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第19話 鉱夫、伝説のドラゴンを打ち砕く

今回で砂漠の国編(第1部)完です。活動報告でお礼を書いたのでよろしければご覧ください。

 アランが空を駆けていた。文字通りの意味で。

 

「おおおおおおおおおおおおっ!」

 

 青白い極光のフィールドが、アランのスコップから球状に展開。フィールドに包まれたアランが空高くを飛ぶ巨大な赤き竜めがけて、斜め上に走っている。そこに『足場』などという概念は存在しない。

 文字通り、空を、走っている。

 

「できるとは聞いていたが……実際目にすると……もう……」

 

 地上のカチュアが、見上げながらつぶやいた。

 実際に目にしてみると、異常な光景としか言いようがない。

 スコップを持つ男が謎のフィールドを展開しながら空を走っているのだ。

 

「スコップですから。空ぐらい、飛びます」

 

 リティシアがキラキラと目を輝かせながら断言した。それにユリアが反応する。

 

「私は……スコップは地下を掘り進む道具だと思っておりました……」

「ユリアさん、確かにそのとおりです。しかし、逆もまたしかりです」

「逆?」

「地下を掘り進めるということは、逆に、空も飛べるということです」

「え……え、え、えええ?」

 

 ユリアの頭上に大量のはてなマークが浮かんだ(気がした)。

 

「そ、そ、そういうものなのですか……?」

「そういうスコップなのです!」

「な、なるほど……」

『だまされとるなー』

 

 いや明らかに理屈が強引すぎます姫殿下(カチュア心のツッコミ)。

 しかし現にアランは飛んでいるのだ。だから反論できない。

 本当にスコップ一本で、空を飛んでしまうのだ、あの男は。

 

「……来たぞ」

 

 やがてアランはドラゴンと対峙する。

 ドラゴンの目がぎろりと強烈な視線を向けてくる。

 

『人間ごときが――余の統べる空に来た、だと?』

「空中戦ぐらいできなければ、鉱夫は務まらん」

 

 実際、地底でアランはしょっちゅう、空中戦を繰り広げていた。

 最上位のドラゴンやデーモンの中には、地面を原子分解して大空洞を作り上げるもの、アストラル体となって地中を透過し縦横無尽に飛ぶもの、あるいは一つの世界ともいえる異空間バトルフィールドを展開してくるものまでいた。

 飛行は宝石鉱夫の必須スキルなのである。

 

『貴様……ッ!』

 

 グオオオオウウウウウと、凶暴な唸り声を上げた。

 

『我らが大空を侵す不遜なる人間よ……死ぬがよい!』

「むっ」

 

 ドラゴンが首をもたげ、ひときわ大きな咆哮を一節、発した。

 竜言語による召喚魔法だ。

 空に次元の亀裂が走る。その裂け目から次々とドラゴンが飛来する。

 その数は二桁を超える。あっという間にアランは取り囲まれてしまった。

 

『蹴散らせ――我が下僕達よ』

 

 ドラゴンの群れがいっせいに口を開け、ゴオオウ!

 強烈な炎のブレスを吐きだした。上下左右、全方位からのブレスだ。

 

「Bury!(埋まれ!)」

 

 アランが叫んでスコップを一閃。

 次の瞬間、ズオオオ!

 全ての炎の息が、アランの周囲に展開された輝くシールドに吸い込まれた。空を『埋めて』ブレスを防ぐ壁、シールドを形成したのである。スコップ状のスコップシールド。ドラゴンの大軍相手には必須のスキルだ。

 地上で見上げていたリティシアが、突如カチュアに振り向く。

 

「カチュア。スコップ神殿騎士団長として、あれも習得してください!」

 

 笑顔で無茶を言うスコップ・プリンセス。

 

「すみません人間をやめないと絶対無理です」

「ではやめてください」

「    」←主君の命令に逆らえない騎士の鑑

 

 そうこうするうちにも空中戦は続く。

 ドラゴンの群れはいつのまにか拡散波動砲で殲滅したようだ。

 だが巨竜は無傷である。

 どうやらアランと同じようにシールドを展開しているようだ。

 

「鉱夫さまは、なぜ波動砲で決着をつけないのでしょう?」

「おそらく相手の実力を見極めているのでしょう」

 

 あの男は安全第一主義である。

 全力を出す前に、相手を観察して情報を得ようとしているのだ。

 

『不甲斐ないものどもめ……我が精鋭たる竜の血族よ、集結せよ!』

 

 と、ドラゴンが再び咆哮を発した。

 さきほどの咆哮よりも遥かに長く声も空に轟くほど。

 巨大な次元の亀裂がさらに開いてゆく。さきほどより遥かに長い。

 

「それは、面倒だ。させん」

『ッッッ!?』

 

 アランはスコップを片手で旗のように掲げた。

 直後、スコオオオオオオオオオプウウウウウウウウウ!

 鼓膜をつらぬかんばかりの巨大な咆哮が、ドラゴンの咆哮をかき消してゆく。

 開きかけた次元の亀裂が、一気に閉じていく。

 

「スコップが……吠えた……っ!」

 

 感動の涙を流すリティシア。呆然とするユリアとカチュアとアリス。

 とんでもない声だった。あのスコップは、まさか生きているのか?

 と、ハッとリティシアが顔を上げる。

 

「なるほど……なるほど! そういうことなのですね、鉱夫さま!」

 

 スコップが吠える現象について何か理解したようだった。

 

「リティシア姫殿下、(聞きたくないけど)どういうことなのですか?」

「ええ、カチュア。よくスコップして聞きなさい」

「スコップはしませんが聞きます」

 

 リティシアは自信満々に豊満な胸を張ると。

 

「スコップは『掘る』ものですね、カチュア」

「はあ、まあ、基本的にはそうですね、最近その概念が崩れてますが」

「そして」

 

 リティシアはビシっと1本指を立てる。

 まるで世界の真理を説明するかのような口調で。

 

 

「『ほる』と『ほえる』は、なんと! たった1文字違いなのです!」

 

 

 びゅおおおおおおおおおうう。

 砂漠の昼間なのに異様なまでに冷たい風が吹いた。

 それでもリティシアは気にせず、うっとり口調で解説を続ける。

 

「1文字程度の違い、鉱夫さまにとっては無いようなものなのです……!」

 

 カチュアは懸命に頭を巡らせて、何かを言おうとしてみた。

 が、何を言ってもどうせ無駄だと気付いて、やめた。

 

『……その理屈じゃと、スコップで『ほてる』も作れそうじゃの」

「いいですね! ホテルをあとでロスティールに作りましょう!」

『しまった』

 

 リティシアが解説を続けるうちにもアランはスコップを振るう。

 閃光のごときスコップが、ドラゴンの展開する輝くシールドを次々と打ち砕く。

 1枚、2枚、3枚。

 パリンパリンと割れる度にドラゴンが驚愕に目を見開く。

 

『馬鹿な、馬鹿な、こんな人間ごときに、余が!』

「竜よ。どうやら貴様は、地上しか知らぬのだな」

『なんだと!?』

 

 最後のシールドを叩き割って、アランはスコップを構えた。

 実力は既に見極めている。

 この赤いドラゴンは確かに強力だ。

 だが圧倒的に――アランよりも経験が不足している。

 

『オオオオオオオオオオアアアアアアアア!』

 

 ドラゴンが怒りの咆哮を発する。

 口に炎が集まっていく。必殺の炎のブレス。

 アランは回避しない。もはや必要ない。スコップ先端に青白いオーラがギュウンギュウンと収束させる。砂漠の大空のエネルギーが、ドラゴンの口と、アランのスコップ先端のふたつに収束していく。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアア!』

「Dig!」

 

 発射は同時だった。

 そしてアランの波動砲の方が、遥かに強かった。

 炎のブレスを圧倒する速度・勢い・光量でブレスを呑み込み、そのままドラゴンの巨体を突き抜けた。光は巨大な濁流となって、スコップから青空へと流れている。圧倒的なエネルギーの嵐だ。

 やがて光が止む。

 ドラゴンは既に消滅していた。

 

「……墓穴は、いらないようだな」

 

 アランはそこにふわりと浮かんだ赤いオーブを手に取る。

 そしてリティシア達の待つ、地上に戻ってきた。

 

「待たせたな」

「ああ……リティシアはいま感激しております!」

 

 うるるるっと涙ぐむリティシア。

 

「ぜ、ぜひ今の戦いを、教典に記さなければいけません!」

『今の戦いの、何をどのように記述しろというのじゃ……』

「スコップとだけ書いておけばいいんじゃないか?」

『なるほど』

 

 言い合うアリス達3人を置いて、アランはユリアに近寄る。

 

「伝承の……竜が……」

 

 ユリアはまだ呆然とドラゴンが消えたあたりを眺めていた。

 命を賭して封印するつもりだった伝説の災厄の竜。

 それが一瞬で、消えてしまった。スコップを持つ男が倒してしまった。

 

「……アラン、様」

「待たせた。約束通り、障害は打ち砕いてきたぞ」

 

 ユリアは大きな胸を抑えて必死で自分を落ち着かせようとしているようだ。

 すーはーと深呼吸をして、アランに信じがたいといった視線を向けてくる。

 

「アラン様……あなたは、あなたは……ああ……」

「うん?」

 

 許しを請うかのようにひざまずくユリア。

 

「私は……私ごときには、あなたを、神様としか表現できません……!」

「それは違うな」

 

 アランは首を横に振った。

 たしかにスコップにかけては自分が世界一だ。

 だが神のように世界を統べる力はないし、そうなるつもりもない。

 

「俺はアラン」

 

 だからアランは、しゃがみこんでユリアと視線を合わせ、宣言する。

 

 

「ただの、宝石鉱夫だ」

 

 

 砂漠に風が吹いた。あたたかな風だった。

 ユリアとアランは見つめ合って動かない。二人とも沈黙している。

 そんな中で、ぽんぽんと、アランの肩を誰かが叩いた。

 振り返るとカチュアだった。真剣な表情だった。

 

「アラン。私には言いたいことがある」

「なんだ?」

「あのな」

 

 カチュアは大きく大きく息を吸って、さらに息を吸った。

 言わねばならない。もういい加減、我慢の限界なのである。

 この男には自覚が足りなさ過ぎる。

 

 

「貴様のようなただの鉱夫がいてたまるかああああああああああ!!!」

 

 

 カチュアの叫びが、砂漠にむなしく響いた。


 

 △▼△

 

 

 夜になっていた。

 アランはひとり、温泉に入っていた。

 ドラゴンを倒したことをラハル族の族長に報告すると、むせび泣いて『どうか祭りを開くから一晩だけでも』と懇願されたのである。ついでに村に湧いた温泉に入っていってほしいとも。

 

『あとで観光資源にするつもりでしょう』

 

 と、リティシアが語っていた。ちなみに温泉はユリアの水呼びパワーが強力すぎて湧いたらしい。

 なお、当のユリアは帰路の途中ずっと、アランをぼうっと見上げていた。心ここにあらずといった、まるで酔っているような表情だった。きっと長年の苦労が報われて安心したのだろう。

 アランはそう結論づけた。

 

「これでオーブが3つ……あと4つだな」

 

 とりあえず順調に集まってはいる。

 が、炎のオーブを守るドラゴンは実力で言えば強敵だった。

 アレ以上の敵が出てきたらと考えると、気を引き締めなければ。

 

 ――などと考えていた、そのとき。

 

「し……し、し……失礼……いたします……っ」

「ん?」

 

 カラリと、木製のドアが横開きに開いた。

 アランが振り返った。そして目を見開いた。水色の髪、夜なのに輝くほど白い肌。ユリアだ。しかしアランが驚いたのはそこではなく――普段のヒラヒラの巫女服を、どこかに脱ぎ捨てたかのように――何も、まとっていない。

 裸である。

 豊満なたわわわわな胸は手で隠してはいるが。

 ぜんぜん、まったく、隠しきれていない。

 太もものあたりは湯気で隠れている。

 が、それでもすらりと伸びた女性のライン。

 男なら誰でも卒倒しそうな、悩殺的な体だった。

 そのことに本人も気付いているらしく顔は羞恥の色に染め上がっている。

 

「ちょ……ユリア、こっちは男湯だぞ!?」

「ぞ……ぞ、ぞ、存じて、存じて……おります……っ」

「存じて!?」

「あの、あの、私、私その……あの、た、大変失礼ながらっ! み、巫女としてですね!」

 

 そのときユリアがぐっと何かをつかんだ。

 水色の金属の、見慣れた物体。スコップである。

 ユリアが叫ぶように言った。

 

 

「す……す、す……『スコップの儀』をさせていただきたく……っ!」

 

 

 ホカホカの湯気が流れて行く。

 アランの脳裏には一人のプリンセスのさわやか笑顔が浮かんでいる。

 やがて、アランは心底後悔した。

 

 

 ――リティシアのスコップ活動を、さっさと止めさせるべきだった。

水巫女ユリアちゃんの『スコップの儀』に参加希望の方は↓スクロールして評価を入れた上で感想欄に「みこみこ温泉ほんとすこ」と……お待ちをスコップ天帝。ぼくは第1部完結記念に反応をせびるべく地獄の底の地下牢をプリズンブレイク脱走しただけなので推定無罪です。決して巫女さんのいけない温泉スコップ儀式で読者様を釣ろうとしたわけでは(このへんで地獄に送り返された

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[良い点]  みこみこ温泉ほんとすこ! [一言]  すこっぷっ☆ すこっぷっ☆
[良い点] みこみこ温泉ほんとすこ [気になる点] スコップないでスコップ! [一言] ユリアちゃんスコップすこでスコップ!
[良い点] みこみこ温泉ほんとすこ
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