09悪意の目覚め
やばい、夜見ちゃんが止まってくれない。
どうしよう〜私も意図しない方向へ進んでるよ〜。
09
明け方目を冷ました私が第一に感じたのは黒い感情でした。
煮えたぎる憎悪、強大なる悪意。
そして、鬼への復讐心だけでした。
この感情が私にとってとても大切なものだという事も、何となく感じます。
まるで、本来私が持っていた感情なのだと分かった。
それと同時に、過去の出来事も思い出した。
お父様は勇敢で勇ましくそして優しい方でした。
誰にでも平等に接し、困っている人を見ると、我先にと言わんばかりに駆け足で向かい救いの手を差し伸べていました。
その様子にお母様もクスクスと笑い、お父様と一緒にお互いに文句を言いつつ仲良く手助けをするのです。
そんな優しいお父様もあの日現れた絶鬼に殺されました。
忘れもしない、あの雨の日。
どんよりとした分厚い雲。
パラパラと降る小雨の雨。
そして、我が家に届いた一枚の茶封筒。
お母様は、その手紙を見て泣き崩れ、私はただその様子を棒立ちで見ることしかできませんでした。
お母様は、気の強い女性でした。
男気があり、何でも卒なくこなすハイパーウーマンでした。
お父様が死んでしまってからおよそひと月が経ちました。
お母様が泣いてから丁度ひと月。
それは訪れました。
あの時のお父様を殺した鬼が私達の目の前に現れました。
赤黒い肌、黄色い目、無造作に生える二本のツノ、茶色い胸毛。
乱雑に生えている歯からは人の血が付着ししている。
ものすごい腐臭が漂い、鼻を殺す。
鬼全体を赤黒い霧が覆い、黄色い目をチラつかせ、左右にゆっくり動く。
咄嗟にお母様が私の前に立ち鬼に背を向け怒声を込めた甲高い声をあげる。
「来るな!! あっちに行け。来ないでくれ。私の娘に手を出さないでくれ。食べるなら私だけでいい。だから、この子だ……け…………わ」
その言葉を言い残し、お母様は鬼の持つ斬馬刀に似た分厚い大剣で一刀両断された。
鬼はその血飛沫を見て笑い、お母様の死体を親指と中指でつまみ、頭上に放り投げた。
大きく口を開き下で待つ鬼はよだれを口から大量に垂らしている。
クルクルと空を舞いやがては落ちて来るお母様の死体。
鬼の口に入るのも一瞬のこと。
だけど、この一瞬一瞬が私にはゆっくりに見えた。
まるで全ての物がスローモーションになっているかの如く。
「夜見!! 逃げなさい」
お爺様の声がした。
近くで、いや、遠くで。
逃げる事など出来るのだろうか。
こんな大きな化け物から私は逃げられるのだろうか?
そんな事をスローモーションになっている世界で考える。
そしてついに、お母様の死体が鬼の口に触れた。
スパン……。
鋭い何かで肉を断ち切られる音が聞こえた。
鬼がお母様を切った時とは違う音。
あれは……。
母親を見ていた所から、幾分か首を下げる。
そして私は驚いた。
鬼の首が切られていた。
そして、先程まで中に浮いていたお母様は、お爺様の腕の中に。
その光景を目の当たりにし、止まっていた時間が元通りになった。
「よくも、私の愛娘と孫を傷つけて……許さん」
大きく目を開き、眼球は血走り、禍々しき剣からは畏怖を感じる。
「夜見、怪我はないか」
「いや、怖い。おじいさまが」
頬を引きつらせ、「私はお前を助けたのにその言い方は無くない?」みたいな顔をしています。
無視の方向で……。
夜見は母親を目の前で惨殺され、普通ならば恐怖に慄き悲鳴を上げ、暗闇にうずくまるのだがこの子はそのような事はしない。
肝が座ってるのか、それとも現実を受け入れられていないのか、はたまたただのバカなのか、分からないが今はとりあえずこの子だけは守らなくてはならない。
翁は心にそう誓うと、自身の顔を嫌う愛孫をお姫様抱っこし、自身のお寺へと連れ帰るのであった。
◇◇◇◇◇◇
それが私が今思い出した記憶と、思い出したくない記憶であった。
「そっか、鬼に殺されちゃてたんだ。私の両親。ハハッ、弱っちいな」
自らの両親を蔑み、嘲笑う。
丸で別人かの様になってしまった夜見はあぐらをかき、物思いに伏せる。
精神統一し、自身の中にある憎悪を一時的に抑え込む。
そうしなければ、私ではない。
「そろそろ行くか、修行。体も幾分軽くなったしな。ったく、あのお札強力すぎるだろ。感情を抑え込むなんてお札があるとも思えなかったしよ。まぁ、いい。さて、いっちょやるか」
勇ましく雄弁を語り、三日月状に口を釣り上げる。
襖を勢いよく開き、普段通りの生活を行う。
「夜見、目が覚めたのだな。気分はどうだ」
「はい、万全です。いつ如何なる敵をも屠れます」
「ん?どうしたのじゃ?」
首を傾げ、頭に?マークを浮かべているお爺様をよそ目に、瞬光と坂巻流剣術の会得に向けた修練を開始する。
ヤベーよ。
(語彙力の欠如)