プロローグ「地上最強の鉱夫」
アランのスコップの先端から最初にビームが出たのは、宝石を掘りはじめてちょうど100年目のことだった。
「なんと……スコップには、こういう使い道があったのか」
はじめての発見だった。
ただ『採掘』に集中し続けると、スコップは破壊光線を出せる。
そんな技術は、偉大な鉱夫であった父ですら身につけていなかった。
「試してみるか」
とりあえずそのあたりの適当な岩にビームを撃ってみた。ズガン。青い閃光がほとばしり、半径10センチほど深さの穴ができた。噂に聞く魔法と似たような軌道だった。《スコッパー・ボルト》と名付けた。
「なるほど……だが、宝石掘りには役立たんな、これは」
そんなわけでアランはまた宝石を掘る作業を再開した。
ビームのことはすぐ忘れた。
――アランはこの国で唯一の《宝石鉱夫》である。
魔石や魔法の装飾品の材料となる宝石を、100年のあいだずっと掘り続けた。鉱山は父から受け継いだ辺境にあり、鉱夫はアラン一人。数年に一度、王都の魔術師ギルドに降りては宝石を売り、生活用品を買い求める。
そんな世捨て人のような生活。
王都の者からは感謝と親しみを込めて《宝石掘りの翁》と呼ばれている。
「そろそろ後継者を、探さんとな」
鉱夫を100年続けたところでそう考えた。父が死んだのは150歳だ。ドワーフの血が入っているらしく代々長命な家系だが、寿命からは逃れられない。体の衰えを感じたら王都で後継者をスカウトしよう、そう思った。
ところが。
「……300歳に、なったが」
あれから200年。
体はまったく衰えない。
老いるどころか元気になっていく感覚すらある。
『《宝石掘りの翁》さま、去年よりお若く見えますね。ご健勝なによりです』
宝石を売りに街に降りるとそんなことを言われた。
どう考えてもおかしい。
ふと、ビームを出したときのことを思い出した。
老いを感じなくなったのは、あの時からだ。
そこでもう一度、ビームを出してみた。
ドシュオオオオウウウウウウズガァァァァアン!
「………………………………おお」
直径1メートルの極太ビームが岩を溶かし消滅させていた。
「なんと……」
その威力にしばし驚いたアランは、すぐに閃いた。
「すごい! これがあれば――もっと宝石を掘れるぞ!」
アランは根っからの宝石鉱夫であった。
地底に進めば高品質な宝石が埋まっているが、地盤も固くなる。岩をも溶かす極太ビームならば、さらに鉱山を広げられる。アランはそう考えた。
寿命の件もすぐに気にしなくなった。単に自分がたまたま運が良かったのだろう。
そして鉱夫生活に戻った。
アランは宝石を掘るのが、好きだった。
それ以来、スコップのビームは太くなるばかりだった。
300年目で、ビームを曲げられるようになった。400年目に、炎のビームと氷のビームの使い分けがわかった。500年目に、ビームの粒子を空中に固定し操作することで足場を作れるようになった。やがて掘り当てたデーモンの支配する地底帝国と一人で宝石戦争を繰り広げた。
そして。
1000年目に、事件が、起きた。
プロローグ・1話・2話を本日掲載し、それ以降はしばらく毎日投稿です。