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スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第5章 海の国のスコップ(ルクレツィアすこ)
34/77

第33話 鉱夫、嵐をスコップする

 大海原にこぎ出したアルティメットスコップ号の甲板に、アランとルクレツィアがいた。

 30人ほどの乗組員がいる中型船だった。大風をいっぱいに受ける白い帆が、バタバタと羽ばたいている。晴天の潮風のなかを、高速で進む船。おそろしく、速い。ルクレツィアは何度も高速船に乗った経験がある。

 その経験からしても、信じがたい速度だ。

 

「アラン、この船はいったいなんなの? 速度が普通の二倍近いわ」

「俺も知らんが」

 

 これはリティシアが用意したスコップ号だ。

 アランはこの船に関して、一切絡んでいない。

 そのときタタッと後ろから誰かが駆けてきた。

 

「あら! お目覚めになりましたのですね、ルクレツィア様っ!」

 

 名前を呼ばれて振り返る。プリンセスドレスをまとう少女だった。潮風にたなびく金髪が太陽の光を照り返しているが、何よりもその輝く笑顔。見間違えようもない。ロスティール王国第三王女リティシア、その人である。

 リティシアは両手を胸の前で組んで、歓迎の笑顔を浮かべている。

 ルクレツィアはほとんど反射的に姿勢を正し、敬礼をした。

 

「これは姫殿下……お会いできて光栄でございますっ」

「あら、そうかしこまらなくても結構ですわ。だって私たちはもう」

 

 リティシアはぎゅっとルクレツィアの手を握ると。

 

「アラン様の『スコップ仲間』ですものね……きゃあっ!」

 

 頬を赤く染めて『きゃあ、きゃあ、言ってしまいました』と恥ずかしがる姫。

 ルクレツィアは強烈な船酔いを覚えた。というか船酔いじゃなかった。スコップに酔っていた。アランに振り返ると、アランは諦めた悟りの表情を浮かべていた。実際アランはもう諦めていた。

 そこにルクレツィアがつかつかと歩み寄って。

 

「ちょっと! アラン!」

「なんだ。苦情なら本人に言え」

「あなた、リティシア殿下にまでいったい何をしたのですか!?」

 

 スコップ仲間って。つまり。アレか。あの恥ずかしいスコップを、こともあろうかロスティールの麗しの姫君にやってしまったのか。反逆である。王族侮辱罪で一族郎党死刑ものである。スコップで首を吊るべき蛮行である。

 と、そのとき、くすくすとリティシアが笑った。

 

「ご安心くださいルクレツィア様、私は正気なのですこっぷ」

「語尾が狂気です! あの男に無理やり恥ずかしいスコップをされたのですね!?」

「えっ?」

 

 リティシアはしばし考えると、ぽっと頬を染めて。


「いいえ。私は『スコップ』を……その、自分から望みましたよ?」

「じ、自分から!?」

「それはもちろん、はじめは恥ずかしかったですけど……いえ、今も恥ずかしいは、恥ずかしいのですけど……でもですね、掘ったり、埋めたりされるのは……その、人類にとって必要だし、とても神聖な行為だと思います。神聖スコップです」

 

 もじもじと手をこすりながら、解説するルクレツィア。

 ルクレツィアは絶句していた。

 リティシアの言動は異常だが、目の光は理知的だった。

 本気で言っているのだ。この聡明な姫君が。じゃあアレは本当に神聖な行為なのか。人類に必要な行為なのか。あの人生の恥ずかしさを極め尽くしたかのごときスコップが……でも確かにちょっと気持ちよくもあったけど……って、何を考えているの私!?

 そのとき、リティシアがくすりと笑った。

 

「鉱夫さま、ルクレツィア様はスコップにまだ慣れていないようですね」

「リティシアと比べたら俺でも慣れていないが……」

「ご冗談を。ねえねえ、ルクレツィア様っ」

 

 リティシアはルクレツィアの手を引いた。

 

「この船をご案内させてください、スコップの魅力がたくさん詰まっていますから」

「え……え、えええ……?」

「リティシアはぜひともご理解いただきたいのです!」

 

 きらきらと目を輝かせながらお願いしてくるリティシア。姫君にそこまで言われてはルクレツィアとしては頷くしかない。すると、きらーん。リティシアの目が鋭く光ったではないか。

 やばい。

 

「……待てリティシア。俺にも解説してくれ」

「えっ!?」

「俺もこの船に興味がある、知っておきたい」

「あ、は、はい、了解ですっ!」

「それと」

 

 ぐいっとルクレツィアを引き戻して。

 

「スコップでむりやり心を奪うのはやめるように」

「う! す、すみません……気をつけます……はい」

 

 しょぼんとうなだれるリティシアだった。

 

「ルクレツィア。あまりリティシアに近づくな。常人には危険だ」

「え……? 貴方にだけは絶対に言われたくないですけど」

「本当のことなんだが」


 アランの言葉の意味を、ルクレツィアはすぐに思い知ることになる。

 

 

 △▼△

 

 

 リティシアによれば速さの秘密は、セイルの形状にあるという。

 

「『スコップセイル』は、いずれ帆船の主流になるでしょう」

 

 頭上のスコップ型のセイルを指さしてリティシアが説明する。

 スコップの先端型に帆をそろえる。いわば三角帆の変形版だ。これは風を受けるために最適なカタチとなっているのだという。それを聞いたルクレツィアは感心した。なるほどきちんとした根拠があったのだ。

 安心した。物理的に無理なことをしたわけではない。

 これなら自分たちの貿易船にも、活かせる工夫だ。

 

「だがリティシア。スコップ状に帆を張るのは大変だったのでは?」

「スコップ造船所の方が、一晩でやってくれました」

「スコップ造船所!?」

 

 リティシアは説明する。『スコット造船所』のスコット親方に話をして、名前をスコップに改名してもらったのだという。新生『スコップ造船所』の目玉商品として、スコップセイルを調達したのだ。

 ルクレツィアの額から汗がたらりと流れた。

 

「そ、そうですか……なるほど……なるほど?」

 

 造船所独自の目玉商品に新アイデアを取り入れるのは、おかしなことではない。むしろ商売人としては当然だ。だから、まあ、うん、それほど驚くことでは……ないのか? 改名したのは……まあ商売人だから、商売のため……?

 と、リティシアがさらに解説を続ける。

 

「『スコップオール』。従来のオールの3倍の効率を誇ります!」

「オールも、まあ……なんとなくわかりますわ」

 

 空気をよく受ける形状なら、水もこぐことができるだろう。

 

「『スコップ船首像』。運命に立ち向かう勇気を与えてくれます」

「せ、船首像はもとよりおまじないですし」

「航海中の暇つぶしの『スコップ・トランプ』。ジョーカーの代わりにスコップが入っています」

「……え、あれ?」

 

 リティシアは止まらない。

 

「『スコップド・ベッド』まるで陸上で眠っているような安心感で航海の疲れを癒やします」

「どう見ても墓穴ですわ!?」

「『スコッピングカノン』スコップ状の砲弾により貫通力が5倍に」

「ちょっと!?」

「『スコッピング航法』スコップが倒れる方角で進行方向を決める、斬新な航法です」

「そのっ!?」

「『スコンプス』従来のコンパスとスコップの親和性(スとコが同じ)を活かした道具です。東西南北に加えスコップ精神集中効果で勘を冴え渡らせ、嵐の予測精度を高めます。鉱夫さまが使えば、スコップの震えで土の匂いを探知、陸地までの距離、浅瀬の岩礁まで探知――」

「いえ、あのですね! リティシア姫殿下っ!?」

 

 ついに耐えきれなくなったルクレツィアが叫んだ。

 

「はい、なんでしょうか? すこですか?」

「すこじゃないです! 無理がありますいろいろ! 特に最後のは!」

 

 聞いてたら思考が空の向こうにふっ飛ばされる感覚を覚えた。信じられない。特に最後の常軌を逸している。なんだコンパスとスコップを合体って。嵐の予測制度を高めるって、そんなことができたら船旅はまさしく革命が起きる。大スコップ時代だ。

 リティシアはくすくすと笑った。

 

「では実際にお見せします」

「えっ」

「船長室に『スコンプス』の実物がありますので」

「え、え、えっ」

 

 手を引っ張られて連れてゆこうとするリティシア。

 それは私が見てはいいものなのか。というか人類が見ていいものなの。

 ルクレツィアが己の(脳の)危険を感じた、そのとき。

 船長室から大声で叫ぶ声がした。

 

『嵐が来るぞー!!!』

 

 ガンガンガンガンと鐘がなった。

 一瞬にして船の空気が緊張に包まれた。ダダダっと船員すべてが駆けていた。みな必死な表情をしていた。そのうちの一人がルクレツィア達の側に駆け寄ってきて『早く船内へ! 取っ手に掴まっていてくだせえ!』と叫んだ。

 ほんとに――ほんとに予測した!?


「ルクレツィア様、中に入りましょう」

「わ、わかりました!」

 

 ルクレツィアとて嵐の怖さはよく知っている。

 この近くでは嵐の頻度は少ないが、その分強力なのだ。

 ぶるるっと体が恐怖で震える。すると船員が『わははっ!』と場違いに笑った。

 

「どうぞ安心くだせえ、お嬢様!」

「……えっ」

「この船は絶対に沈みやしません。何しろ俺たちには!」

 

 船員は胸ポケットから何かを取り出した。

 それはキラリと銀色に輝く、見慣れた形状のペンダントだった。

 

「スコップの加護が、ついていますからな!」

 

 ぐおおおおおううううう。

 暴風雨はまだだがルクレツィアの心の中は暴風だった。

 

「リティシア様……まさかスコップのお守りで、嵐まで防ぐおつもりですか……?」

 

 なかば回答を予想しつつもルクレツィアは問いかける。

 リティシアは真剣な、そして哀しい表情を浮かべた。

 

「いいえ」

「えっ!?」

 

 明確な否定。今日一番の、驚きだった。

 

「あのお守りは、残念ながらただの気休めです」

「そ、そうなのですね!?」

「でも……船員には心の拠り所が必要なのです」

 

 リティシア自身もスコップをぎゅっと握りしめた。

 

「この船は前回も暴風雨に遭い、8人が亡くなったそうです」

「…………」

「私ごときのスコップに、嵐を防ぐ力はありません。でも『スコップセイル』のようなスコップの工夫をしていくと……船員さん達は、スコップで嵐を防げると信じるようになりました。私が『そんな効果はありません』と言っても、です」

 

 リティシアの身体は、震えているようだった。嵐が怖くて、ではない。誰かが己を信じる心が怖いのだろう。

 そのときルクレツィア達の横を船員が駆けていった。

 彼もまた小さなスコップを握っていた。

 動きには迷いがまったくなく、自信に満ち溢れていた。

 

「ルクレツィア様。あの人は何かを信じたいのです。何か大きくて、理解し難いものを信じることで、行動する勇気が生まれるからです。だから私も――こんなお守りには、なんの効果もないのだと、わかっていても」

 

 リティシアはスコップを強く強く握りしめた。

 

「――あの人たちのために、スコップを、信じてみようと思います」

 

 

 ルクレツィアは何も言えなかった。

 リティシアの言うことが正しいように思えてきたからだ。信じる、それがスコップの本質なのか――自分は間違っていたのか――そのときぐらぐらと、船が揺れ出した。暴風雨が間近に迫っている。

 船内に入らなければならない。

 

「……あれ?」

 

 と、リティシアがきょろきょろと辺りをみまわした。

 

「ルクレツィア様、鉱夫さまは?」

「……そういえば」

 

 さっきから口を挟んでこない。まわりにいない。どこに行ったのだ。

 まさかあの鉱夫が船から落ちたなどということはあり得ないと思うが。

 と、リティシアが声をあげた。

 視線の先、船のいちばん前――船首にアランは立っていた。

 頭上にスコップを掲げ、青白いオーラを発している。

 

「鉱夫さまっ!?」

 

 リティシアが叫ぶ。だがアランは振り返らない。

 その視線の先にあるのは稲光が光る灰色の雲、暴風雨の源だった。

 アランの発する青白いオーラが、突如として爆発的に膨れ上がり、帆船全体をも包み込んだ。リティシアや周囲の船員達からもオーラが立ち上って、ギュオオオオウと船を包む青白い光に注ぎ込まれる。

 輝く船が、雨を弾いていた。

 

「ふん」

 

 アランが背中を向けたまま続けた。

 

「これだけの掘削力スコッピングパワーがあれば……十分か」

 

 アランがグッとスコップを握った。船を包むオーラがズシュウウと収束してアランのスコップ先端に集まった。指先ほどの先端にフワフワと浮かぶ球体。ルクレツィアはとてつもない圧迫感を覚えた。

 何を――何をするつもりなの――まさか。

 想像した瞬間、アランが叫んだ。

 

「Dig!」

 

 ドシュオオオオオウウウウウズゴオオオオオオオ!

 波動砲、発射。

 荒れ狂う暴風をも上回る、巨大なエネルギーの塊がスコップ先端から発射され、雲をつらぬいたかと思うと、一瞬後に、雲そのものを弾け飛ばした。青白いオーラがキラキラと虹のように変化し、やがて消えてゆく。太陽の光が、差し込んできた。

 

「……………………」

 

 全員が空を見ていた。晴れた青空を惚けたように見つめている。

 ただ一人、平然としているアランがリティシア達のもとに来た。

 

「嵐は去った、航海を続けるぞ」

「……あ」

 

 リティシアは頬を染めたままアランの元に駆け寄った。

 スコップをぎゅっと握りしめ、ぽろぽろと涙をこぼしながら。

 

「ありがとうございますこ……鉱夫さま……っ!」

 

 ひざまずいて礼を言うリティシア。

 どこからか『A-lan』という声が響いてきた。船員たちだった。彼らはその手にそれぞれのスコップを掲げ、アランとリティシアを中心にして『A-lan』すなわち祈りの言葉を合唱していた。ルクレツィアの意識はその声に釘付けになっていた。

 ルクレツィアは己の胸に、何か熱いものが到来するのを感じた。

 

「(これが――これが、スコップ――!!)」

 

 自分は今まさに奇跡を――神話を、目撃しているのかもしれない――!

 そのときだった。

 リティシアの目が『きらーん!』とひときわ強く輝いたのは。

 

「……よっし! 成功ですっ!」

 

 ぺしん!

 

「きゃっ!?」

 

 アランがリティシアの頭を軽く叩いた音だった。

 

「リティシア。妙な演出をするな。初めからわかっただろう」

「な、な、なにゃんのことでしょうかっ!?」

「俺の波動砲なら、嵐ぐらい吹き飛ばせると」

「はう!」

 

 図星を突かれたようで、ぴたりと止まるリティシア。

 ルクレツィアが『え、え、えっ?』とアランとリティシアを交互に見た。

 え、まさかリティシアのさっきまでの真剣な態度は――ただの演技?

 

「だから言っただろう。リティシアは危険だと」

「すみません……反省しています……すこします……」

「するな」

「…………」

 

 ルクレツィアは無言で天を仰いだ。

 確かにリティシア姫はとんでもなく危険のようだ。でも――ルクレツィアは雲ひとつない青空を見る。嵐はなかった。アランが跡形もなく消し飛ばしてしまった。そのことだけは確かだ。だからルクレツィアは全力でツッコまざるをえなかった。

 他の誰が言ったとしても――!

 

「あなただけは、ソレを言う資格なんてないでしょう!?」

「……そうか?」

「そうよっ!!」


 やはりスコップも鉱夫も信用ならない。

 再度、そんな意識を持つルクレツィアなのだった。

 

 ――そんなこんなで、航海は続いてゆく。

 目的地は、遺跡が眠るという海域『マーメイドオアシス』だ。

リティシア姫殿下によるスコップの加護を受けたい方は『すこっぷすこっぷ』と3回唱えた後に↓スクロールの評価を入れてくだ……違いますスコップ船長。ぼくは今回リティシア姫殿下の名誉回復のために書いた回なのでその結果を評価という形で知りたいだけで、決して久しぶりに日刊ランキングに入ったので少しでも長く維持しようとするつもりなど(このへんで海にスコップされた

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[良い点] すこっぷすこっぷ~♪ すこっぷすこっぷ~♪ すこっぷすこっぷ~♪ [気になる点]  ”もじもじと手をこすりながら、解説するルクレツィア。”  ↑  解説しているのが、ルクレツィアにな…
[良い点] すこっぷすこっぷ すこっぷすこっぷ すこっぷすこっぷ [気になる点] スコップないでスコップ! [一言] リティシアの演技まじでスコップすごすぎるでスコップ…
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