表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第4章 氷の国のスコップ(リーズフェルトすこ)
25/77

第24話 鉱夫、宰相ゼルベルグと対峙する

 アランたちの眼前に黒鉄の塔がそびえ立っていた。

 頂上は雲の上にまで伸びており肉眼では見えない。ゴツゴツとした骨のような棘のある外観。窓にはすべて鋼鉄の鉄格子が嵌められている。おそろしく巨大でいかつい、まさに悪の魔法使いの塔であった。

 リズによればこの塔こそ魔術師レイストールの拠点らしい。

 

「ところでリズ、レイストールとはどのような人物だ?」

 

 シレイジアの宮廷魔術師とだけは聞いていたがそれ以上の情報はない。

 迷宮に自己封印していたリズを起こして暴走させた、というぐらいだ。

 

「レイストールは悪の魔法使いです」

「スコップ賢者ならもうちょっと掘り下げてくれ。外見はどうだった」

「黒いローブ、ドクロの杖、ハゲてて……すごく悪っぽかったです!」

 

 自信満々で答える、氷の賢者あらためスコップの賢者。

 

「なるほど……それは確かに悪の魔法使いですこ」

「姫殿下。語尾が『す』の時に無理やりスコップを繋げるのはやめてください」

「絶対にやめないですこっぷ」

「そうですか(諦め)」

『ふむ。ドクロの杖となると死霊術師かもしれん。他には情報は?』

 

 アリスがやっと有用な発言をした。

 リズは額に指をついてむーんとうなっている。

 

「えっと……あ、そうそうレイストールの後ろにもう一人誰かいましたよ」

「誰か?」

「超美形の若い男です。金髪でガウンを着てて偉そうなので、王族さん?」

 

 発言の直後、リティシアがぴくりと反応した。

 

「リティシア、知っているのか?」

 

 リティイアは赤いスコップを胸の中にぎゅっと抱く。

 アランの問いに答えず、リズに問う。

 

「リーズフェルト様、その男はほかに何か、言っていませんでしたか?」

「えーと……『ドレスの姫だけは絶対に死体でもよいから確保しろ』と」

「っ! 宰相!」

 

 リティシアはスコップを語る時の次ぐらいに熱のこもった声をあげた。

 

「ロスティールの宰相か……たしか上位悪魔だったな」

「そのとおりです。人間の姿のときはゼルベルグと名乗っていました」

 

 たしかリティシアに国王暗殺の濡れ衣を着せた元凶である。

 宰相ゼルベルグ。その名前は初めて聞いた気がする。

 

「あの男……シレイジアにまで手を伸ばしていたのですね」

「リティシアを死体でも確保しろ、というのは?」

 

 アランの言葉にリティシアはしばらく言いよどんだ。

 躊躇している。でもアランの言葉に嘘は返したくない。そんな感じだ。

 が、やがて。

 

「私を妻に迎えたい……と、あの男は言っていました」

 

 国を手に入れる常套手段は、古来より王族と婚姻関係を結ぶことである。王女であるリティシアを妻にすれば、穏便に王座を手に入れられる。政略結婚の代表的な例とも言えるだろう。

 

「私が拒否すると、あの男は国王暗殺の濡れ衣を私に着せました」

「意趣返しというわけか。だが、死体でも確保しろというのは?」

「……断った後に、ゼルベルグは……」

 

 リティシアは震えながら、ゼルベルグの言葉を復唱しはじめた。

 

 

『ははは。なるほど、結構です。姫殿下のそういう気丈なところが、僕は大好きなのですよ。しかし無駄ですな。僕は姫殿下の美しき心と体を――どんな手段を使ってでも――僕のものにするつもりなのでスコップ』

 

 

 時が止まった。

 リティシアが言葉で止めていた。

 

「ああ……ああ、なんと冒涜的な言葉でしょう……っ!」

 

 リティシアはブルブルっと、怒りに体を震わせている。

 それ以外の全員は止まった時の世界でフリーズしている。

 やがて最初に復帰してきたのは、カチュアだった。

 

「お待ち下さい姫殿下」

「なんですかカチュア。冒涜的な表情をしていますよ」


 どちらかというと冒涜的なのはリティシア姫である。

 

「宰相の発言にダウトがあります。具体的には最後の方に」

「私の記憶は確かです。一言一句違いません」

「記憶の中の他人をスコップ汚染しないでください」

 

 カチュアは宰相ゼルベルグがかわいそうになってきた。

 まさか気取った決め台詞をスコップ化されているとは夢にも思うまい。

 

『アラン、もう塔に入るのじゃ……わらわは疲れた』

「俺もぜひそうしたい気分だった」

 

 とりあえずスコップで塔の地下通路を掘って、脱出路を確保してから(もうこの程度では誰も驚かなくなった)一同は巨大な鋼鉄の門の魔法のカギをスコップで壊して(もうこの程度では以下略)内部へ侵入した。

 巨大な、城の大広間のようなフロアだった。

 吹き抜けのバルコニーになった3階あたりに男が立っている。

 

「――ほう」

 

 黒いローブにドクロの杖、禿げ上がった頭の壮年の男。

 リズの語ったレイストールに違いない。アラン達をにやりと邪悪な笑みの表情で見下ろしている。その周囲では、黒く歪んだ剣と黒鉄の鎧を装備した6体のスケルトンが、護衛のように取り囲んでいた。

 

「我が主よ――獲物が我が罠に、かかったようですぞ」

 

 そのときリズが一歩進み出た。

 レイストールにスコップのロッドを向ける。

 

「レイストール! あなたの邪悪な陰謀もこれまでです!」

「ふむ?」

 

 レイストールはリズを見下ろすと、ぴくっと眉をゆがませた。

 

「なんとこれは氷の女王殿。《アイス・コフィン》は解呪されたのですね」

「ええ、怪しい薬で私を暴走させたあなたの罪、絶対に許しません!」

「怪しい薬? 私が与えたのは魔力中和剤ですが」

「えっ」

 

 ぴたりとリズが固まった。

 

「魔力中和剤で魔力の暴走をなんとか止めて、貴方を再封印したのです」

「えっ」

「それでも暴走を止めきれず、王都は氷に包まれたのですが。まったく、大陸征服の切り札になるかと思い『極氷の洞窟』から引き上げてみれば、とんでもない人間無差別兵器でした。使い物になりません」

 

 たらたらたら。リズの頬から滝のように汗が流れ落ちる。

 

「落ち着けリズ。あれは精神攻撃だ」

「……っ!? そ、そうなのですね! おのれレイストール!」

『アラン、そうじゃったのか?』

「たぶん違うが、今暴走されても面倒だろう」

 

 今はとにかくレイストールだ。

 彼が『シルバーオーブ』を持っているはずなので捕らえなければならない。

 そのレイストールは、ぎらりと視線をアラン達一向に向ける。

 

「あなたが……リティシア姫殿下、ですな?」

「……だから?」

 

 レイストールははっはっはと笑い声をあげた。

 

「おお、おお、なるほど、これは美しいお姫様だ。貴方だけは絶対に連れ帰れとゼルベルグ閣下に強く厳命されておりますれば……そうそう、ゼルベルグ閣下と、今ここでお話をなさいますかな?」

 

 レイストールの発言にリティシアは目を見開いた。

 

「ここにゼルベルグがいるのですか!?」

「いえいえ。この世界には通信魔法というものがございましてな」

 

 レイストールが複雑な身振りをしてロッドを振った。

 すると、大広間の中央にザザっと空間が断裂し異空間が開いた。そこには赤い絨毯の敷かれた玉座の広間――おそらくはロスティールの王城――が見えた。その玉座に、一人の若い男がどっかりと腰掛けて肘をついている。

 あれがゼルベルグだろう。

 その金髪の男は、リティシアを見やると。

 

『これはこれはリティシア姫殿下。久方ぶりですな。相変わらずお美しい』

 

 礼儀正しく格調高い口調で、そのように言ってのけた。

 

「ゼルベルグ、その玉座はお父様のものです、どきなさい!」

『ははは。残念ながらこの場所は、既に僕のものなのですよ』

 

 よく見るとその左手に王冠がある。弄ぶかのようにプラプラと揺らしている。

 

「……っ」

『王子からは既に、王たる証の二つの一、王家の宝冠は譲り受けました』

「ただの……ただの洗脳でしょう、そんなもの!」

『あとは僕が欲しいのは、もう一つの証。王家の血――すなわちリティシア姫殿下ですよ』

 

 ゼルベルグは、はははっとさわやかに笑った。

 そして立ち上がり、リティシアに手を差し伸べた。

 

『オーブを盗人のように持ち逃げして、はるばるシレイジアへの逃避行。お辛いでしょう。そろそろお戻りください。ご安心ください、僕は確かに悪魔ですが人間を深く愛しております。幸せな子をなして、幸せな国をつくり、貴方と国民を幸せにする自信があります』

「………………」

『リティシア姫殿下。どうか僕の求愛を、今度こそお受けください』

 

 おそろしく優しい声、そして態度であった。

 おそらくは《チャーム》の魔法に近い、魔力を感じる。誘惑の言葉だ。上位悪魔は人間など遥かに上回る魔法使いであり、その魔力を言葉に乗せて、洗脳すら可能である。常人ならば今のゼルベルグに迷いなくイエスと答えるだろう。

 常人ならば。

 だからアランはゼルベルグの誘惑を止めなかった。

 カチュアも動かなかった。他のふたりも同じだった。

 なぜかというと、全員、結果がわかっていたからだ。

 

「ゼルベルグ。私の答えは既に決まっています。私は――」

 

 リティシアがぎゅううっと右の拳を握って。

 赤いスコップを握りしめて、凛とした表情で、その言葉を発した。

 

 

「鉱夫さま以外と『スコップ』するつもりなど、ありません!」

 

 

 がっしゃーん!

 ゼルベルグの左手から王冠が盛大に転げ落ちた。

 カンカンカンと床を転がって止まった頃にゼルベルグはようやく言葉を発した。

 

『………………おい。レイストール』

「はっ!?」

 

 耳の穴を小指でほじりながらゼルベルグは続ける。

 

『通信魔法の術式を確認しろ。僕のリティシア姫の声に、妙なノイズが混じった』

 

 冷や汗をかくレイストール。

 

「い、いえゼルベルグ閣下、リティシア姫は確かに……」

「ええ、わたしは確かに鉱夫さまと『スコップ』すると言いました!」

『まただ。確認しろ、禁止ワードが誤爆しているのではないか?』

 

 ゼルベルグがイラついた様子で言葉を続けた。残念ながら誤爆ではない。

 

「ゼルベルグ、もう一度言いましょう。私と『スコップ』したいという、あなたの求スコップはもう聞き飽きましたよ。それに私はもう約束したのですこ。鉱夫さま以外と『スコップ』することなど、私にはもう考えられないのですこっぷ」

『レイストール! ノイズがひどいぞ! 貴様は僕を馬鹿にしているのか!』

「いやあのそのようなつもりはまったく!」

「アラン、もういいのでは?」

 

 カチュアがつんつんとアランの肩をたたいた。おそらく宰相ゼルベルグの情報収集のために見守っていたのだろうが、もうそろそろ動いてもよいタイミングだ。

 あとレイストールがあまりに気の毒だ。

 

「そうだな、とりあえずコレか」

 

 アランはスコップを握って神速の一振り。

 ブゥン。宰相ゼルベルグの映像がそれでかき消えた。スコップで空間を『埋めて』通信を塞いだのである。敵にスコップの情報を与えたくはない。が、音声だけは別回路のようでゼルベルグの声が響く。

 

『レイストール! 今度は映像も途絶えたぞ! どうなっているのだ!』

「は!? いやあのですねっ!? ええい、一体何が起きているのだ!?」

 

 悲しい中間管理職のレイストールを見てカチュアは思った。

 何が起きているのか――私の方が知りたいぞ、それは。

 そのとき、ズゴゴゴゴと塔全体が揺れ始めた。

 壁が哭いている。

 長く鋭い線が走ると、ピシピシピシっと瞬時に広がる。

 

「この塔は、邪魔だ。破壊しておこう」

 

 ガラガラガラドスンドスン。黒鉄の塔が崩壊してゆく。

 アランが先ほど空間を埋めた際に、ついでに崩壊させたようだ。

 

『レイストール! なんだこの崩落音は! 何が起きている、答えろ!』

「ゼルベルグ。私が教えてあげましょう」

『リティシア姫――何を――?』

「この塔で……いえ、この世界で今まさに起きていること。それはまさに」

 

 リティシアは赤いスコップを天高く掲げると、にっこりと笑って。

 

 

「『スコップ神話』なのですよ」

 

 

 カチュアは先ほどのゼルベルグの言葉を思い出した。

 姫の声にノイズが混じっていると。

 それは間違いである。

 混じっているとか、そんな次元の問題ではない。

 きゃっきゃっと目をスコップ状に輝かせながらアランに近寄るリティシア。

 

「ね、そうですよね、鉱夫さまっ!!」

「俺に振るな」

 

 ――リティシア姫と、この鉱夫の存在そのものが、世界のノイズだ。

今回はラスボス(当面の)登場回です。イメージはCVこやすこ(暴言)。サブタイトルは「信じて逃した第三王女がスコップにドハマリしてスコップをすこすこするなんて……ほんとすこ」と迷いましたがこちらにしました。すこっぷすこっぷ!(訳:もうどうにでもなれ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ