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(๑>•̀๑)テヘペロ
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男は言葉を発さない。いや、それどころか顔の表情ひとつとして動かす気配が全くない。それほどまでに集中し自身の力の100%を引き出そうとしていた。
「それが貴様の抜刀剣というものか」
男はピクリとも動かない。刀の柄にそっと手を置き、ゆっくりと瞼を閉じる。
「一撃必殺……鴉」
黒い霧が現れたように見えた。その戦況を見たものは後に語る。
だが、その技を見た夜見は違った。
無数の斬撃が彼女の顎門、両腕、両脚、胴体を一撃で切断せんと迫りくる。
だが、夜見は焦らない。
この程度……師匠の技に比べたら赤子の様な物なのだから。
血の気の多い生徒と、言うには些か言葉足らずと言うのか……。
「遅い!!」
コンマ何秒とかの次元の斬撃に対し夜見はそれをさらに上回るスピードで全て弾き返すが相手の手数が想像よりも格段に多い。
見切りと言うにはだいぶお粗末な物ではあったが、経験則の様な物で受け流している様な物だ。
(早い……だけど、見えないわけじゃない)
少しづつ押されていく現状にデブと美命は、少し焦っていた。あの夜見が押されるほどの実力者なのだと。私たちよりもつよいあの夜見が速度と力で負けていると言う事実に2人は冷や汗を流す。
「夜見!! 負けるな!!」
デブの叫びは悲痛な物でもあったのにも関わらず周りの目からはやる気に満ち満ちている様にも伺える。
ソワソワと声が周りから聞こえる中、夜見は……。
「くそっ!! 負けるものか」
次第に押されて行く中で夜見は目を鋭くしてゆく。
(流れがかわった??)
美命は夜見の目が変わったことに気がついた。
そして、その均衡が崩れる瞬間が訪れた……。
『坂巻流剣術、居合……壱式、残光』
少し太くなる夜見の腕!!
「きえた!」
次の瞬間には、男の子が倒れている。
「かった!!!」
デブと美命は、手を取り合って喜んでいた。
「あ、汚ねぇ……背脂と手を繋いでしまった」
何故か少し項垂れている美命はさておき、夜見は片膝を付いていた。
ゼェゼェと荒い息をこぼしながらぺっと口から血を少し吐いていた。
両腕の筋を切られた男の子は空を見ながら悔し涙を流している。
「なぜ、俺は負けたんだ……」
虚ろな目でそう呟くのだった。




