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夜見は深い眠りについていた。
目を開けると暗い暗い部屋だ。
手を四方に向けて伸ばしてみるが何もない。
天井が少し青みがかっているような気もした。
体が痒くて、でもかけない。体が動かないのかと再度手を振ってみる。感覚はある、だが感触はない……。見えないのだから手があるのかどうかもわからない。もし仮になかったとしてもいまみたいな状況になるのだろう。
黒い青の天井をぼんやりと眺めていた。
それが天井なのか、曖昧とした視覚情報ではあったが今はそれに頼らざる得ない。
これ程まで人は光に頼っているのかと思うと、人に嫌気がさす。
横になることにした。いや、今のこの状況が横になっているのであってこれから横になろうとすることが立つことなのではないのか?
訳が分からなくなる。頭の中は常に真っ白。
手も足も出ない。
だが不思議と恐怖はない。あるのは虚無感と気概間の二つだろう。
まるで、深海に生える昆布になったような気分だ。
はは……少し笑ってみた。
何も聞こえない。口に出したはずなのに何も聞こえない。
そうか、耳もないのか。今見えているこの景色は見ているものなのだろうか? 又は絵空事か?
それとも、夢なのだろうか?
検討もつかない。
◇
家に連れてこられた夜見の体は傷だらけになっていた。ところどころから出血しみたこともないような打痕、重圧を全身にかけられたかのような骨の軋み、訳の分からない言葉を小さく夜見の口……。
まだ、ナマナリから完全に救えたわけではない。むしろこれからが本当の勝負といったところだ。
「カレン、カレンいるか?」
「いるわよ……ウヘェ、なに? この匂い。腐乱臭みたいな匂いがするわ?」
「済まないが緊急だ。おれが今から言うものをおれの部屋から持ってきてくれ」
「ええ。わかったわ」
カレンはポケットからメモを取り出し、師匠から告げられる医療道具、呪詛式、筆、和紙を紙に書き、急ぎ足で部屋へと向かった。
額から生えているアメジスト色の可愛らしいツノはゆっくりとではあるがニョキニョキと遅いタケノコのように伸びてくるのがわかる。連れて来る前は三センチ程だったのに対し今では五センチもある。明らかに伸びているのがわかる。
「持ってきたわ」
軽く息を切らしているカレンから道具一式を貰い受け早速手術をする。といっても名ばかりのままごとみたいなものだ。
用意された道具一式……メス、ハンマー、ノミ、上げたらそれくらいなのだが、師匠はそれを見るなりハンマーとノミを取り出し夜見の頭に生えているアメジスト色のツノを根本からへし折った。
折られたツノはパット出された。
折られてもなをキラキラと輝くそのツノは妖艶な光を放っていた。
「お札は用意してあるか?」
「はい、ここに」
用意されたお札には様々な呪詛が施されていた。特に効果のある呪詛はやはり三叉の蛇の絵だろう。
その目からは力強いなにかを感じえない。
お札を受け取るたツノの生えていた場所に貼る。ビリビリと紫色の閃光を飛び散らせながら、ゆっくりとではあるが夜見の体から出ている紫色の煙が止まって行く。
「とりあえずこれで……」
一息をはく……。
これで眠らせれば明日には……果たして明日は来るのだろうか?




