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スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第1章 旅立ちのスコップ(リティシアすこ)
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第2話 鉱夫、王女になんでもしてもらう

 鉱山の中腹にある、アランの拠点とする洞窟。

 

「本当にありがとうございましたっ!」

 

 ドレス姿、長く美しい金髪の少女がアランに勢い良く頭を下げていた。

 ぺこぺこ、ぺこぺこと、感激に涙すら流しながら、ひたすら礼を言っている。

 

「ほんとに、ほんとに、わたし、どうお礼を申し上げたらよいのかっ……!」

「気にするな。鉱夫として当然のことをしたまでだ」

 

 鉱山の仕事は危険だ。

 危機にあるものは救わなければならない。

 特に、女性は。

 その掟に従っただけである。

 

「鉱夫、様、なのですね。騎士様ではなく」

「ああ」

 

 王女は不思議そうに首をひねったが、やがて。

 

「わたし、鉱夫様がこんなにお強く、魔法まで使えるなんて、知りませんでした!」

 

 アランはぽりぽりと頭をかいた。恥ずかしい。

 だがここまで人に、しかも王女に褒められて悪い気はしない。

 

「あの凄まじい大魔法! どのような修行をされれば放てるのですか!?」

「スコップにグっと気合を入れる」

「え? ふむ……なるほど、そうですよね! 大魔法の秘技など門外不出ですよね!」

「そもそも魔法ではなく……まあ、いいか」

 

 どうやらこの子はアランを魔法も使える鉱夫と思い込んでいるらしい。

 訂正するのも苦労しそうだし、別に支障はないので、放っておくことにした。

 

 

 ――あれから。

 

 

 アランは呆然としていた少女を休ませるため家に連れ帰った。

 数十分ほどで気分の落ち着いた少女。幸いケガはなかった。

 名前を聞くと『リティシア』という。

 なんと、ロスティール王国の第三王女である、という。

 

「聞いたことのない国だが」

 

 といっても200年も地上から離れていたら国も代わるだろう。

 何より少女の美しさと動作の気品は、王女だと信じるに十分だ。

 

 さて。

 

 このリティシアから、いろいろと情報収集をしなければならない。

 先程の山賊も、とりあえず穴に埋めているが、どうやら賞金稼ぎのようだ。

 

 で、話を聞こうとしたら、先程のお礼乱舞である。

 

「礼はもういい。それより話を聞きたいのだが……ええと、リティシア王女殿下」

「で、殿下だなんて! いりません、どうぞ呼び捨てになさってください!」

 

 リティシアがあわわっと慌てるように首を振った。

 

「そういうわけにはいくまい。世俗にはうといが、王女と鉱夫は身分が違うはずだ」

「で、でも、わたしを救って下さった方です! それにお年も、上ですよね?」

「ああ、俺は今年で1024歳になる」

「えっ」

 

 リティシアは一瞬虚を疲れて止まった。

 やがて、あっと驚いた声。次いで恥ずかしげに。

 

「も、もう、いくらわたしが世間知らずの姫といっても、からかいすぎですよっ!」

 

 どうやら冗談に思われたようだ。

 

「いや本当なのだが」

「寿命はふつう80歳、亜人と混血でも200歳です。わたし、きちんと、じいやに習ったんですよ!」

 

 えっへんと、胸を張るリティシア。

 年齢の割に育ちがよいのか、胸は存外に大きい。

 アランはちょっとドキリとして、慌てて雑念を振り払った。

 

「………………まあ、いいか」

 

 とりあえず話はできるようになったのでいくつか質問をしてみる。

 

 なぜ王女が馬車で旅をしていたのか。

 なぜ護衛が御者一人しかいなかったのか。

 山賊たちのいう100万金貨とはどういうことか。

 

 それらを聞くと、リティシアは真剣な表情に戻った。

 

「わたしの国が……いま、危機にあるのです」

 

 リティシアはとても理知的に整理して事情を話してみせた。

 

 ロスティール王国は今、北方にある国「シャドウリージョン」に、乗っ取られようとしている。

 

 国王が殺され、宰相がデーモンにより成り代わられた。そのことに気づいたリティシア以外の王族はみな、宰相の魔法で魅了されるか、殺された。庶民はまだ何も知らない。王も公式にはデーモンに殺されたわけではない。

 

 なぜなら目撃者が、リティシアが王をナイフで刺したと、証言したのだ。

 

 そして逃げたリティシアに宰相は賞金をかけた。

 護衛がいないのは、騎士達までも、全員宰相についたからだ。

 リティシアができたのは、黄金のティアラを代償に馬車を買い取ることだけだった。

 

「ふむ……濡れ衣、であるのだな?」

「はい。信じてくださるかどうか……わかりませんが……」

「むろん信じる。鉱夫は一度信じた鉱脈を、信じる。きみのことも同じく信じる」

 

 リティシアはほっとしたようにうなずいた。

 アランは考える。

 1000年前に昔話でよく聞いたような事態だった。

 まるで幻想の物語のようだ。

 だが目の前の王女の真剣さをみれば、本当だと思うしかない。

 

「それで、リティシアはどうするつもりなのだ?」

「こちらを御覧ください」

 

 リティシアはごそごそとドレスの懐をあさると黄色の宝石を取り出した。

 拳ほどの大きさ。強烈な魔法の光を発している。

 そしてアランには見覚えがあった。

 

「これは……《イエローオーブ》か?」

 

 儀式台に供えることで魔物を寄せ付けぬ結界をつくる、魔法のアイテムだ。

 

「ええ、我が国に200年前から伝わる秘宝です。ご存知でしたのね」

「ああ、原料は俺が掘り出した宝玉だからな」

「は?」

 

 リティシアがぱちぱちとまばたきをした。

 そしてまた『もうっ』と、恥ずかしげに上目遣いになった。

 

「あっ! また、わたしをおからかいになったのですね! もう!」

「いや本当なのだが……」

「ふふ、これが作られたのは、200年も前のことなのですよ?」

 

 たしかに200年前のことだった。

 

 アランは魔術師ギルドに、地底より採掘した7つの宝玉を売った。

 アランが採掘した中で、もっとも価値ある宝玉たちだった。洞窟の奥深くにある、氷の壁を炎でつらぬき、その奥の輝くクリスタルを砕いたものだ。魔術師ギルドのギルドマスターは、最高の素材になりそうだと興奮していた。

 

 そのひとつが、今、ここにある。

 

 アランは懐かしい感覚を覚えた。

 俺の掘った宝玉が、国宝にまでなったか。

 なんとなく誇らしくもある。

 

「しかし、オーブはあと6つあったはずだが」

「まあ、それは秘密ですのに。宝玉におくわしいのですね、さすが鉱夫様です」

 

 リティシアの目がまたキラキラと輝き出した。

 

「だから宝玉は俺が採掘した……」

「もうだまされませんよ。ふふふ、鉱夫様はご冗談もうまいのですね」


 もう誤解を解くのは無理らしい。アランは諦めた。


「それで、残りは、盗まれてしまったのです」

 

 国で一番の魔法使いに探知魔法で探させたところ、すべてが国どころか、大陸中のあちこちに散らばっていた。それも谷の奥深くや、海の底、巨人の住居など難所ばかりだ。誰かが故意に捨てたとしか思えなかった。

 騎士の捜索隊を派遣したが、誰一人として帰ってこなかった。

 

「オーブが力を発揮するには、最低でも3つ以上が必要です」

「それがなくなったために、国に闇の勢力が入りこんだと」

 

 オーブの力は抽象的なものではない。あるエリアの頂点にそれぞれのオーブを置く。するとその範囲への魔物の侵入を阻害できるのだ。人間の国をつくるには、オーブはほとんど必需品である。

 

「宰相を倒したところで、また新しい悪者が来るだけです。オーブが必要なのです」

 

 リティシアは続ける。

 

「だからわたしはオーブを持って逃げて……そして、ここで、あなたに救われました」

 

 リティシアはそこで話を終え、アランを見上げた。

 

「鉱夫様。リティシアはあなたにお願いがあります」

「了解だ、引き受けた」

「無理なお願いだと承知しています。でも、どうかお願いしたいのです。わたしといっしょに、大陸に散らばったオーブを探し――――――――えっ」

 

 ぱちぱちと、まばたきして止まるリティシア。

 

「こ、鉱夫様、はやいです! わたしはまじめなお話をしています!」

「俺も真面目に言ったぞ」

 

 失われたオーブを採掘する。

 その依頼に、鉱夫のアラン以上の適任者が、ほかにいるだろうか?

 それに自分が掘り出した最高の宝が失われたというのは我慢がならない。

 

「あの、おわかりですか? とても、とても危険なのですよ?」

「俺は鉱夫だ。危険には慣れている」

「た、たしかに鉱夫様はお強いですけれど……それに、報酬もお渡しできないのです」

 

 リティシアはしょぼんと肩を下げた。

 

「わたしはいま、オーブ以外に、このドレスぐらいしか持っていません」

「そのようだな」

「はい。わたしにできることなら、なんでもするつもりはあるのですが……」

「ふむ。なんでも、か」

 

 王女がなんでもしてくれる、という。

 

「鉱夫様は、何か欲しいものがおありでしょうか?」

 

 このリティシアは国に戻れば王女である。

 鉱夫の自分に、何かほしいものはあるのだろうか?

 アランは少し考えてから、そういえば必要だったと、ぽつりと口に出す。

 

 

 

「後継者がほしい」

 

 

 

 リティシアが笑顔のまま固まった。

 

「えっ……」

「俺も今は元気なのだが、実際いつ死ぬかわからん。後継者は必要なのだ」

 

 名案だと思った。

 リティシアは王女だ、国が正常に戻れば国民がいる。

 その中から鉱夫の後継者候補を募集してもらい、引き取るのである。

 

「え、え、それは、そのっ?」

 

 ぽーっと、なぜか、リティシアの頬と声がピンク色に染まっていく。

 胸がぽよんぽよんと心臓のリズムに合わせて揺れている。

 

「こ……こ、こ、後継者というのは……こ……子どもがほしい、という意味でっ!?」

「子ども……か? ああ、たしかにそういう扱いになってしまうな」

 

 基本的には鉱山にこもりきりの仕事である。

 肉親扱いして、つきっきりで技術を叩き込む必要がある。

 

「そ……そうですか……子どもを……わたしが……はぅ……」

 

 沈黙の時間。目が合う。リティシアの目尻は潤んでいる。

 子どもとは後継者候補のことだとリティシアは認識した。

 と、アランは思った。

 

「あの……すみません、わ、わたし、今とてもおどろいております……」

 

 リティシアはなぜか胸に手を当てドキドキした様子だ。

 

「む、そうか……無理ならかまわないのだが」

「いいえ!」

 

 ブンブンブンブン!

 リティシアはちからいっぱいに首を横に振った。

 

「あの、な、なんでもしますから! なんでもするつもりは、ありますから!」

「む……そんなに難しい頼みだったか……」

「た、ただその、ただ心の準備がちょっと、いりましただけでしてっ!」

「準備?」

「こ、鉱夫さまなら……わたしを、救ってくださった鉱夫さまなら!」

 

 すー、はー、すー、はー。

 深呼吸を何度も何度も繰り返してからリティシアは目を開ける。

 幼い少女の整った顔に、決意の表情が浮かんでいた。

 

 

「わかりました! リティシアは、鉱夫様の子どもを、つ、つ――つくりますっ!」

 

 

 つくる。

 後継者をつくるとは、少し妙な表現だが、王家と鉱夫では文化が違うのだろう。

 緊張と、少しの喜びにふるえているように見えるのは、慣れない場所だからか。

 

「よかった、ありがとう」

「わ、わたし、そういうことにはくわしくありませんが……すぐに勉強して!」

「いや、国に戻ってからでいいぞ、もちろん」

「あ……?」


 リティシアは自分のお腹と、その下のスカートを見て、赤面した。


「あっ、た、たしかに(おなかが)旅のじゃまになってしまいそうですね!」

「……?」


 アランは少し考えて、旅の間に後継者募集はできないだろうと思う。


「とはいえ、どうやってやるか、考えて練習はできるだろうな」


 後継者募集の方法などアランは知らない。

 勉強する必要がある。

 それを、聡明なリティシアに手伝ったもらうことにしよう。


「れ、練習……ですか……その……」

 

 リティシアは頬どころかうなじも耳たぶも前部真っ赤だ。

 

「は、はい、わかりました……リティシアは、がんばらせていただきます」

 

 つんつんと人差し指同士を突き合わせるリティシア。

 

「練習……れんしゅう……が、がんばらないと……です……っ」

「リティシア、頬が赤いが、どうした?」

「な、なんでもありません! え、えっちなことなんて、平気ですから!」

「は?」

「わたしも王女ですから!」

 

 洞窟にリティシアの叫びが響き渡った。

 

 

 ――こうして、アランとリティシアはお互いを理解しあった。

 少なくとも二人はそう思い込んだ。

 

「はぅぅぅぅぅ……子ども……こ、子ども……あぅ」

 

 頬を真っ赤にしたままのリティシア。

 思い込みは、しばらく、解けそうになかった。

つづきは明日夜9時の予定です。

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