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02終着点

おっひさ〜

 02





 戦闘が開始され早十五分が経過した。


 先の呪詛による攻撃であらかた弱った鬼たちに滅鬼弾を乱射する師匠と、視覚外からの鋭い一撃で次々と鬼を屠って行く夜見の姿は異様ともいえる状況であった。


 総数百三十八いた鬼たちは今ではその半分以下まで数を減らされていた。リーダーである冠を被った武鬼は己が策の未熟さを悔やんだ。


 それなりに知性のあると自負していたばかりにこの様な結果を生み出してしまったと、今更ながら後悔をした。今までの様に美味しそうな丸々と太った人を喰らい続けて来た罰などでは無いかと頭を悩ませるが、それを打開しようと考える隙を夜見と師匠が与えるはずは…………ない。

 それは、鬼たちも分かっていた……何故なら自身も、自分たちがこの様にする場合も相手の思考時間を出来るだけ削ることを考えて立ち居振る舞いを考えて攻撃をしただろう……。その状況が今の自分たちの置かれている状況というのも理解していた。


 ……だがーー『撤退』の二文字は口が裂けても言えなかった。


 なぜか……それは自身が誇り高き『鬼』だからだ。

 人ごとに下等な生物、食べられるべき弱者に背を向け逃げるなど一生涯の恥。


 鬼の寿命はほぼ永遠に近い。その永遠に近い寿命の中でこのような失態で己が経歴に泥を塗りたくるなど死んでもできない。いや、寧ろ死んだ方が幾分かまだマシだった。


 考えている間も子分たちは反撃の『は』の字も与えないくらいにズタボロにされてゆく。

 血飛沫が顔にかかる。

 言葉を発せない部下の鬼たちが、鬼になったばかりの剣を握ることしか教えてもらっていない鬼たちが、うまい飯を分け合ったあの子分達が無残に、惨殺されて行く。


 ぼけっとしている間に声にならない悲鳴だけが聞こえるこの戦場で立ち止まることは即ち……死を意味する。



「ふぅ、疲れたな夜見……怪我はないか?」

「はぁ、はぁ……なんとか」


 銃口を冠のついた鬼に向ける。

 ピクリと鬼は一瞬体を強張らせる。


 そして……。

「ユルサヌ、オマエヲ、コロス、ナカマタチ、ノ、カタキ、ウツ」


 血管が膨れ上がり、筋肉は膨張する。

 充血した眼球は今にも飛び出しそうだ。


 手に握る大斧の柄はミシミシと音を立てる。

 無骨に言葉を発した冠を司る鬼は激怒した。



 全身から赤黒いオーラを発し何度も大斧を地面に叩きつける。

 そのたびに地面がひび割れちょっとした地響きを轟かせた。


「ガァ!!!!!!!!」


 つばを吐き捨てると同時にとてつもない声で吠えた。


「流石にこいつは強そうだな夜見……気を引きしめろよ。俺が気を引いく。その間に心臓と頭蓋骨を切りきざめ。そうすればどんな鬼でもくたばる」



「はい!」


 ショットガンを両手で持ち構える。


 銃口の先には冠の鬼。

 肩を揺するほどの荒い息、口からよだれを垂らす。


 ドバッン!


 引き金を引いた。


 十八発の聖水弾が散りばめられ冠を被った鬼へと肉迫する。



 鬼は斧を正面に構え弾をはじき返した。


「ま、流石に一発だと弾かれるわな……なら」



 赤い太陽が影を消す

 影牢の鳴き声

 投げ込まれた匙

 曲がった鉄格子

 呪詛32列連千蓮



 幾重にも展開された呪詛式の中心には銃口が。


 そして……


「これだけいっぺんにらんしゃすればその盾も壊せるんじゃないかな?」


 ドパッン。



 放たれたのは一発の銃弾……だが実際に鬼へと向かった弾丸の数は凡そ千五百発以上。


 そしてその全てが聖水弾である。


 この意味がわからないものはいないだろう。


 なんせ……目の前にはその現実が迫っているのだから。


 いくら一発一発の威力が弱かろうが、硬い物質であろうが幾重も削られればダメージのして残る。

 その意味がわからない鬼ではなかった。



「ガアーーー!!!!!!!!」


 斧を木の棒かと見間違えんほどにぐるぐると回す。


 金属の弾け飛ぶ金切り音とともに激しい閃光が鬼の眼前を覆った。


「夜見、いまだ!」

「……はい」


 小さな声でどこにいるか分からない夜見は刀を翻す。キラリと刀身は光らずボダボタと嬉しそうに血を吹き出す。


 喰えると……刀は喜びに満ちる。


「やぁぁぁああああ!!!」

 可愛らしい雄叫びとともにゆらりと視界が揺れる。




『坂巻流剣術……居合、神威!!』

 先程の雄叫びとは一線を成す落ち着いていて、それでいて覇気のこもった魂の叫びが鬼の耳に届いた。


 だが……冠を被った鬼はそれに反応できるほどの余裕は一切ない。



「オノレ!!!!」


 自身の死が間近に迫っているのではないか、そう鬼は感じ取る。だけどそれはもう遅い。いや、その声が聞こえたと同時にその場から退避……いや、その場からいなくならなければならなかった。



 気がついた時にはもう遅い……。


 自身の胸から突き出ているどす黒い色をした刀の先端を見てしまった。


「ナ、二……」


 鈍い痛みとカラダ全身をやけ尽くすようなひりつきが全身を一瞬にして駆け巡る。

『痛い』……そのような次元ではない。


『死』……の痛みだ。


 だが、鬼はこの程度では死なない……否、死ねないのだ。


 いくら胸を貫かれようと、心の臓を破壊されようともそれら単体では死ねないのだ。

 幾重にも積み重ねてきた戦闘において自身がその程度の攻撃で痛みを感じたことは今の一度……なかったはず。

 だが……。


「ウガァァァァァア!!!」


 それは固定概念を覆すほどの痛み。


 あらゆる感情を捨て生物本来の持つ危機管理に対する痛み。


『死』という概念そのものを体現しているものである。


(なんた、何なのだこれは……痛い、痛い痛い、痛い、痛い、痛い)


「死ねぇ!!!!」


 ヤイバは常に自身頭に向いている。

(マズイィ!!!)


 本能的に悟った……頭蓋骨を切断されるということを。



「お前は人を人々を殺しすぎた」


 ドスの効いた声で幼げな少女は呟くのだった。


 メリメリと骨の斬れる音が耳に響く。

 その間も激しい痛みが体を硬直させる。


「ガァァァァァァァア!!!」


 身動き一つ取れない、いや、取ることはできるのだろうだが、それも『目』だけだが……。


 下から迫り来る死は耐え難く、到底受け入れられるものではないが、本能的に悟ってしまったのだろう。

『自身は死ぬのだろう』という事を。


「うりゃぁぁぁあ!!」


 可愛らしい声とともに一気に駆け上がってくる刀の引力は止めどなく流れに逆らい鬼の頭蓋骨を粉砕し、玉砕し、命を奪った。



 それと同時に幾重にも重なる弾丸の雨が鬼の身体中に被弾する。


 ドスドスと鈍い音を出し黒い血を湧き上がる原水のように噴きださせる。



 その血を全身に被った夜見は呼吸一つ崩す事なく静かに刀を下ろした。




「はぁはぁ、やった……」


 そう呟き膝を折るのだった。




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