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「夜見、大丈夫か?」
デブは心配そうにタンドリーチキンを差し出していた。
その様子を美命はジト目で見ていたが、首を横に振りそっと夜見に手を差し伸べていた。
「ほら? 立てる?」
「ありがとう……」
「あなたに素直に礼を言われると少し気持ち悪いですけどまあ、今回は多めに見てあげるわ」
夜見は少し恥ずかしそうに美命の手を取りゆっくりと立ち上がる。
「おい!! お前は一体何をしたんだ」
取り巻きの男が夜見に強く質問をした。その質問に夜見は答えることも無く背中を見せて洞窟へと歩こうとしていた。
「おい!! 聞いてるのか。おまえはどんな技を使ったんだ」
「魔王のチカラだよ」
美命がそっと口をだす。
「魔王……まさか、あの伝説の剣術……魔王の称号をもったあの逆巻家の孫とでも言うのか」
「察しが悪いわね……」
その言葉を聞いた途端その場にいた人々が皆体を硬直させ目を大きく開く。
「あの魔王の……確かに……五大家の名を持っているだけはあるな……」
ボソッと1人の女性が語る。
「まおう……か、」
影にひっそりと隠れている教師はそう呟き姿を消すのであった。
自由時間を与えられている夜見たち3人はその場を離れるように洞窟へと行き腰を下ろした。まだ鬼の気配というか、血の匂いが鼻につくが教室にいる分よりは、幾分かマシだと割り切り少し湿っている薪に火をつけた。
デブは冷えてしまったタンドリーチキンを木の棒にぶっ刺し温め直していた。
血の匂いがする火で炙ったら美味しくは無さそうだが、デブはそんなことを全く気にしていない様子だった。
しばらくすれば日が真上にあがり日光が洞窟の出口を力ずよく照らす。木々の枯れかけたこの森では木漏れ日なのどありはせず、ただひたすらに血の匂いだけが香る。
「このあと、どうするつもりなんだ?」
しらを切るようにデブが2人に問いかける。だが2人とも黙りを決め込み口を開こうとしない。
そんな中、デブが再度口を開く。
「この学校……色々とやばい様な気がしてならない。いや、そう感じているんじゃないか2人とも」
命美は、こほんと咳払いをし深いため息をつく。
「そんなこと、鬼殺しをやっている連中がここに集まるわけだしやばいわけないじゃない。それに私の横にいる女の子が1等やばいんじゃないの? なんせ、あの魔王の孫なわけだし。その辺をどう思ってるかこの子自体の気持ちとか知らないし」
「魔王って、なんのことなの?」
「え?」
「は?」
デブと美命は目を丸くして夜見の顔を見つめた。
「いやいや、魔王って……まさか何も聞いていないのか?」
「聞くも何も、そんな話とか聞いたことないし。ましてやそんなことに興味なんかない」
「はぁ……あなたはそうでも、周りにいる私たちは気にするしどうなのかなって多少は聞いてみたくなるものなのよ。…………それにしても何も聞いてないってそれほどまでにこの子に隠し通したかったのかしら? ご本人しかその事は分からないけど、きっと何か理由があるんでしょうね」
美命は頭を抱え、再度肩を落とした。
パキパキと燃ゆる焚き火は赤く熱を放出し洞窟内を少しだが温めている。4月の半ばだと言うのに肌寒いこの日にはちょうど良い温もりだと言えるだろう。
「それで、魔王って結局なんなの」
「まず、そこから説明しないとダメなのね……」
疲れた様子の美命は頭をゆっくり振りながら話してゆくのだった。




