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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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久方ぶりの更新

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 美穂がクレアさんに連れていかれてから数時間が経った。

 その間私はお茶を飲んだり、お菓子を食べたりして時間を潰したりしていた。


「学校か〜……緊張、しちゃうな。ふふ友達とか出来るかな?」


 少し大きめの椅子に腰掛け足をプラプラさせ楽しそうに胸を張る。



 時刻はおよそ十九時にさしかかろうとしている時間帯。昼ごはんを食べてからかなりの時間が経ちそろそろお腹がすいていきたい時間帯だ。

 小部屋からはまだ話し声が聞こえる。多分まだお話は続くかもしれない。


 小腹が空いてきたので冷蔵庫に入っている昼ごはんの残りを取り出し一人で食事を済ませていた。




 ギィギィ


 小部屋の扉がゆっくりと開き美穂が出てきた。その様子はどこか上の空で目は虚。いつものような元気はなく、心ここに在らず……と言った所だろうか?


 急いで駆け寄り、肩を揺する。

「美穂ちゃんどうしたの? 何があったの?」


「何でもないよ……うん。何にもない」

 その言葉に何か引っかかる気がした。いつも辛いことや悲しいことがあるとすぐ私の胸に飛び込んできて「あのね、あのね」と問いかけてくるあの姿ではないのだ。


 美穂をソファーに寝かせ小部屋に足を踏み入れた。


「師匠、美穂に、美穂に何をしたんですか!!」

「…………夜見か。何の用だ?」


 暗い部屋、うっすらと香る線香の香り。


 青白くひかる師匠の目をじっと見据えた。


「美穂になにをしたんですか?! あの様子だと絶対に何かあったに違いないはずです」

 口を尖らせ強い口調で問いかけるが師匠はそれを受け流し、くらい部屋にタバコの煙を充満させる。


「夜見、もう寝ろ……明日になったら分かる。それまでは寝ろ……いまらお前にできるのはそれだけだ」


 不服……まさにそれだ。

 師匠は私に隠し事が多い気がする……。


 あの時も、私になにも言わずにあのあの場に置いていった。そして、今回も……。



「またそうやってはぶらかすんですね……卑怯です」

「…………それで、結構だ」


 横を向きため息を落とした。

 何かをためらっているような気もしたが、子供の私にはまだ分からなかった……。


「夜見ちゃん……まだここいたの? 夜も遅いから布団に入りなさい」


 ドア付近に立っている私を見つけクレアさんが私を呼び止め、部屋へ行くように促した。


 クレアさんの手前、無視するわけにもいかず渋々言うことを聞くが、その顔は怒っていた。

 それを諸共せず師匠は自室へと戻っていった。





 ◇


 ふかふかのベッドからは太陽の匂いがした。いつもクレアが天日干ししていてくれるお陰で快眠が得られる。


「あなた……あの子ほんとうに良かったの?」

「……仕方ない、見つかってしまったものは。それに直すこともできるかもしれないんだ。あのキチババアも言っていたことだしな」


「でも……」

 目を伏せ、クレアはあからさまに不機嫌な顔になる。

「分かってくれ……これも夜見の為。しいては師の願いでもあるんだ。こんな所で挫けてクヨクヨするなんて俺らしくないだろう?」


 ため息を落とし、クレアはなにかを考え込むように小さくなんども首を縦に振る。

「わかりました……そうですね。あの人の願いなら叶えなきゃいけないんですものね」



 唇を噛み師匠は眠れぬ夜を過ごすことになった。






 日が開け、軒先に飼っている鶏がけたたましく鳴いた。

 目をこすり、少し分厚くなってきた布団を下へずらし上体を起こした。


 昨日の件もあり体がゾクゾクして妙に寝付きの悪かった夜見はまだ重たい瞼をいまだに擦り、手洗い場へと向かった。


 洗面台へ行きまだ眠い顔に冷たい井戸水をぶちまける。

 ひんやりとした引き締まったみずが顔の汚れを軽く落とし、身を引き締めてくれる。

「お姉ちゃん……おはよ〜」

 背には美穂がいるのかまだ、朧げな覇気のない声で朝の挨拶をいうのであった。

 横目で読みを見ると、頭の頭上、正確に言うと額より少し上ら辺になにか盛り上がりがあるのが分かった。


「……てへへ、お姉ちゃん全然気がつかないんだもんな……あんなに鬼を倒してるのに私が鬼になってるって全然気がつかないんだから面白くって…………」


 夜見の目から涙がこぼれた。


「……あ、ぁあぅ〜」


 声にならない声を出し、ゆっくりと歩いてくる美穂に抱きつかれるまで、夜見は動けなかった。いや、動こうとしなかった。


「ど、どうして……」


「お姉ちゃん……人が鬼になるなんて簡単な事なんだよ。それはね、」


 コンコン……


 洗面台の戸がノックされ、鏡から様子を伺う何処か暗い表情の師匠がいた。


「そういうことだ」と……そんなことを言いたげな顔をし、目を伏せていた。

 

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