第20話 ユリアのあつかんスコップ
ちゃぷーん。かぽーん。
とりあえずタオルでなんとかユリアのゆわわ胸を隠させた。
それでもサイズに対してぜんぜん布地が足りてないので、頂点のふくらみ以外の丸いラインはほとんど見えてしまっている。たわわユリアにお湯がたらりと伝うさまは、アランの心拍数を早める効果しかなかった。
で、二人で肩を並べて温泉に入る。
白く濁ったお湯でなんとかユリアの豊満な体が隠せるからだ。
「すみません、失礼いたしました、ほ、本当に突然で……」
ユリアが視線を合わせず、真っ赤に染まった表情。
「ただ……ど、どうしてもアラン様が旅立つ前に、お礼をさせていただきたく」
「『スコップの儀』が礼になるのか……?」
「アラン様への一番のお礼になると、リティシア様にお教えいただきました」
やはりあの恐怖スコップ姫の差し金らしい。
「礼などいらん。俺はできることをやっただけだ。別に気にするな」
アランの言葉に、しかしユリアは反応しない。
水色の髪がお湯にゆらりと流されてアランの肌をくすぐる。
やがてユリアは、ぽつりと。
「アラン様は……ご自分は神ではないと、仰りました……」
「ああ。ユリアと同じ人間だ」
「でも……私にはやっぱり、私の命とラハル族の運命を、何の代償もなくあっさり救ってしまったアラン様のことを……神様としか、思うことができなくて」
「……ふむ」
「た、ただアラン様は、同じ人間と思ってほしいとのことなので……だからっ!」
そこで意を決したようにユリアは振り向いた。
ぷるるるんぴちゃん。タオルに包まれたたわわが揺れる。
真剣そのものの口調で、ユリアは膝立ちになって続ける。
「せめて、私を救っていただいた報酬を……普通の冒険者のように要求いただければ……アラン様のことを、私ごときと同じ人間なのだと……思えるのでは、ないかとっ!」
数秒の沈黙が流れた。
「……ユリア」
「はいっ!」
「とりあえず身体を湯に沈めよう」
「えっ」
上半身が完全に湯から出ていたので、くびれから胸のラインが露出していた。ただでさえ頼りないタオルがほとんど取れかけていて、ぷるるるるるんと揺れていた。ぴちゃんぴちゃんと谷間から湯がたれていた。
「ひやっ!」
ちゃぽん!
気づいたユリアは慌てて身体全体を温泉に沈めてしまった。
やはり彼女も、恥ずかしいものは、恥ずかしいらしい。
「し、し、失礼致しました……っ!」
とりあえず経緯は理解できた。要するに、アランにどうしてもお礼がしたいのだ。それが男湯に裸で入っての『スコップの儀』になってしまったのは、リティシアの精神汚染の影響だろう。
ならば断るより気の済むまでやらせた方が良いかもしれない。
「それで『スコップの儀』とはいったいなんだ?」
ユリアはこくんとうなずくと、頬をピンク色に染めて。
「アラン様の……す、すべてのご要求を受け入れる……儀式です……」
かぽーん。まぬけな温泉音が響いている。
なんだその儀式。要するにアランへの丸投げではないか。
アランはユリアを見た。
温泉に沈んだシルエットが見える。ラインがすごい。スラリと伸びた腕につたうお湯は彼女の肌の白さをひときわ引き立てていて、さわるときっと、極上の感触がするのだろうと思わせてくれる。
などという一瞬湧いた感情を、アランは全力で振り払った。
「(それは、人として、いかん)」
助けた礼に身体を要求するなど、鉱夫にあるまじき発想である。
かといって中途半端なものではユリアも納得しないだろう。
アランはしばらく真剣に考えてから――。
「では、ユリアに酒でも酌してもらおうか」
「……えっ」
「ユリアのような美人に温泉で酒を注いでもらうのは、十分な報酬だ」
ユリアはしばらくぼうっとした様子でアランを見つめた。
やがて、背後に置いたスコップをギュッと握りしめ決意の表情。
「わ、わかりましたっ! お酒を出す準備をしてまいります!」
「ああ、頼む」
これでユリアも満足してくれるだろう。
そう思った5分後。
巫女服を着たユリアが温泉に現れた。そのままちゃぷんと温泉につかる。アランの目の前にまで歩いてきて、そこで止まる。その目はどこかポワンととろけていて、まるで酔っているかのようだ。
あとなぜか、酒瓶は持ってきていない。
持つのは指三本程度のサイズの水色スコップだけ。
「……おい?」
「お、お酒を……ユリアのお酒を、ただいまお出しします……っ」
そしてユリアは舞い始めた。温泉の中で。
ちゃぷんちゃぷんと、おしりのあたりで水面が揺れている。もちろん湯に濡れ濡れの服はどんどんと透けてゆく。肌色のぷっくり丸みが見えてしまう。ユリアの舞いは、いつもより溶けるような甘さがあった。
たゆゆゆゆん。舞の途中、ユリアの胸が激しく上下する。
たゆん、ぷるん、ぷるるるるん。
「はう、あうぅ……っ」
揺れる胸を自覚しているらしく、羞恥に高い声をあげるユリア。
それでもユリアは、何かに突き動かされるように、舞い続ける。
ちゃぷん、ちゃぷんと、下半身にお湯をつからせながら。
――俺はいったい、なにを見せられているのだ。
アラんが思ったそのとき、変化が起きた。
「そ……そろ、そろ……っ」
ユリアの上に、やがて、水色に輝く液体がパアッと湧いたのだ。まるで天上から落ちる雨の雫のように、ぽたりぽたりと、ユリアに落ちていく。ユリアはぷにゅっと、自らの両胸を抱くようにして、その水色の液体を受け止めた。
やがて水たまりが、豊満なたわわ胸の上にできた。
「ご……ご、ご用意……いたし、まし、た……」
「……………………………………………何を?」
「ゆ、ゆっ……!」
ユリアは視線をそらしつつ、胸の谷間の水たまりをアランに差し出し。
「『ユリアのお酒』……ですっ……!」
「……………………」
アランは思った。
――何がどうして、こうなった。
「お酒の素を飲んで『水呼びの儀』を行えば……『酒呼びの儀』となります」
「俺は」
普通に酌をしてくれ、と言ったのだが。
しかし今さら遅い。既にユリアの谷間はお酒でいっぱいである。たぶんユリア自身も酔っているのだろう、目がトロトロとしている。羞恥は最高潮に極まっているようで、全身をか細くプルプルと震わせている。
「どうか……どうか、お飲み、くださいますか……っ!」
極度の緊張の声を発するユリア。断ったら絶望のあまり自害しかねない。
「……だが、飲むにもコップがないぞ」
まさかユリアの胸に直接口をつけて吸うような破廉恥な真似はできない。
するとユリアは、不思議そうに首を傾げて。
「で、でもそれはその……スコップが、ありますよね?」
「は?」
ユリアは水色のスコップを視線で指し示して。
「ロスティールでは、スコップでお酒をすくって飲むのがお作法とお聞きしました」
「誰に」
「リティシア様です」
聞くまでもなかった。スコップ汚染が本当にひどい。
ユリアはそこでぎゅうううっと、胸の圧迫を強めた。たらーりと水色の液体がユリアの谷間からこぼれて、丸いラインを伝って温泉にぽちゃり、ぽちゃりと落ちる。あたかもアランを誘うように。
もはや飲むしかないようだ。
たぶん今さら断ったら、ユリアは羞恥のあまり自害する。
アランは覚悟を決めスコップを手に取ると――ぴちゃり。
「んっ……!」
ユリアの柔肌に振れないように慎重にスコップですくう。
それでもどうしても、ほんの少しは、ふよん、ふにょん。
触れてしまうのである。
そのたびにユリアが『ひゃう』『ふあぅ』と悩ましい声をあげる。温泉で、ほぼ全裸の巫女のたわわ胸にたまったお酒を、スコップで掘る。俺はいったい何をしている。そんな疑念を必死で打ち消しながら、アランはようやく酒をすくう。
勢いのまま、酒をスコップで飲んだ。
ずじゅすこー。すこすこ。ごくごく。
「あ……あぁう……」
熱い。ユリアの心の熱だ。芳醇な香りがした。ユリアの心そのものだ。
味は、透き通るような清楚そのもの。
喉を液体が通りぬけた時、心のなかまで洗われるかのような感覚を覚える。
これが、ユリアの酒か。
まるで完璧なまでに浄化された、天国の水を飲んでいるかのようだ。
「うまい」
アランが思わずつぶやくと、ユリアの目尻から涙がぽろりとこぼれた。
「あ……ああぁ……っ」
己の人生すべてが報われた――そんな喜びの声をユリアが発した。
「ありがとうございます……私、私……嬉しい、です……」
ユリアが喜んでいる。だからアランも喜ぶことにした。自分が巨乳巫女の胸の酒をスコップで飲んでいる事はさておき、とにかく、まあ、喜んでいるのだから、よかった。そう思い込むことにした。
「あの……ま、まだ、まだ、おかわりはありますので……」
「え」
ぴちゃり、ぴちゃり。
またユリアのメロンな谷間にお酒がたまっている。
タオルはもう取れかかっていて、その先端のとがりに引っかかる程度だ。
「ど、どうぞ……お飲みくださいませ……っ!」
もう、どうにでもなれ。
アランはスコップを無言で伸ばした。酒のせいか、手つきがおぼつかない。豊満な胸にスコップ先端が触れる。ふにょんふにょんと、まるで指につつかれたようにへこむ。ぷにょ。ぷにょ。ぷにょぷにょぷにょぷにゅーん。
「ああ……はうぅ……アラン様……っ!」
ぎゅうっと胸を両腕で圧迫し、ただただアランのスコップを受け入れるユリア。
ふにょん、ふにょん、すくい、すこじゅるごくごくごくごく。
――この日ユリアは、水の巫女あらため、お酒の巫女となった。
△▼△
翌日、砂漠の旅路。
「鉱夫さま、ユリアさんのスコップ酒はいかがでしたかっ」
「頭が究極的に痛い」
「まあ、鉱夫さまですら二日酔いなさるほど、スコップおいしかったのですね!」
もう好きにしろ。そんな気分になっていた。
実際、美味は美味だったし、あの後5回もおかわりした。それに効果もあった。旅立つときのユリアは、アランには崇拝の視線を向けなくなっていたのだ。ただ、酒を飲んだときのようにトロンとした視線になっていたが。
で、アランと視線を合わせると、顔を手で覆うと。
『ああああぁぁ……私、私、とんでもないことをっ!』
などと羞恥でしゃがみこんでいた。
まあ――多分、時間が解決してくれるだろう。
「で、次の目的地は、氷の国だったか?」
「そうだ。我が国とは国交がほとんどないが」
カチュアが解説する。サバロニアの北東には山脈がそびえており、その向こう側に常に大地が氷に包まれる氷の国がある。サバロニアとは隣国で、何度も領土を奪い合う犬猿の仲であるという。
「極地のスノーマウンテンに『シルバーオーブ』があるそうだ」
「今度は雪山というわけだな」
アランはスコップを肩に構えると遠くにそびえる雪の山脈を見据えた。
そして宣言する。
「雪山はまさに、スコップの得意とする戦場だ」
今回はいつにもましてスコップだったと思います。脳内100万人のぼくに『水の巫女にしてほしいことアンケート』を取ったらぶっちぎり1位は『熱燗スコップ』でしたのでこうなりました。むしろ自然の摂理といえると思います。もうなんだこれ。
次回からは雪の国編です。ゆきおんなー。ひえひえ美少女大好きです。冷奴食べたい(唐突)。




