表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
71/96

69

 69


 弾丸が縦横無尽に飛び交う。


 火花が散り、花々を燃やし尽くした。


 黒くなった美穂の死体は散りばめられた火花で明るく燃えた。


 そんなものは御構い無しい二人は争う。


 空中から弾丸、地面から弾丸、水中から弾丸。

 紫色の混濁した空間から放たれる様々な弾丸は夜見を追い詰める。だが、黒化した夜見はそれら全てを切り落とす。

 師匠は一歩も動かず、ただ夜見が戻ってくれることを祈り技を解かない。


「夜見、聞こえないのか!! なぜ耳傾けない。美穂は死んだ。それは事実だ。受け止めて前に進め!!」


 返事はない。目は真っ赤に染まり過ぎた場所には赤い閃光がキラリと走る。


 暗殺者のようなそれは見るものを恐怖に陥れる。



「夜見! 目を覚ませ……美穂は死んだ。死んでしまったんだ!! お前まで失ったら俺は……」



「ガァァァァァァァォォ!!!!」



 もはや人の言葉すら理解する事は叶わず、獣のようにただ吠えて、愛刀を乱雑に振るうのみ……。


 そこに救いはなく、だだの一つの救済もありはしない。


 銃弾による傷跡も時間経過とともに増え、それでもなを『敵』と見なしたものを殺すまでその刀を振るうのだ。


 血を求めて、振るわれる刀は喜ばしいのか赤く、赤く脈を打つ。

 木々を軽くなぎ倒し、あたり一帯を更地にする。



 ドパッン!


 心滅の弾丸が心臓に突き刺さる。


 口からは大量のどす黒い血。ニタリと鬼の形相で笑みを浮かべる。


「クソが、体までもう鬼化していると言うのか。どこまでもふざけた再生能力と耐久力の高さだこと……本当に殺さなくてはいけなくなるのか」


 何度訴えかけようとも、夜見には届く気配はない。



「夜見ちゃん! 目を覚まして」


 戦闘音を聞きつけクレアが山を登ってきた。


「クレア! 何しに来た。死にたいのか!!」


 額に汗を流し、師匠は吠える。


「こんな時に何もできないなんて、親の所業じゃないわ。子を救ってこその親、この願いを聞届けるのも親。子を守ってこその親……でしょ!!」


「だが……」


「それに、美穂ちゃんが死んでしまったのだって私が悪いんだもの。これくらいのことをしてあげないと夜見ちゃんは戻らない。あの子はもう戻ってこれないかもしれない」



 食い下がる気配のないクレアは拳を握りしめて、再度とう。


「夜見ちゃん、貴方は間違っていない。美穂ちゃんは貴方に殺して欲しかった。それは間違いじゃない。あの子は救われるためにあなたに懇願したのよ。あの子の意思と、あの子の思いを踏みにじってはダメ。あなたは美穂ちゃんを苦しみから解放してあげたのよ。だから、逃げちゃダメ……あの子の分までしっかりと生きて供養してあげてこそお姉ちゃん……でしょ!!!」



 声を荒げ、祈るように夜見に問いかける。


 剣撃が止まり、赤く染まった目から水色の涙が流れ始める。


 壊れかけていた夜見の心……いや、もう壊れていたのかもしれない。自暴自棄になり、全てがどうでもよくなり、死んでも構わないと。あの時出会わなければよかったと、自身は何も救えないと、

 このまま師匠に鬼として退治されていればどれだけ幸せだったか……。



 だけど、それは『逃げる』事と一緒……そう、クレアが言った。




 そう、思うと涙が溢れてきた。

 とめどなく、止めることも、拭くこともせず、ただ立ち尽くし天を仰ぎ泣いた。



 暖かいいい匂いがした。


 前を向くとクレアが私を優しく抱いていた。


 背中をさすり、自身も涙を零しながら泣いていた。

 美穂を失った境遇は一緒なのに、壊れず、暴れず、絶望せずに一緒に泣いてくれた。


『私に関わるとその人々は不幸になる』


 そんな言葉が夜見の脳裏を焦がすのだ。


「師匠……私はどうしたら良かったんですか?」


 ツノは消え、赤くなっていた目は次第に白くなっていく。

 焼けかけた肌はいつもの肌に戻る。


 銃弾は体から弾き出され、地面に煙を上げて転がっている。


 銃をその場に捨て、安堵した表情で師匠は夜見を抱きしめたい。


「取り敢えず、美穂のお墓を作ってあげよう……」

「うん……」






 ◇



 気が回復し普段通りに動けるようになった2日目の昼ごろ。


 ひざ下くらいに積まれた拳大の石が家の隅にひっそりと佇んでいた。



 ラベンダーをそっと置いて手を合わせる。


「美穂ちゃん……ごめんねーー」


 申し訳程度に置かれたお供え物のお饅頭には雨水が垂れていた。




「夜見、お昼ご飯だそ……。手を洗ってきなさい」

「はい、師匠!」



 傍に挿してある刀は淡く赤く光るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ