにじんでいる。
「闇の国の住人は……くあっ……く、国から出ることを、許されません……」
見ると血は更に大量に流れている。明らかに致死量に近い。傷跡は見るも無残に赤黒く光っている。タトゥーの呪いだろう。脱走者を死に至らしめる。クロノノはアランを見つめた。真剣な視線だった。
「わたくしも……もう、長く、ありません……」
それでも己の使命を果たし終えるまでは、死ねない。
14にも満たぬ少女が、そんな決意を浮かべていた。
「だから……おねがいです……みな、さま……っ」
「スコップ(もうしゃべらないで!)」
「姫殿下はもう喋ら……いやそんな場合じゃない! アラン、アラーン!」
「わかっている。準備はもうできた」
アランがクロノノを、ひょいっと抱きかかえた。とたん、クロノノは不思議な感覚を覚えた。いたくない。あたたかい。アランに触られている部分が、ほわほわする。もう痛覚が消えてしまったのだろうか。
「クロノノ。2つほど訂正したい」
「……え?」
びりびりいいいいいっ!
「ひやっ……!?」
アランがクロノノの服を引き裂いた。ぷるうん。こぶりな黒褐色の胸。先端だけが長い黒髪で隠れている。それ以外は恥ずかしいところまでぜんぶ丸見えだ。え、なんで、なんで裸に……呆然と見上げるとアランはまっすぐにクロノノを見つめていた。あまりに真摯な視線。
どきんと、クロノノの心臓が高鳴る。
「女の魅力は、年齢や、まして傷跡になど左右されん」
「え、えっ!」
どきん、どきんどきん!
「心に深みがあるかどうかだ。その意味でクロノノは十分に魅力的だ」
「え、そんな……そんな……っ」
クロノノの心臓が更に高鳴る。
まさかそんな。拷問の痕とタトゥーの自分を、抱いてしまうつもりなのか。裸にしたのはそのためなのか。時間がないクロノノを今すぐに抱くために。それを証明するかのようにアランはクロノノの裸体を真剣に見ている。
恥ずかしい。体がほてる。
でも、でも――。
「ひあ……ぅ……」
うれしい。
「もう一度言う。魅力的だ」
「あ……あ、うっ!」
本気で言っている。うれしさが、こみあげる。
自分を好きと言ってくれた人に抱かれながら、逝けるのだ。
心がとろけそうだった。
ふっと体の力が抜けてゆく。信じられないと心の中でつぶやきながら。
「『スコップ』するぞ、クロノノ」
「……は、い」
こくんとうなずいたクロノノ。
抱かれれば、自分は死ぬ。でもかまわない。
こんな体でも……好きだと言ってくれた人が、相手なら。
アランの優しさに感謝しながらクロノノが目をつむった、次の瞬間である。
「Dig!」
ざくざくざく! アランは一気に人型の穴を掘って全裸のクロノノを埋めた。ざくざくぺたぺたぱんぱん! 顔だけを残してクロノノは地中に埋まった。砂浜でよく水着の男女がやっているアレである。
「――――――――――え?」
なんだこれ。
「毒抜きだ」
アランがとくいげに言った。その横でカチュアが呆れた顔を浮かべている。
「悪魔の毒を抜いた。魚の毒を抜くときは土に埋めるだろう。アレと同じだ」
「さすすこ民!(さすがは鉱夫さまのスコップ民間療法です!)」
「無理がありすぎます姫殿下」
「え……え、え、え?」
5秒後にクロノノは生き埋めから掘り出された。全裸のクロノノの体からは既に悪魔のタトゥーは消え去り、血は消え去り、13歳の柔肌はもとどおり。あと体調もものすごいよくなって関節の痛みとかも消えていた。
己のやわらかボディを確認して、褐色乙女のクロノノがあぜんとしている。
「え……え、え、え、ひゃうううううう!?」
混乱の叫び声。いま一体何が起きたのかさっぱり理解不能だ。
「訂正の2つめだ。闇の国の人間は光を見ることはないと」
「は……っ!?」
「それも、終わりだ」
アランはスコップを天高く掲げた。Digと一声叫ぶと、光の柱がまるで逆向きの流星のように空に飛び、ドシュオオオウウウズガアアアアアアアアンン! 太陽が爆発したかのように暗雲が砕け散った。
キラキラと舞う雲の残滓。虹ができている。
そのあとから本物の太陽が姿を表し、クロノノの薄黒い肌を照らしあげた。
――空を覆う暗雲が、まるごと、ぶっ飛んだ。
「闇の国はきょう限りで『光の国』となるのだから」
「……………………」
アランと上空の太陽を交互に見て呆然とする全裸のクロノノ。
にこにこ見守るリティシア。
そんな三人を見て、カチュアはため息をついていた。
――ああ、やっぱり、今回もひどいことになった。
苗床マーク付きの褐色ロリ奴隷クロノノちゃんとらぶらぶスコップしたい方は、ブクマ評価のうえ『クロノノ13歳ちゃんの柔肌ぺろぺろほんとすこ』と……お待ちくださいスコップ悪魔神官。ぼくは理想の褐色少女を追い求めたけっか悪魔の苗床に行き着いただけで、決してTeaching_Scopping展開でポイントを稼ごうとした訳では(このへんで悪魔の生贄に捧げられた




