08暗がりに映るその影を
年末年始楽しみ好きで書けなかった。
申し訳ない
キョトンとした顔でそいつは死んでいた。
困った目をし、何も言葉を発せずに死んでいった。
きっと自身が死んだ事にも気が付かずに地獄へと帰って行ったことだろう。
「我が孫に手を出すとは、万死に値する」
「………………」
もはや首を切られたそやつは、言葉を発するどころが意思表示すら難しいだろう。
ひと段落つき、夜見を見るといつもと様子が違う。
「夜見、どうしたのじゃ」
眼球を最大まで開き、血走らせ目鼻口から体液を流し、ピクピクと痙攣する。
「いや、……ギャアアアア!!!」
これは、いけない。
「夜見! 大丈夫か。しっかりしなさい」
頭を抱え込み、のたうちまわる夜見。
頭上からは鬼の血が降り注ぎ、夜見を血で染める。
「ウァァァァァアアアア!!!」
「このままでは、いけない。すまない夜見」
うずくまり、次第に暴れ出した夜見を捕まえ、首元に手刀を入れる。
ストン
口から泡を吹き、夜見は意識を失う。
「やはり、昔の事か。忘れさせていた記憶が蘇ってしまったのかも知れない。本当の事を教えなければならないのかも知れないな」
鬼の死体に火をつけ、処分する。
鬼の死体は人の体と同じような成分で出来ているため、メラメラと火柱を上げて燃ゆる。
そして鬼の首を持ち、頭上高く投げ剣を抜く。
目を瞑り一振り、剣を振るう。
一閃で粉々になった肉片は、本体の火に照らされチリと化し炭へと消えていった。
「腐れ外道どもが。許さない」
顔中にしわを寄せ、鬼の形相をした翁は誰にも見られる事なく、硬い決意を結ぶのであった。
◇◇◇◇◇◇
私が目を覚ましたのはすっかり日が沈んでしまった真夜中であった。
いてて、脳裏に浮かぶ黒い霧、そして大きな悪意。それらが脳から離れない。
けれど、なにがあったかは覚えてはいない。
それに何もしていないのに、目から涙が出て止まらない。
痛くも、痒くも、無いのに……。
声も無く泣く。
フクロウが鳴き、哀しげな夜を迎える。
ザワザワと草木が揺れ、星が瞬く。
「夜見大丈夫か」
襖を開けお爺様が顔を覗かせる。
暗い顔をしたお爺様は夜そのもののようだった。
「夜見……その、なんだ。何か思い出したのか?」
「……いえ、つい先ほどまでの記憶が無くて、すみません」
あの黒い霧は何だったのだろうか、怖くて恐ろしくてお爺様には言えなかった。
「いや、謝るような事では無い。私が気が付けなかったのが悪い」
「どうして謝るのですか?なにがあったのですか?」
お爺様は顔を外し、申し訳なさそうにする。
「お爺様?」
キョトンとした顔で、お爺様の顔を覗き込む。
「夜見よ。少しお前の両親の事を話そうと思う」
部屋の隅にあるロウソクに火を灯し、襖を閉めきる。
部屋の隅でロウソクがゆらりゆらりと揺れ、辺りを優しく照らす。
ロウソクの火に照らされお爺様の顔も火に写ります。
「まずはじめにお前の母と、父親は鬼に殺された。そして、その鬼は先程お前を襲った」
「……っ!」
分かってはいました。
時々夢に出てくるあの黒い影、そして私が最後に見たあの黒い霧。
そう、あれが鬼、だったのです……。
言葉も無く、ただ俯いているとお爺様はさらに続けます。
「お前の父親は、剣鬼だった。それは有能な剣鬼だった。だが、この街にたった一匹の鬼が地面から這い出て来た。そう、鬼神だ。あの時私も参戦していればお前の父親は死なずに済んだやもしれん。そして母親。我が愛娘はお前を襲おうとした鬼から我が娘を守る為にお前に覆いかぶさり、後ろから切られて死んだ。あの時のことを思うと、悔やんでも悔やみきれん」
奥歯を噛み締め、ギチギチと音を立てるお爺様の目には一粒の雫が。
「そして私は鬼神を殺し、お前をこの寺に連れてきた。いずれ来る災いの時のために」
ゴクリと唾を飲み、拳を握る。
「災いですか」
ゆっくりと頭を上下し、肯定を示す。
「私がお前を鍛えたのはこのためだ。憎き鬼どもを惨殺し、人の世に光をもたらす存在になって欲しくて。そしてやがては……くっ…………これはまだ早いか……。兎に角だ夜見、お前には強くなってもらわなきゃならないのだ。先程来た鬼は赤鬼。鬼の中でも最弱を誇る鬼だ。だが、人では敵わない敵でもある。あの時、私が来ていなければお前は死んでいた。間違いなく」
お爺様は裾から一枚の札を取り出す。
綺麗な紙に、赤い筆でよく分からない文字が書いてある。
「これは?」
「これは、封印の札じゃ。この札はレプリカじゃが、本物はお前の体の中に貼ってある。今からそれを剥がそうと思う」
服を脱ぐようお爺様が指示をする。
気恥ずかしいが、今はそんなことを言える状況ではない。
「夜見、少し痛いかもしれんが、暫しの我慢じゃ。耐えておくれ」
私の背中にシワシワで硬い手を当てる。
お爺様は私の背中の皮を一気に引き剥がす。
「アァァァアギャァァァァァ」
背中の皮を全て取り除かれ、筋肉がむき出しになる。
私のお気に入りの布団は血に染まり、二度と使えなくなった。
それでも尚、お爺様は皮膚を裂き、骨を砕き、心臓に貼ってあるお札を取り出そうとする。
「夜見、暫しの我慢じゃ。耐えるのじゃ」
私は意識を失い掛けるが、歯を食いしばり、何とか踏みとどまる。
そして、何かが吹っ切れたような気持ちになる。
後ろを振り返ると、身体中を血だらけにしたお爺様と、真っ白なお札があった。
「神印。暗がりを照らす陽の光よ。我が友を癒し、永久なる光を取り戻せ」
お爺様がそう言うと、痛みでどうにかなりそうだったのにもかかわらず先程までの痛みが嘘のように消えていった。
「一体何が」
困惑する私に、お爺様は一言仰られた。
「封印は解いた。これで、良かったのだろうか」
その言葉を聞き、私は再度眠りにつくのであった。
んー書けん。
何でだろう?