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第14話 アリスのなでなでスコップ

 エルフ城、砂漠の国への旅立ち前。

 深夜になろうかというときアランの部屋にコンコンとノック音が響いた。

 開けると現れたのは、相変わらず服をまったく着ていないアリスだった。

 月夜に銀髪が美しく輝いている。

 

『こ……こんばんは、なのじゃ……』

 

 アランの全身に瞬時に緊張が走った。強烈なデジャヴを覚えていた。

 これはまさか――リティシアの差し金ではないか。

 

「スコップに来たのか」

『へえっ!? お、おおお主もわらわをスコップするのか!? するのか!?』

「……いや、望まれない限り、しないが」

『ほおおお……よ、よかったのじゃああぁぁぁ……』

 

 よほど安心したらしく膝からへなへなと崩れ落ちるアリス。

 

『どうか聞いてくれ。わらわは一人で寝ようとしたのじゃ』

「ああ」

『そしたらリティシアがスコップを持って『えへへー』と笑いながら部屋に来た!』

 

 恐怖スコップ体験。

 

『たのむかくまってくれ。お主の部屋であればアレも手を出せぬ!』

 

 がくがくぶるぶると土下座で懇願する。不死の王すら恐れるスコップ王女だった。ともあれアランとて異存はない。アリスの感覚はだいぶ戻っていて急ぐ必要はないし、それに何より幼女の頼みを断れようか?

 そんなわけでこくりと頷くとアリスは飛び上がって喜んだ。

 むしろ泣いてる。どばどば涙。

 

『ありがとう……おお、ありがとう……わらわは救われた……っ!』

 

 昨日太陽のあたたかさを感じたときより嬉しそうだった。

 

「しかし俺か……カチュアでは駄目なのか?」

『あの騎士は王女の下僕じゃろう。それに側におるとなにか、身体がこう、シュワーっと蒸発していくような……そんな感じがして、怖いのじゃ』

「ああ『聖騎士のスコップ』の力だな」

 

 アランが聖掘削力セイントスコッピングパワーを込めた、カチュア専用のスコップだ。あれには安全第一ヘルメットのように、持ち主に徐々に聖掘削力セイントスコッピングパワーを与えていく力がある。なお本人には言ってない。

 アンデッドのアリスとしては近寄りたくない存在だろう。

 

「じゃあまあ、寝るか」

 

 そんなわけでアリスにベッドを貸してアランは床で寝た。

 

『えっ』

 

 ふとんをかぶったアリスが意外そうに首をひねる。

 

「どうした?」

『い、いや……その……うむ、いや、なんでもない。ない。のじゃ』

 

 まったくなんでもなくない。チラチラチラっとアランを見る。

 見ればアリスの体は不自然にベッドの片側に寄っている。

 アランは少しだけ考えてから。

 

「……添い寝するか」

『っっっっっっ!?』

 

 すごいわかりやすい反応。

 

『わ、わ、わらわは不死の王ぞ! べべ別に人肌が恋しいなどとは!』

「いいから寝るぞ」

『ひゃう!? ぼ、朴念仁とカチュアが言っとったのにー!』

 

 アランは年寄りである。そう自覚している。

 ぬくもりがほしい幼女なら、老齢の自分に親の代わりを求めるのも無理はない。まさか恋人ということはないだろうが。年の差がありすぎる。だからフィオとリティシアもアランにとっては保護対象としか思っていない。

 ともあれアランはベッドに入ってアリスを胸の前に寝かせた。

 

『うー、ううう……っ』

 

 顔がめちゃくちゃ近い。照れのためかアリスの頬は真っ赤だ。

 その頭をゆっくりと撫でてやると、またいじっぱりの表情になる。

 

『わらわは……わらわは、こんな、子どもみたいな……はぅ……』

 

 でも気持ちよさそうな声。

 

「いいから甘えろ。俺からすればアリスは子どもだ」

『見かけだけじゃ。わらわは齢110歳、ヴェクナを継ぐ不死の王ぞ』

「俺は1024歳だが」

『……お主が言うと、無茶なホラすら本当に聞こえてくるわ……』

「本当だ」

『うー』

 

 その間もずっと頭をなで続ける。

 やがてまたアリスがチラチラとアランを見つめる。

 

「してほしいことがあるなら言え」

『う……い、いや……そんな……だ、抱きつく……などまったく考えては!』

「なるほど」

 

 アリスのアストラル体の背中に手を回す。ほんわか温かい。それをギュッと抱きしめて自らの胸の中におしこめた。全裸の幼女にぬくもりをあたえるべく、背中をナデナデとする。

 

『ひゃううう……にゃ、ろ、ろりこん、犯罪じゃっ!』

「110歳だから犯罪ではないな」

『うー、はうぅぅ』

 

 そう言いながらも抵抗らしい抵抗は見せないアリス。さすさすとさするたびに、アリスの頬がぽーっとピンクになっている。リティシアにスコップされて、熱感覚が敏感になっているのだろう。ピクピク震えている。

 でも気持ちよさそうだ。

 

『はううぅぅ……こんな……こんにゃぁ……』

 

 さすさすなでなでさすさすなでなで。

 ぴくぴくぴくぴくふるふるふるふる。

 全裸の銀髪アリスのきゃしゃな体がなでまわすたびにくねる。

 

『ふぅぅ……んん……っ』

 

 やがてアリスは、積極的に体をアランに押し付けてきた。太ももに足をからめてくる。もっとぬくもりがほしい。全身でそう言っているようだった。アランはそんな少女を抱きしめて、ただ撫で続けた。

 

『ん、ん、んっ……』

 

 なでなで、なでなで。

 なでなで、なでなで。

 白い肌をひたすら摩擦してやる。銀髪が優しく揺れる。

 

『あああぅぅ』

 

 もじもじと体を揺らしながら、幼女の柔肌をきゅっと押し付けてくる。

 もっとして。もっと。そんなふうに正直に、甘えてくるアリス。

 その背中をぎゅーっと抱きしめてやると。

 

『んぅぅ……』

 

 きもちよさそうに、トロンと瞳をとろけさせていくアリス。

 ぎゅうっとアランに抱きしめられたまま、徐々に眠りに落ちていく。

 最後にアリスは、うわごとのようにつぶやいた。

 

『……おとう……さま……』

 

 この少女も護らなければいけないとアランは強く感じた。

 と、一瞬後、ビクっとアリスが震えて。


『いや、すこっぷこわい……お耳すこすこ、き、きもちよくなんか……ない、のじゃあ……っ!』

 

 恐怖に震えつつも口元はにへへっと笑っている。

 

「…………そっちは……まあ、自分でなんとかしてもらおう」

 

 もう一度アリスの頭をなでてからアランも眠りについたのだった。

 

 

 △▼△

 

 

 

「ということが昨晩あった」

『なんで言ってしまうのじゃー!?』

 

 次の日は、晴天であった。

 フィオに見送られた後にアラン達4人は砂漠の国へ向かっていた。

 リティシアはアランの話を興味深そうに聞くと。

 

「なるほど、アリスちゃんも鉱夫さまにスコップ頂いたのですねっ」

 

 と、嫉妬などはなく、むしろ仲間が増えて嬉しいようだった。

 

『ちがう、添い寝だけじゃ! スコップの出番はなかった!』

「鉱夫さまのナデナデはすなわちスコップ。今度はわたしとも添い寝スコップしましょう」

『アラン、アラン! たのむ、このスコップ狂いをなんとかするのじゃ!』

「諦めろ」

 

 スコップにもできることとできないことがある。

 できないことの筆頭は、リティシアのスコップ信仰を変えることだ。

 

「アラン、もうすぐ砂漠の国『サバロニア』との国境だ」

「たしか国境封鎖されているのだったか」

「ああ。我が国との関係は悪い」

 

 カチュアが(アリスの懇願を無視して)解説する。

 サバロニアはロスティール東にある軍事大国だ。国土の大部分が砂漠だが、オアシスが肥沃な農業地帯となっており、軍隊の精強さは世界一。そのうえ現王は野心にあふれ領土を戦争で広げ続けており、ロスティールとも緊張状態にある。

 

 正面から国境の関所に行っても追い返されるのがオチだ。

 かといって忍び込もうにも関所のまわりは何もない砂漠。

 4人で歩けば絶対に見つかるだろう。

 

「ふむ」

 

 アランは少し考えてから言った。


「スコップで突破する方法を三つ思いついたぞ」

「聞きたくないが言ってくれ」

「ひとつ、砂漠の砂をすべてスコップで掘り出す。ふたつ、スコップで空を飛んで砂漠を通過する。みっつ、地上スコップ戦艦を建造し、関所を強引に突破する」

 

 カチュアは真顔のままストップしている。

 リティシアは『地上スコップ戦艦』のあたりで目をキラキラ輝かせた。

 

「私は真面目な話をしているのだが」

「俺も真面目な話をしているのだが」

 

 カチュアは深い深いため息をついた。

 

「……おまえ、空を飛べるのか?」

「スコップにまたがり採掘力スコッピングパワーを噴射することで推進力が得られるのだ。カチュアも姿勢制御の訓練をすればできるぞ」

『わらわの飛び方と少し違うのう』

「わたしも、リティシアも飛んでみたいです! ぜひ教えてください!」

「アラン、貴方は……貴方は本当にもう……なんというか……」

 

 カチュアは天を仰いだ。

 わかってはいたのだ。アランができると言ったなら、できる。

 スコップの力は、カチュアの想像をゆうゆうと飛び越えてゆくのだ。

 ――文字通りの意味で。

 

「だがこの三つの方法には少し問題がある」

「少しどころか問題しかないが、なんだ?」

「目立つ。サバロニアの敵意を買ってしまう」

 

 アランは地上最強の鉱夫である。

 だが軍事大国そのものを敵に回すのは避けたい。

 戦争となってしまうのは、不本意だった。

 

「ふむ、アランでも軍隊は怖いのだな……」

 

 ほっとしたようなカチュア。だがアランは首を横に振った。

 

「大国とはいえ俺一人で軍隊を殲滅することは可能だろう」

「可能なのか(遠い目)」

「さすがすぎます鉱夫さまスコップ!」

『わらわの不死の軍隊を5秒で殲滅した男じゃからの……』

「だが、それでは今後の宝石の取引相手が、いなくなってしまう」

 

 みな忘れているがアランは宝石鉱夫である。

 サバロニアは大国であり、魔術兵団も抱えている。つまり取引相手だ。

 そんな国を叩き潰してしまっては、商売に差し支えがある。


「では結論はどうする?」

「ここは穏健に、旅芸人に変装して関所を通過しよう」

「スコップ変装ですね。スコスコです。(訳:鉱夫さまのスコップ変装マジスコップです)」

「リティシアは少し黙っていろ」

「はい」

「変装か、普通だな……いや、うむ、そういうのでいいのだぞ、そういうので」

 

 カチュアがほっと胸をなでおろした、直後だ。

 

 

「よって、今から俺たちは旅のスコップ芸人一座ということにする」

 

 

 カチュアはまた天を仰いだ。涙と笑いがぽろぽろこぼれてきた。


 旅のスコップ芸人。

 ――変装じゃなくて、そのまんまじゃないか。

今回は砂漠の国に入る予定でしたが、全裸のじゃロリ幼女をベッドでふんわり抱いてナデナデぬくもりスコップしたいというぼくの……失礼、脳内読者(責任転嫁)の欲求を満たすことを優先したためここまでとなります。ぼくはわるくないしアストラル体だから犯罪じゃない!ばんじゃーい!(このあと射殺された)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  めちゃおもしろいです。なんというか、いやじゃない無双を久しぶりに見ました(笑) [一言]  訳が訳じゃないんですけど…(笑)  マジスコップです(洗脳済み)
[良い点] このごろwwwwwwあとがきの作者の処断のされ方がwwwwww 楽しみ♪♪になってきたwwwwww
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