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スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第4章 氷の国のスコップ(リーズフェルトすこ)
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第25話 鉱夫、死霊魔術師に完全勝利する

 黒鉄の塔の跡地に雪原が広がっていた。

 死霊魔術師レイストールの周囲には、無数のスケルトンが彼を護っている。よく見るとその剣と鎧からはどす黒いオーラが放たれており、魔法の武器と防具を装備させた強力なアンデッドのようだ。

 その中央でレイストールは怒りと焦りの表情を浮かべている。

 黒鉄の塔が崩壊したことが、よほどショックだったようだ。

 

「貴様ら……私の城に一体何をした!? 爆薬を仕掛けていたのか!?」

 

 リティシアが自信満々に答える。

 

「いいえ、どちらかというとスコップです」

「スコップ!?」

「ええ、アラン様のスコップはまさに採掘神話テイルズ・オブ・スコップをこの旅で――」

 

 と、そこでリティシアの肩を静止するようにアランがつかむ。

 

「待てリティシア。まだ宰相の耳がある。俺の情報は秘匿したい」

「秘匿? アラン、どういうことだ?」

 

 カチュアが問いかけるとアランは『情報戦だ』と答えた。

 

「敵の親玉に情報を掴まれるのは、戦略的に好ましいことではない」

「おまえは今更何を言っているんだ……?」

 

 今までさんざんスコップで暴れてきたのである。

 エルフ城を建設してリフテンの古城を解体してサバロニア関所を粉々にして伝説の竜を波動砲で消滅させて、あとスコップ教団まで創始した(これはリティシアだが)。情報漏えいどころの話ではない。

 むしろ今現在、宰相達がスコップ情報を掴んでいないことが不思議なのだ。

 

「それは、俺がスコップでカバーストーリーを展開したからだ」

「は?」

「つまり、スコップで真実の物語を地中に『埋めて』いたのだ」

「つまりじゃないが。人間の言葉で解説してくれ」

 

 アランのスコップはある程度抽象的な存在でも『掘る』か『埋める』ことが可能だ。地底のデーモン帝国との戦争では、何度滅ぼしても復活する不死の悪魔がいた。それを葬るために『不死』という概念をスコップで地中に埋めた。

 具体的には岩に『不死』と書いてスコップで埋め立てた。

 それで、悪魔は二度と復活しなくなった。

 ピラミッドの謎を掘ったのも、だいたい同じ理屈である。

 

「これを情報戦に応用したのだ」

 

 アランは『真実の物語』を情報隠蔽のために、適宜埋めてきた。

 何かを埋めて隠すのは、スコップの得意技なのだ。

 

「だが万能ではない。宰相に直接聞かれてしまえば、真実を掘り起こされてしまう可能性が……どうしたカチュア?」

「私は今世紀最大の頭痛を覚えている」

 

 やはりこの男は人間の形をした何かである。というかスコップ。

 

「大丈夫か? 『スコッピング・ヒーリング』で痛みを埋めるか?」

「絶対に断る……あと情報戦など不要だろう、貴様なら波動砲で全て瞬殺できる」

「カチュア、スコップの精神を思い出せ」

「精神?」

 

 アランはスコップをすちゃりと構えた。

 こちらを憎々しげに見つめるレイストールにスコップを向ける。

 

 

「安全第一はすべてに優先される」

 

 

 カチュアは安全第一で倒されるレイストールが哀れに思えてきた。

 

「だから今回はスコップの独自技は使わず普通の方法で敵を倒すぞ」

「普通? 具体的には?」

「そうだな……敵の魔法をスコップで真似して返せば、よいだろう」

「なるほど普通(スコップ基準)だな」

 

 カチュア精一杯の皮肉だったがアランは気付かなかった。

 そのとき、背後から声援が来る。

 

「鉱夫さま! がんばってください、わたしたちは見守っています!」

『のう、このスケッチブックと鉛筆はなんなのじゃ……?』

「スコップ聖典イラスト用のスケッチです。賢者リズ様もぜひ」

「はい、任せてください! 本の執筆はまさに賢者のお仕事!」

 

 遠足の写生大会状態である。完全に舐めている。

 

「いいぞアリスにリズ。そのままリティシアの側にいてくれ」

『スコップの届かない距離でよいか?』

「よくない。すぐそばにいろ」

『またスコップの危機なのじゃ……』

 

 と、そのときである。

 レイストールの背後からエコーのように宰相の声が響いた。

 

『レイストール、何を遊ばせているのだ! さっさとリティシア姫達を捕縛しろ!』

「はっ、閣下!」

 

 徹底的にコケにされたと感じたらしい(事実そのとおりである)。宰相ゼルベルグの声に応え、レイストールが戦闘態勢に入った。ロッドを高く掲げると、黒いオーラが周囲に集まっていく。

 

「我が魔術の奥義――その身で知るがよい!」

 

 ブゥン。

 レイストールと護衛の姿が一瞬ブれ、直後、雪の上から掻き消えた。

 カチュアが嫌な気配を感じて振り向いた。リティシア達の後ろに、消えたはずのレイストールが姿を表していた。高速移動――いや『瞬間移動テレポート』だ。導師級の魔術師だけが使える技である。不意打ちのつもりなのだろう。

 だがカチュアの嫌な予感の正体はそれではなかった。

 レイストールの真横に、アランも立っていたのだ。

 

「ぐおおおおおおおおお!?」

 

 気付いたレイストールが叫び声を上げ、慌てて距離を取る。

 

「貴様、どうやってついてきた!?」

「むろん『瞬間地中移動スコッピング・テレポート』だ」

 

 スコップで地面に穴を掘って進むことで実現する擬似的な瞬間移動。

 地面が繋がってさえいれば、どこにでも行くことが可能なのだ。

 

『レイストール、さっさと決着をつけろ。僕は気が短いぞ』

「くっ……! マナよ荒れ狂え、火球となりて我が仇敵を討て!」

 

 レイストールがロッドを振りかざす。

 ボウっと、5つの巨大な火球が空中に現れた。

 

「それなら俺も使える」

 

 アランが同じく地面の岩にスコップをザクっと刺すと555個の太陽と見紛うばかりの火球が周囲に出現した。スコップと岩が高速でこすれあう『スコップ摩擦熱』によって発生した『採掘火球スコッピング・ファイア・ボム』である。

 火球が一斉に、レイストールに迫った。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 迫る火球に慌てたレイストールは再度瞬間移動。

 なんとか空中に逃れたようだ。

 アランはスコップをコンコンと叩いて首を傾げる。

 

「外したか。やはりコントロールが効きにくい。ビーム以外の遠距離攻撃には、スコップには向いていないようだ」

 

 そもそもスコップは遠距離武器ではない。ビームも出ない(カチュア心の叫び)。

 

「馬鹿な、バカなバカなふざけるな!」

『レイストール! レイストール! 返事をしろ、何が起きているのだ!』

「スコップです! スコップから魔法が!」

『しっかりしろ、貴様の言葉にもノイズが混じっているぞ!』

「本当なのですゼルベルグ閣下!」

 

 更に動揺するレイストールと宰相。カチュアもまったく同感だ。と、レイストールの体にゴゴゴと黒いオーラが集まってゆく。魔力だった。空気中の魔力がすべて、空中を飛ぶ魔術師に吸い寄せられてゆく。

 

「我が究極の秘技――天空よりの裁きを、その身で受けて死ぬがよい!」

「む?」

 

 魔力のオーラは天に立ち上るほどに大きくなる。太陽を覆い隠すほどだ。大気そのものがゴゴゴゴと震えている。その正体は天空にあった。燃えさかる岩。空気を燃やし尽くしながら、凄まじい速度でアラン達に迫っている。

 あれは――まさに、隕石だ。

 

「《隕石招来メテオ・スウォーム》!」

 

 レイストールが叫ぶと同時に、隕石は数百の塊に分裂した。

 アラン達に向けて降り注ぐ、強烈な質量の塊である。

 

「ふむ」

 

 アランは一声発すると。

 

「それはまさに、俺の得意とする技だな」

 

 スコップ一閃。ズザオオオオオオウ!

 スノーマウンテンの山頂部が、斬れた。

 巨大な雪山そのものの山頂部をスコップで斬ったのである。それを天空にグッと気合で打ち上げた。空を覆わんばかりの雪山の塊。その巨大質量にアランはスコップを向けて『拡散スコップ波動砲』を斉射した。

 ズオオオオオオオウウウウウウガアアアアアア!

 

「これが《隕石採掘メテオ・スコッピング》だ」

「ばかなああああああああああああ!?」

 

 拡散した隕石がレイストールに降り注ぐ。

 瞬間移動の動作に入る。だが動作が遅い。逃げ切れない。

 

「ぐああああああああああ!」

 

 直撃、であった。

 圧倒的質量のインパクトが、レイストールを巻き込んだ。

 雪原の跡に残ったのは、焼け焦げたクレーターだけ。

 

 完勝である。

 

 

「……哀れすぎるな」

 

 カチュアは深々とため息をついた。

 いや、結果はやる前からわかってはいたのだが。

 究極の攻撃魔法である《隕石招来》すらスコップで真似をしてしまう。

 どれほどの年月の修行を積めば、そんなことが、可能になるのだろう。

 

 カチュアがぼんやりとそう考えていたときだ。

 

『馬鹿め――油断したなっ!』

 

 レイストールの声と同時に、ガシャンガシャンガシャンガシャン!

 スケッチ中のリティシア姫の周囲をスケルトンの大軍が取り囲んだ。その集団の中にはレイストールらしき姿があるが、半透明で透けている。アストラル体だ。どす黒いオーラを生前よりも濃くまとっているようだった。

 死霊魔術の奥義、アストラル体への転生である。

 

『死霊魔術師は死んでからが本番よ! リティシア姫は貰ってゆくぞ!』

 

 100体はくだらないスケルトンが一斉にリティシアに迫った。

 まずいと、カチュアは感じた。

 あの位置に対してアランが波動砲を撃つと姫に当たる。


『女子どもと使い物にならぬ魔女だけを残したのが、貴様のミスよ!』

「くっ!」


 助けなければと、カチュアが走り出した、その瞬間だ。


『たわけが』


 おそろしく冷たい、幼女の声が響いた。

 アリスだ。

 不満げな表情で、アリスはぱちんと指を鳴らした。レイストールの黒い魔力よりなお黒い波動が、暗黒がアリスの爪の先から蜘蛛の糸のように放射された。スケルトンの集団とレイストールは暗黒の糸に絡み取られ完全に静止した。

 

『《完全死霊支配フルコントロール・アンデッド》』

 

 ぴたりと、スケルトン全ての動きが止まった。

 まるで凍りついたかのように微動だにしない。

 レイストールも同様のようで、苦悶の表情を浮かべていた。

 

『――ッ!? ――ッ!?』

『ふん。死にたてのアンデッドがわらわに歯向かうなど、100年早い』

 

 アリスがスケッチブックを捨てて、ゆっくりと立ち上がった。

 近づいてきたアランを見て、めんどくさそうに言葉を続ける。

 

『アラン、手抜きするでない。埋葬すれば死霊術師とて復活せんじゃろ』

「アリスならアンデッド支配で宰相の情報を聞き出せると思った」

『なんじゃ。わざわざわらわに任せたのはそれが狙いか』

「できないのか?」

『……わらわにこんなハゲ魔術師を眷属にしろと……』

「安全のために情報は重要だ。頼む」

『頼まれればやるがの』

 

 そのころにカチュアはようやく追いついた。

 

「貴様らは……貴様らは本当に……」

 

 改めてため息をついた。

 見ればリティシアもリズも、何事もなかったかのようにスケッチを続けている。

 これでは緊張した自分がバカを見ただけではないか。

 カチュアが天を仰いだ、そのとき。

 

『レイストール! 霊脈ラインが途切れたぞ、スコップとはどういう……こ……』

 

 宰相の声はどんどん小さくなり、やがて消えていった。

 どうやらアランの狙いどおり最後まで事態を掌握しなかったようだ。


「よし。俺の情報は隠匿できたようだな」

「もう……スコップって本当に、なんなのだ……」

 

 ほとんど死にかけの声で、もはや何百回目かわからない疑問をつぶやく。


「うむ。スコップは――」

 

 アランはそこで言葉を止めた。

 雪原に『レイストールとの戦いの真実』と書くとパンパンと埋める。

 黒鉄の塔の残骸が、空気に溶けるように見えなくなっていった。

 スコップが真実を埋め立てた効果だ。

 

 

「――情報戦において、最強の武器だ」

スコップは近距離戦最強の武器であり、遠距離戦最強の武器であり、情報戦最強の武器なので、まさに現代兵器といえるでしょう。そんな確信をもとに今回書いたのですが、もうなんというかもうなにやってんだろうぼくはという思いがなきにしも……なきにしも……ないな!(セルフ洗脳・第二段階

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