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スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第5章 海の国のスコップ(ルクレツィアすこ)
31/77

第30話 鉱夫、殺人事件の真相を探る

 ルクレツィアの屋敷である。

 あの後、牢屋の鍵をスコップで解錠したアランはとりあえず屋敷に案内された。

 街の中心部から少し離れた小高い丘の上に、その屋敷があった。3階建てに庭園もついた豪華な邸宅で、2、30人は余裕で暮らせるだろう。アランは応接室に案内されて執事にお茶を出された。

 一応、客人扱いのようである。

 手持ち無沙汰になったアランは部屋の調度品を見てゆく。

 数々の美術品、宝石、工芸品が並んでいるようだ。

 そのうちの一つ、緑色に輝く巨大なエメラルドで視線は止まった。

 

「ふむ……なるほど、この宝石は」

「あら。誘拐犯さんでもコレを知っているのですね」

 

 後ろからルクレツィアの声がした。どうやら自慢の逸品のようだ。

 ふふふっと笑い、ちょっとだけ嬉しそうなルクレツィア。

 

「ああ。俺がスコップで掘り当てた宝石だ、ここにあったのか」

「は?」

 

 ルクレツィアは一瞬止まったが、すぐに怪訝そうに。

 

「この『クイーン・エメラルド』は400年以上も伝わる我が家の家宝ですのよ?」

 

 確かにアランが420年前に掘り当てものだ。が、アランは言うことはしなかった。リティシアですら自分が1000年以上生きているとは信じていない。常識人のルクレツィアに話しても混乱させるだけだろう。

 宝石のことは置いて、本題に入る。

 聞きたいのは、誘拐のこと、父が殺されたこと、そして『グリーンオーブ』だ。

 アランはまず最初にグリーンオーブのことを聞いてみた――が。

 

「なに、それは?」

 

 名前すら知らない様子だ。

 ただ体からオーブの気配を感じるのは間違いない。

 飲み込める大きさでもないし、なんらかの謎があると思われる。

 

「ルクレツィア。頼みがあるのだが」

「できることなら、聞くけど」

「ちょっと身体を俺のスコップで掘らせてもらってもいいか」

 

 数秒の重たい沈黙があった。

 

「っっっ!?」

 

 バババっとダッシュで壁まで駆け寄るルクレツィア。

 豊満なスタイルを隠すように、ちぢこまる。

 

「な、なななにそれ!? スコップ!? いやらしい隠語!?」

「いや物理的な意味ではなく、アストラル的に掘らせてほしい」

 

 だが言葉は通じなかったらしい。ますます頬を赤く染めるルクレツィア。

 

「許可できるわけないでしょ、そんな意味不明なコト!」

「頼む。俺にとって必要なことなんだ」

 

 グリーンオーブを手に入れるのがこの旅の目的なのだ。

 なんとしても手に入れる必要があるので、アランは拝み倒す。

 もちろんルクレツィアは渋っていたが、やがて何かを閃いた様子。

 

「そ、そ、そうねっ、そんな意味不明なこと、もちろん許可できないけど!」

 

 ふふんっと、不敵に笑ったあとで。

 

「誘拐事件と私の父親が殺された件を、今日中に解決したら許可してあげる」

「なんだ、そんなことでいいのか」

「えっ?」

 

 無理難題をふっかけたはずなのに、と不思議そうなルクレツィア。

 だがアランには既に、確証があるのだった。

 さっそく聞き込みを始める。

 

「誘拐されたときのことを覚えているか?」

「ううん。道でいきなり殴られて……犯人の顔だけが、どうしても思い出せないの」

 

 腹立たしげに答えるルクレツィア。

 

「だからここはまず、地道だけど探偵に聞き込み調査をさせて」

「いや、記憶が欠落しているなら、スコップで埋めた方が速い」

「は?」

 

 リズの時と同じである。

 アランは左手をルクレツィアの顔にかざしてオーラを引き出すと凝縮させた。球体のオーラに、丸かじりしたリンゴみたいに穴が空いている。そこにスコップで土をざっくざくと埋めていった。

 ルクレツィアがぱんっと叩いた。

 

「あっ……! そうよ、あれはジスティス執政官の部下だったわ!」

「よし。黒幕がわかったな」

「なんてこと、あの陰湿な男が黒幕だったのねってちょっとお待ちなさい!!」

「なんだ?」

 

 血相を変えてアランに詰め寄るルクレツィア。

 

「なんだじゃないわ、明らかにおかしいでしょ、い、今あなた私に何をしたの!?」

「記憶を埋めた。掘るのと埋めるのが、スコップの得意技だ」

「!?!?!?!?」

 

 ルクレツィアはパニックに陥っているようだった。アランは反省する。カチュア達は平気だったのだが、どうやら概念操作は一般人には刺激が強すぎるようだ。もう少し慎重に行うべきだった。

 ルクレツィアは自分の頭を押さえて、身を守るようにして。

 

「ほんとにスコップって何なのよ……あっ!」

 

 と、何かに気付いたように。

 

「あなたまさか、あの、怪しい集団の一味なの!?」

「怪しい集団?」


 ルクレツィアは説明する。執事が街を歩いていたら、空き地にテントと看板が建っていたらしい。看板には『スコップ勉強会 ~はじめてのスコップ、あなたに教えます~』とあり、怪しい幼女が客引きをしていた。

 テントには浮浪者が吸い込まれるように入っていった。

 出てくるとみな、目を輝かせて『すこっぷすこっぷ』と口ずさんでいた。

 警備隊に通報したところ、警備兵も『すこっぷしゅごい』と口ずさんで帰ってきた。

 そのへんで執事は身の危険を感じ、観察をやめた。

 

「………………………………」

 

 99%間違いない。

 

「……その一味に、ロスティールのリティシア姫は、いたか?」

「ええ、リティシア姫の偽物もいたそうよ。タチの悪いなりすましね」

 

 120%間違いない。

 

「ルクレツィア。残念ながらそれは本物だ」

「は?」

「本物のリティシア姫だ」

 

 ぱちくりとルクレツィアはまばたき。そして呆れた笑みを浮かべる。

 

「バカをおっしゃいなさい。私をリティシア姫殿下とお話ししたこともある。愛らしくも聡明な方だった。発言のすべてから知性と、国民への深い愛情が伺えた。高貴なる王族とはまさにあのお方のことよ?」

 

 誰だそれは。

 

「俺の知っているリティシアとだいぶ違うな」

「姫殿下と一度でもお話しすれば誰でも理解できるわ」

「それは難しいだろう(リティシアの話を理解するのが)」

「そうね、ロスティールも国難にあるそうだし、お会いするのは難しいでしょうね。リティシア姫殿下はご無事かしら」

「そうだな……ルクレツィアが思うよりも、だいぶ無事だろうな……」

 

 アランはそのへんでリティシアの話を打ち切ることにした。

 まだルクレツィアに聞きたいことがある。

 

「父親が殺された、というのは?」

 

 話によると、亡くなったのはつい数週間前のこと。馬車で崖を走っている途中、御者が馬の制御を間違ったらしく、転落してしまったのだという。だがルクレツィアは信じていない。御者はルクレツィアの家に長く仕えたベテランだった。

 絶対に、謎が隠されているはず。

 そこまで聞いてアランは庭園に向かった。

 

「ちょ……待ちなさい、何をするつもりなの?」

 

 さっきは事前説明が不足していたので、アランは先に解説する。

 

「庭園は父親の名残の場所なのだろう。スコップで謎を掘り起こす」

「は?」

「死因を掘り下げる。殺人事件の解決はまさにスコップの出番だ」

「は???」

 

 解説は完璧だ。少なくともアランはそう思った。

 アランは父親が倒れていたというあたりをざくざくと掘る。

 死因を、掘り下げるのだ。1メートル掘ったあたりで『事故ではない』と彫られた岩が出てきた。3メートルで『これは殺人である』となった。10メートルほどで『殺人は、ジスティス執政官が依頼した』とあった。

 とりあえずそこまでだ。

 3段以上の原因を掘り下げるのはいかにスコップでも難しい。

 なぜかというと、それ以上掘ると地下水脈にぶち当たるからだ。

 

「そういうわけだ」

「どういうわけなのよ!?」

「やはり黒幕はジスティス執政官という男らしい」

「そ、そんなことを聞いてるわけじゃなくて、あう……」

 

 ルクレツィアの混乱の極みにある声。ぐすんと涙ぐむ。

 

「ううう……ほんとになんなのよ貴方は……」

 

 めそめそと泣きながら、アランの掘り当てた文字をじっと見る。

 

「でも……そうよね、やっぱりお父様はあの男に殺されたのね……!」

 

 なかば自分自身でも推測はしていたらしい。

 ルクレツィアはぐいっと涙を拭うと、気を取り直した風に。

 

「でも、これで事件が解決したとはまだ言えないわ」

「そうだな。犯人を捕まえなければなるまい」

「ええ。合法的にあの男を捕まえるのよ!」

「合法的にか」

 

 ルクレツィアによれば、執政官とは共和国の行政を司る要職だ。非合法な手段ではルクレツィアの名前が地に落ちる。そして法律には『逮捕は裁判所の令状を持つ警備官にのみ許可される』と書かれているのだ。

 ラクティア共和国の法律は、厳正にして公正だ。

 これを破るというのは、ルクレツィアとしては考えられないらしい。

 

「なるほど……俺は鉱夫だからよくわからないが」

「市民として、貴族として、法律は守るべきルールなのよ」

 

 ルクレツィアはそう言うとポケットから小さな本を取り出した。

 どうやらラクティア共和国の法律全書のようだった。

 ふむ、とアランは考える。

 グリーンオーブの秘密を調べるため事件は今日中に解決したいのだ。

 だが法律を守る必要はある、ということなら――

 

「ルクレツィア。その本を貸してくれ」

 

 法律全書を受け取ると、アランはスコップを向けた。穴を掘るイメージだ。何億回、何兆回と繰り返してきたアランは、あらゆるものに穴を掘る。対象は『もの』である必要さえない。グッと気合を入れれば、わりとなんでも掘れる。

 

「何をするおつもり?」

「穴を掘るのだ」

 

 アランは意識を集中して――本に向けてスコップを穿つ。

 

「はっ!」

 

 ズガン! 何かが強烈にえぐれる音がした。

 だが本は無傷だった。ページがひらりとめくれた。

 訴追に関する章だった。

 

 

『逮捕は、裁判所の令状を持つ警備官、又は、スコップを持つ鉱夫にのみ許可される』

 

 

 アランはほっと安堵のため息をついた。

 はじめての行為だったが、うまくいったようだ。

 

「よし。これで俺にも逮捕ができるようになった。行くぞルクレツィア」

 

 ルクレツィアは法律全書を覗きこんでいた。

 がしがしがしと何かが削れる音がした。たぶん彼女の正気が削れる音だ。

 

「なに……を……なにを……した、の?」

「スコップで『法律の穴』をつくって、そこを突いた」

「    」←常識が崩壊してゆくお嬢様の図

「安心しろ、事が終わったら法律の穴は埋めておく」

 

 ルクレツィアは己の意識が空の向こうに飛んでゆくのを感じた。

 自分はいったい、何に遭遇しているのだ。人か。スコップか。

 そのときアランが続けた。


「ルクレツィア。これで捕まえたら、約束は果たしてもらうぞ」

「…………やく、そく?」

「(オーブの謎を探るために)身体をスコップで掘る約束をしただろう」

「っっっっっっ!」

 

 やっと思い出して、すぐに真っ赤になるルクレツィア。

 スコップ。なにそれ掘られるの私。人間の女の子にしていい行為ではない。スコップの女の子にしなさいよ。それに結婚するまでそんなの絶対にダメなのよ。でも約束が。貴族の誇りが。約束を反故にするなんて最大のタブー。どうするの私!

 一瞬のうちに去来した数々の衝動と戦ったあと、ルクレツィアは――。


「も――も、もっ」

 

 ぶるぶるぶるっと首を振って、全てを振り払って。

 身を乗り出すようにして、羞恥にまみれた表情で、しかし堂々と宣言したのだった。


「もちろんです! す……スコップでもなんでも、許して差し上げます!」

 


 ――これが人生最大の失言となることを、彼女はまだ知らない。

シティアドベンチャーの定番である殺人事件! スコップでやるとこうなる。みごとなスコップ推理……推理……推理……うん、まちがいなく推理シーンですまちがいない!(自己洗脳)あとスコップは法律家の人の必需品なのだと実感しました(刑事訴訟不可避発言)


よろしければブックマーク・評価いただけると作者がスコップされます。だれに。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  今更この部分に読後の感想を書いてるこいつは何者だとお思いでしょうが  まずは一つお断りさせて頂きたい  私は以前 国立大法学部で学び 法哲学の講義で優の評価を得た経験もある その上で こ…
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