表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д゜ ;;) .:∴ドゴォォ  作者: ZAP
第1章 旅立ちのスコップ(リティシアすこ)
2/77

第1話 鉱夫、王女を救う

 アランはその日久しぶりに山を降りて王都に行く予定だった。

 久しぶりとは、具体的には200年ぶりだ。

 

「俺のことなど、誰も覚えておるまい……いや生きてもいないか」

 

 地底深くに新たな巨大宝石鉱脈を発見し、夢中になって掘っていた。食料も飲み物も現地調達で200年ほど。王都の人間は自分など忘れているだろう。前回に売却相手となった魔術師ギルドも代替わりか、そもそも消えているかもしれない。

 

 が、国があるなら、高品質な宝石の需要はあるはず。

 そんなことを考えながら山道を下りはじめたところ。

 

 

「きゃああああああああああっ!」

 

 

 女性の悲鳴が、行く手からあがった。

 

「むっ。だれか、襲われているのか!?」

 

 アランは愛用のスコップを構えて駆け出した。

 スコップに意識を集中する。すると先端が細かく震える。だ。5人が、すぐ近くにいる。男が4人、女が1人だ。《掘削探知》(スコップ・センス)による能力だ。スコップは工夫すれば気配探知に使えると知ったのは300年前だった。

 

 窮地の女性。

 必ず助けなければならない。

 父から1000年前に、そのように教え込まれた。

 そして『あわよくば手篭めにして後継者を』とも言っていたが今はどうでもいい。

 

「大丈夫かっ!?」

 

 道の中央に、壊れた馬車があった。

 馬は死んでいる。御者もだ。頭に矢が刺さっていた。だから襲ったのはモンスターではない。四人ほどの無骨な男が、馬車を囲んでいる。そして最も体格の良い男が、ブロンド髪に白いドレス姿の少女を捕まえている。首に剣を向けていた。

 

「はは、やあああっと見つけたぜ! 賞金100万金貨のお姫様さまよ!」

「やっ……いや、だめです、さわらないでくださいっ!」

「あんたも不幸だよなー、同情するぜ。でもオレ達も生活があるんでな?」

 

 少女が山賊に襲われている。

 それだけわかれば、アランには十分だった。

 

「やめろ! そこまでだ!」

「あ?」

 

 山賊達の前に仁王立ちするアラン。

 親分の男は一瞬警戒の色を見せた。

 が、アランのスコップを見るや。

 

「なんだ、鉱夫か? まさか100万金貨を横取りするつもりか?」

「金貨などいらぬ。その女の子を放すのだ」

「は?」

「さもなくば我がスコップの切っ先が、貴様の命を堀抜くぞ」

 

 男は一瞬止まった。直後、周囲から爆笑があがる。

 

「うわはははは、親分はむかし、聖騎士だったんだぜ!」

「『我がスコップ』とか初めて聞いた! かっけー、最高のジョークだ!」

「おっさん。悪いことは言わねえ、死にたくなけりゃ黙って穴に帰りな」


 どうやら誰も引く気はないようだ。

 アランはため息をつき、スコップの先端を親分に向けた。

 

「(人相手は――初めてだが)」

 

 岩と鉄が相手なら、百億回と掘ってきた。

 

 アランは意識を『掘る』ことに集中する。

 スコップで重要なのは、先端への集中だ。切っ先がすべてを貫くイメージを浮かべる。ねらいは男の持つロングソード。地底奥深くに眠っていた魔界鉱物に比べれば、鋼鉄などバターに等しい。

 

「はん。痛い目見たいようだな……っと!」

 

 男が剣を振りかぶり、一瞬で下ろした。

 達人、であった。

 凄まじく、速い。

 子分たちの言う元聖騎士とは、ハッタリではないようだ。

 剣の軌跡は正確に急所を狙っていて、そして、速い。

 

 

 だがスコップの先端ほど鋭くはない。

 

 

「Dig!(掘れ)」

 

 

 ジュワアアアアアアアッ!

 

 剣が蒸発した。

 スコップから放たれた青く輝く鋭い光線が剣を直撃したのだ。

 剣を失った攻撃は素振りになり、親分はトトっと体制を崩した。

 

 

「…………………………は?」

 

 

 沈黙の時間が流れる。

 次いで、周囲の男たちがどよめきはじめる。

 

「親分、なに遊んでんすかー?」

「あれかな、剣などいらんという手加減アピールかな?」

 

 子分は誰も今のアランの技を理解できていないようだ。

 親分は違うだろうが、素手の自分を見て呆然としたままだ。

 

「動かないぞ親分」

「もしや剣を捨てたのは『俺に手間かけさせんな子分ども働け』の意味では?」

「なるほど! おまえ頭いいぞ!」

「よっしゃ働くぞ! みんなやるぞ! おーりゃあ!」

 

 どうやらアランに襲いかかることで意見が一致したようだ。

 そのとき、じっとしていたドレス姿の少女が、声を発した。

 

「あの! 逃げて、逃げてくださいっ!」

 

 長い髪を揺らめかし、必死の様子だった。

 

「わ、わたしのことは気にせず、逃げて! そんなスコップでは戦えません!」

 

 アランは笑った。

 

「優しく、強い子だ」

 

 嬉しかった。

 見れば少女は幼い。顔つきからして15か16か。体は恐怖でブルブルと震えている。命の危機だ、怖いにきまっている。

 なのに己の命より、鉱夫ごときを心配しているのだ。

 そんな少女が200年ぶりの地上にもいることが嬉しかった。

 

 すぐにでも安心させたいと思った。

 自分はこの山賊達より強いと、知らせなければならない。

 

 

 だから、全力を出す。

 

 

充填チャージ――スタート」

 

 全力は500年前、王都に襲来したドラゴンを打ち払ったとき以来だ。

 

 アランはスコップの尖った先端に意識を集中する。

 金属部に青く光るエネルギーが集まってきた。

 1000年間、宝石を掘り続けたことで身につけた力だ。

 

「お、おい! おまえらひけ! ひけ! こいつ只者じゃない――」

 

 親分だけは異変に気づいたようだ。

 だが遅い。

 エネルギーのうねりがスコップの先端に収束し太陽のごとく輝く。スコップの先端が宝石のきらめきを発した。地底3000メートル、地底デーモン帝国の城塞をも貫いた最強のスコップスキル。空気が波打つ。

 充填完了。

 姿勢よし。

 目標よし。

 

 

 ――発射。

 

 

「轟けっ!」

 

 

 ズオオオオオオオオオオオウウウウウウウウウウウウウ!

 

 

 エネルギーの爆流が、天と地の間を貫いた。

 荒れ狂う海原のごとくスコップの金属部が《波》打ち、エネルギーの束が先端から《動》いて、《砲》撃のごとくすべてを打ち砕く。だからアランは、これに《波動砲》と名付けた。

 青と白の光がうねり狂い、途中のすべてを巻き込んで蒸発させていく。

 その軌道は、山賊子分たちのちょうど頭上だ。

 エネルギーの奔流が、空を貫き、天を焦がしていく。

 それが、十数秒も続いた。

 

 やがて。

 

「まずい……」

 

 ビームの嵐が収まったとき、アランは苦渋に歯を噛み締めた。

 視線の先には山がある。宝石鉱山のひとつだ。緑豊かな山だった。

 過去形である。

 なぜなら――

 

 

「山ごと、掘ってしまった……」

 

 

 山頂近くにとんでもなく大きな穴がぽっかりと貫通していた。

 もうひとつ向こうの山肌まで見えている。

 

 なんてことだ。

 

 完全に自然破壊だ。

 全力は久しぶりで、やりすぎてしまった。

 アランは深く後悔した。

 

 

「「「「うおおおおおおわああああああ!!!???」」」」

 

 

 叫び声に振り返る。

 山賊の親分と子分、全員のアゴが外れていた。

 ドレス姿の少女もアランを見て、ぱくぱくと口を開けている。

 

「え……ええ……えええええ……?」

 

 少女もまた驚いていた。

 山にぽっかり空いた穴とアランのスコップとを交互に見る。

 自分は夢を見ているのではないか、とでも言いたげだった。

 親分の手を離れ、フラフラと体がよろける。

 

「む、す、すまん!」

 

 アランは慌てて少女を抱きとめると。

 

「《スコップ波動砲》の衝撃が来たのか……すまない、やりすぎた」

「すこっぷはどうほう!?」

 

 少女は大声で驚いた。

 

「待ってくれ。すぐに《スコッピング・ヒーリング》で癒やすから」

「すこっぴんぐひーりんぐ!?」

 

 少女はもはや気絶しそうだった。

 

 

 

 これが、後に伝説となる、鉱夫と王女の出会いであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ